協会戦争解約約款 INSTITUTE WAR CANCELLATION CLAUSE (CARGO)
協会戦争解約約款とは
協会戦争解約約款(Institute War Cancellation Clause (Cargo))とは、貨物保険に付帯される戦争危険の補償について、保険者又は被保険者が、約款で定められた予告期間を置いて解約できることを定める条項です。
通常の貨物保険で問題となる破損、濡損、火災、盗難等と異なり、戦争危険は、政治情勢、軍事情勢、武力衝突、港湾又は海峡の緊張、経済制裁、航路変更等により、短期間で危険度が大きく変化します。
ある海域の危険が急激に高まった場合、同一地域を航行する多数の船舶及び貨物へ同時に損害が発生する可能性があります。保険者にとっては、個別事故だけでなく、多数の契約へ同時に損害が及ぶ集積危険が問題になります。
そのため、戦争危険については、通常の貨物条件とは別に、7日前通知等の比較的短い予告期間で補償を解約し、必要に応じて新しい料率、航路条件、通知義務又は追加保険料によって再付保する仕組みが設けられます。
ただし、解約通知が出されたからといって、既に保険責任が開始している貨物や、解約効力発生前に危険が開始した貨物が、当然に無保険になるわけではありません。
実務では、解約通知日、解約効力発生日、保険責任開始時点、船積日、事故発生日、航路、危険海域通過予定及び再付保承認の有無を分けて確認する必要があります。
予告期間、解約の効力及び既に開始した危険への影響は、実際に契約へ組み込まれた条文によって異なります。一般的な「7日前通知」という説明だけで判断せず、保険証券及び付帯約款の全文を確認することが重要です。
この記事で扱う範囲
本記事では、協会戦争解約約款の基本的な役割、予告期間の意味、解約通知前後の貨物の扱い、再付保、JWC Listed Areasとの関係、航路変更及び荷主・フォワーダーが確認すべき事項を整理します。
戦争危険そのものの担保範囲、ストライキ危険、通常の貨物危険及び個別事故の保険金支払判断については、各関連約款及び実際の契約条件を併せて確認する必要があります。
| テーマ | 本記事で扱う内容 | 詳しく確認すべき関連テーマ |
|---|---|---|
| 協会戦争解約約款 | 戦争危険を一定の予告期間で解約する仕組みと、その効力を整理する | 本記事 |
| 協会戦争約款 | 戦争、内乱、敵対行為、拿捕、機雷等の戦争危険そのものの担保範囲を確認する | 協会戦争約款、Institute War Clauses |
| 協会ストライキ約款 | ストライキ、暴動、騒擾、テロ、政治的行為等の担保範囲を確認する | Institute Strikes Clauses、戦争危険とストライキ危険 |
| 通常危険 | 戦争危険が解約されても、通常のInstitute Cargo Clausesが当然に終了するわけではない点を確認する | 貨物海上保険の補償範囲 |
| 高リスク海域 | JWC Listed Areasその他、追加保険料又は条件変更の対象となる地域を確認する | Joint War Committee、Listed Areas |
| 再付保 | 解約後の新料率、追加保険料、航路条件、通知義務及び個別承認を確認する | 戦争保険料、追加保険料、再付保 |
| 航路変更 | 危険海域回避、寄港地変更、船会社変更及びDeviationとの関係を整理する | Deviation、航路変更 |
| 事故時の確認 | 事故日、事故場所、保険責任開始時点及び解約効力発生日を照合する | 保険期間、事故通知、サーベイ |
なぜ戦争危険には特別な解約条項が必要になるのか
戦争危険は、一般的な輸送中の水濡れ、破損、盗難又は荷役事故とは性質が異なります。
ある地域で武力衝突が発生した場合、港湾、海峡、航路、空港又は周辺海域を利用する多数の貨物へ、同時に影響が及ぶ可能性があります。
戦争、敵対行為、拿捕、封鎖、機雷、ミサイル攻撃等は、個別貨物の取扱不備ではなく、地域全体又は航路全体へ影響する危険です。
保険者が当初の料率及び条件のまま引受けを継続すると、短期間に多数の契約について巨額の損害が発生する可能性があります。
協会戦争解約約款は、このような急激な危険変化に対応し、保険者又は被保険者が、戦争危険の補償を一定の予告期間で終了又は見直すための条項です。
被保険者側にとっても、解約通知は、単に補償終了を知らせるものではありません。再付保、追加保険料、航路変更、出荷延期、船会社変更及び売買契約上の対応を検討する契機となります。
通常の貨物保険との違い
協会戦争解約約款は、貨物保険契約全体を一律に解約する条項ではなく、主として戦争危険に関する補償の解約を取り扱う条項です。
| 区分 | 主な対象 | 解約通知との関係 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 通常危険 | 破損、濡損、火災、盗難、不着、荷役事故等 | 戦争危険の解約通知によって当然に終了するとは限らない | Institute Cargo Clausesによる通常危険の補償が継続するかを確認します。 |
| 戦争危険 | 戦争、内乱、敵対行為、拿捕、封鎖、機雷、魚雷等 | 協会戦争解約約款による解約通知の対象となり得る | 解約通知日、効力発生日及び保険責任開始時点を確認します。 |
| ストライキ危険 | ストライキ、暴動、騒擾、労働争議、テロ、政治的行為等 | 戦争危険とは別の約款又は解約条件が適用される場合がある | 戦争危険とストライキ危険を混同しません。 |
| 高リスク海域通過 | JWC Listed Areasその他の高リスク地域 | 解約、追加保険料、航路制限又は事前通知の対象となり得る | 対象航路、通過日、船積日及び保険者承認を確認します。 |
