事故原因が不明な場合のフォワーダーの対応方針

概要

貨物事故では、発見時点で事故原因が明確に分かるとは限りません。貨物が壊れている、濡れている、数量が足りないという事実は分かっていても、それがどこで、なぜ、誰の管理下で発生したのかが分からないことがあります。

フォワーダー実務で重要なのは、「原因が分からないから何もしない」のではなく、「原因不明の状態を管理する」ことです。原因不明のまま時間が経過すると、証拠が失われ、通知期限が過ぎ、サーベイ機会を失い、運送人やNVOCCへの求償が難しくなります。

本記事では、事故原因が不明な場合に、フォワーダーがどのように事実確認、証拠保全、関係者通知、保険会社対応、荷主説明を行うべきかを整理します。

「わからない」には三種類ある

事故原因が不明といっても、実務上は三つに分けて考える必要があります。

第一に、発生区間が不明な場合です。海上輸送中なのか、CFS作業中なのか、港湾荷役中なのか、国内配送中なのか、納品後の保管中なのかが分からない状態です。

第二に、損傷原因が不明な場合です。外力による破損なのか、梱包不備なのか、貨物固有の性質なのか、温湿度管理不良なのか、荷崩れなのかが分からない状態です。

第三に、責任主体が不明な場合です。事故原因や発生区間に複数の可能性があり、船会社、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者、配送会社、荷主のどこに責任があるのか整理できていない状態です。

この三つを混同すると、対応を誤ります。発生区間が不明なのに責任主体を決めようとしたり、損傷原因が不明なのに保険で出るかどうかを断定したりすると、後日の説明が難しくなります。

原因不明のまま時間が経過すると何が起きるか

事故原因が不明な場合でも、時間は止まりません。

貨物引渡し後の損害通知期限、B/L約款上の通知条件、運送人への出訴期限、貨物保険やフォワーダー賠償責任保険への事故通知、サーベイ手配の要否などは、原因が判明する前から問題になります。

時間が経過すると、貨物は移動され、梱包材は廃棄され、写真を撮る機会が失われ、コンテナは返却され、倉庫記録や配送記録の確認も難しくなります。

そのため、原因不明であっても、まず関係者へ権利保全通知を行い、証拠を残し、調査機会を確保する必要があります。

「原因が分かってから通知する」のでは遅い場合があります。原因不明だからこそ、先に通知し、調査の入口を確保するという発想が重要です。

最初にやるべきことは原因推定ではなく資料固定

原因不明の事故で最初に行うべきことは、原因を推測することではありません。まず、資料を固定します。

事故発見日時、発見場所、発見者、貨物状態、写真、動画、受領書、POD、デバン記録、入庫記録、配送記録、B/L、House B/LMaster B/L、Invoice、Packing Listを確保します。

この段階で、「船会社が悪い」「梱包が悪い」「配送会社のミスだ」と決めつけると、必要な資料の収集が偏ります。

原因不明の段階では、複数の可能性を残したまま、後で検証できる資料を広く確保することが重要です。

発生区間を絞り込む

次に、発生区間を絞り込みます。

輸出側で既に損傷していた可能性、海上輸送中に損傷した可能性、CFSやCYで損傷した可能性、国内配送中に損傷した可能性、納品後に損傷した可能性を順番に確認します。

FCL貨物であれば、コンテナ番号、シール番号、バンニング記録、デバン記録、コンテナ外観、内部写真が重要です。

LCL貨物であれば、CFS搬入記録、仕分け記録、Co-load先の記録、輸入CFS搬出記録、配送会社の引取記録が重要です。

発生区間が絞れない場合でも、「どの区間の可能性が高いか」「どの区間は可能性が低いか」を整理するだけで、荷主説明や保険会社対応は大きく進みます。

損傷原因を絞り込む

発生区間と並行して、損傷原因を確認します。

破損であれば、外装打痕、荷崩れ、固定不足、落下、衝撃、荷役ミスなどを確認します。濡損であれば、海水、雨水、結露、コンテナ床面からの水分、梱包内湿気などを確認します。

錆、カビ、変色、臭気移り、品質劣化の場合は、貨物固有の性質、梱包不備、出荷前状態、温湿度管理、輸送期間、保管状況を確認します。

原因不明のまま「輸送中事故」と表現すると、後で梱包不備や貨物固有の性質が判明した場合に修正が難しくなります。

初期段階では、「輸送中に発見された損傷」「納品後に確認された異常」「原因調査中の損害」といった表現にとどめる方が安全です。

関係者への通知は原因不明でも行う

原因が分からない場合でも、関係者への通知を検討します。

運送人、NVOCC、船会社、CFS、倉庫業者、配送会社、海外代理店、保険会社など、関係する可能性のある相手に対して、権利保全のための通知を行うことがあります。

通知では、責任を断定しないことが重要です。

例えば、「損傷が発見されたため、現時点で原因および発生区間を調査中です。権利保全のため通知します」という形にします。

原因不明で通知することは、相手を責めることではありません。後日の調査機会を確保するための実務対応です。

荷主への説明方法

荷主は、事故原因が不明な場合でも早い回答を求めることがあります。

このとき、フォワーダーは「分かりません」で終わらせてはいけません。一方で、分からないことを分かったように説明してもいけません。

実務上は、次のように説明します。

「現時点では発生区間と損傷原因は確定していません。まず、受領記録、写真、POD、デバン記録、配送記録、保険会社への通知要否を確認し、可能性を整理いたします。」

「原因不明の段階で責任を断定することはできませんが、関係者への通知と証拠保全を先行して行います。」

「調査結果に応じて、運送人、NVOCC、配送会社、保険会社への対応方針を整理します。」

このように、原因不明であることを認めつつ、何を確認しているのかを具体的に伝えることが重要です。

運送人・NVOCCへの通知文例

運送人やNVOCCへ通知する場合は、責任を断定せず、調査中であることを明示します。

日本語では、次のような表現が使えます。

「本件貨物について損傷が確認されました。現時点では発生区間および原因は調査中ですが、権利保全のため通知いたします。関係する配送記録、搬出入記録、取扱記録の保全をお願いいたします。」

英文では、次の表現が実務上使いやすいです。

We hereby notify you that damage to the subject cargo has been reported. The cause and place of occurrence are currently under investigation. We reserve all rights and request that you preserve all relevant records.

さらに慎重に書く場合は、次のようにします。

This notice is issued for the purpose of preserving our rights and shall not be construed as an admission of liability or as a determination of the cause of loss.

原因不明の段階では、断定しない文言が重要です。

保険会社への説明方法

貨物保険やフォワーダー賠償責任保険が関係する場合、保険会社へも原因不明のまま事故一報を行うことがあります。

保険会社へは、原因を断定せず、現時点で確認できている事実と未確認事項を分けて伝えます。

例えば、「納品後に損傷が発見された」「外装に軽微な打痕がある」「受領書にリマークはない」「開梱写真は取得済み」「サーベイ要否を確認したい」といった形です。

原因不明の段階で保険会社へ通知することは、保険金請求を確定することではありません。サーベイ手配、証拠保全、求償可能性の確認を早期に行うための入口です。

どこまで調査すれば原因不明として処理してよいか

すべての事故で原因が明確に判明するわけではありません。

一定の資料を確認しても、発生区間や原因を特定できない場合があります。その場合は、原因不明として整理する判断も必要です。

ただし、原因不明として処理する前に、最低限確認すべき事項があります。

  1. 出荷時資料、B/LPacking List、Invoiceを確認したか
  2. 受領書、POD、デバン記録、入庫記録を確認したか
  3. 写真、動画、サーベイ資料を確認したか
  4. 関係者へ通知し、記録保全を求めたか
  5. 貨物保険・賠償保険への通知要否を確認したか
  6. 運送人・NVOCC・配送会社・倉庫業者の回答を確認したか
  7. 損害額と調査費用のバランスを確認したか

これらを確認したうえでなお原因が特定できない場合は、「原因不明」として処理し、保険対応、和解、社内負担、請求断念などを経営判断として検討します。

重要なのは、何も調べずに原因不明とするのではなく、確認した範囲と確認できなかった範囲を記録に残すことです。

具体例:濡損原因が特定できなかったケース

輸入FCL貨物の納品後、荷主から「一部カートンに濡れ跡がある」と連絡が入りました。受領書にリマークはなく、納品当日は外観異常の申告もありませんでした。

フォワーダーは、納品後すぐに荷主へ写真提供を依頼し、コンテナ番号、シール番号、デバン記録、配送記録、コンテナ外観写真を確認しました。

写真では一部カートンに濡れ跡がありましたが、コンテナ外壁や天井に明確な水漏れ痕は確認できませんでした。床面の濡れも限定的で、海水濡れか、結露か、納品後保管中の水濡れかを直ちに判断することはできませんでした。

フォワーダーは、船会社と配送会社へ権利保全通知を行い、保険会社へも事故一報を行いました。サーベイ要否を確認したうえで、荷主に対しては「原因および発生区間は調査中であり、現時点で責任主体は確定していない」と説明しました。

その後、サーベイでも明確な外部水濡れ原因は確認できず、保管状況や梱包内湿気の可能性も残りました。最終的には、運送人責任を明確に追及するだけの証拠は不足していると整理され、貨物保険対応と社内記録を中心に処理されました。

このケースでは、原因が最後まで特定できなかったこと自体が失敗ではありません。重要だったのは、原因不明の段階でも通知、証拠保全、保険会社への一報を行い、後日説明できる記録を残したことです。

まとめ

事故原因が不明な場合、フォワーダーは「分からない」と放置するのではなく、「何が分からないのか」を分類する必要があります。

発生区間が不明なのか、損傷原因が不明なのか、責任主体が不明なのかによって、確認すべき資料と通知先は変わります。

原因が判明する前でも、通知期限、証拠保全、サーベイ機会、保険会社への事故一報は進めなければならない場合があります。

原因不明の事故対応では、断定を避けつつ、記録を集め、関係者へ通知し、調査した範囲を残すことが重要です。最終的に原因不明として処理する場合でも、その判断に至る過程を説明できる状態にしておくことが、フォワーダー実務では重要になります。

同義語・別表記

  • 事故原因不明
  • 原因不明クレーム
  • Unknown Cause Claim
  • 原因調査
  • 責任主体不明