荷主へ説明する際には、「貨物保険全体がなくなる」のか、「戦争危険のみが解約される」のかを明確に区別する必要があります。
関連する協会約款・制度との関係
協会戦争解約約款は、戦争危険そのものの担保範囲を定める約款ではありません。戦争危険の担保内容、通常危険、ストライキ危険及び高リスク海域情報は、それぞれ別の条件又は情報として確認します。
| 約款・制度 | 主な役割 | 協会戦争解約約款との関係 | 確認上の注意点 |
|---|---|---|---|
| Institute Cargo Clauses | 破損、濡損、火災、盗難等の通常貨物危険の担保範囲を定める | 戦争危険が解約されても、通常危険が当然に終了するとは限りません。 | ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)の適用条件及び免責を別に確認します。 |
| Institute War Clauses (Cargo) | 戦争、内乱、敵対行為、拿捕、機雷等の担保範囲及び保険期間を定める | 協会戦争解約約款によって解約される対象となる戦争危険の内容を確認します。 | 解約条項だけでなく、戦争約款の保険期間及び担保危険を確認します。 |
| Institute Strikes Clauses (Cargo) | ストライキ、暴動、騒擾、テロ、政治的行為等の担保範囲を定める | 戦争危険とは別の条件として付保又は解約される場合があります。 | 戦争危険解約通知がストライキ危険にも及ぶかを通知文で確認します。 |
| Institute War Cancellation Clause (Cargo) | 戦争危険を一定の予告期間で解約する方法及び効力を定める | 本記事の中心となる条項です。 | 予告期間、通知方法、効力発生及び既開始危険の扱いを条文で確認します。 |
| JWC Listed Areas | 市場実務上、高リスクと評価される海域又は地域を示す | 解約、追加保険料、事前通知又は航路条件の見直しの契機となることがあります。 | Listed Areas自体は保険約款ではなく、実際の引受条件は保険者へ確認します。 |
| Deviation・航路変更 | 当初予定した航路又は寄港地を変更する場合の輸送・保険上の取扱いを整理する | 危険海域回避のために変更しても、保険者への通知又は追加条件が必要となる場合があります。 | 安全上の航路変更と保険条件上の承認を別に確認します。 |
| 再付保・個別承認 | 解約後の新条件、新料率及び追加保険料による戦争危険の再設定 | 従来条件終了後の新規貨物へ戦争危険を付け直す方法となります。 | 対象貨物、航路、船舶、期間及び承認時点を確認します。 |
7日前通知の意味
貨物保険の戦争危険では、解約通知から一定期間が経過した後に解約の効力が発生する形が一般的であり、実務上は7日前通知が重要な確認点となります。
7日前通知は、通知と同時に補償が直ちに消滅するという意味ではありません。
予告期間を置くことにより、既に航海中の貨物、船積み予定の貨物及び危険海域を通過する予定の貨物について、補償の継続範囲、再付保、追加保険料、航路変更又は出荷延期を検討する時間が設けられます。
もっとも、7日間は国際輸送実務では長い期間ではありません。航海中の船舶が7日以内に安全海域へ到達するとは限らず、積替え、港湾混雑又は航路変更によって予定が変わることもあります。
解約通知を受けた場合は、通知日だけでなく、次の時点を貨物ごとに整理します。
- 解約通知が発行された日時
- 通知が到達した日時
- 解約の効力が発生する日時
- 貨物の保険責任が開始した日時
- 船積日又は出港日
- 高リスク海域を通過する予定日時
- 事故が発生した日時
- 再付保又は追加保険料が承認された日時
時刻が問題になる場合は、通知書記載の基準時刻、保険者所在地の時刻、船積地の時刻及び事故地の時刻を確認し、同一のタイムゾーンに換算して整理する必要があります。
解約通知前の貨物と解約通知後の貨物
| 区分 | 対象となる貨物 | 戦争危険補償の見方 | 確認事項 | 実務対応 |
|---|---|---|---|---|
| 解約通知前に保険責任が開始している貨物 | 既に船積み済み又は適用約款上の危険が開始している貨物 | 解約通知後も、既に開始した危険について一定範囲で補償が継続する場合があります。 | 保険責任開始日、船積日、航海日程、現在位置、戦争約款の保険期間 | 対象貨物一覧を作成し、継続範囲を保険者へ確認します。 |
| 通知後、効力発生前に保険責任が開始する貨物 | 予告期間中に船積み又は輸送開始する貨物 | 従来条件が適用されるか、新条件又は追加保険料が必要かは個別確認が必要です。 | 船積予定日、危険開始日、解約効力発生日、引受条件 | 船積み前に保険者の書面確認を取得します。 |
| 解約効力発生後に新たに開始する貨物 | 解約効力発生後に船積み又は危険開始する新規貨物 | 従来の戦争危険条件では付保されない可能性があります。 | 出荷予定、航路、危険海域、再付保条件 | 再付保、追加保険料、航路変更又は出荷延期を検討します。 |
| 船積み前で保険責任が開始していない貨物 | 倉庫保管中又は出荷準備中で、戦争約款上の危険が未開始の貨物 | 従来条件が適用されない可能性があります。 | 保険期間の始期、保管中担保、新条件の有無 | 戦争危険の新規引受可否を事前に確認します。 |
| 航路変更後の貨物 | 危険海域を避けるため、航路、船会社又は寄港地が変更された貨物 | 変更後の航路へ戦争危険が有効か、追加保険料又は通知が必要かを確認します。 | 変更後航路、寄港地、危険海域、承認記録 | 変更前に船会社及び保険者へ確認します。 |
協会戦争解約約款の適用確認フロー
| 確認順序 | 確認する事項 | 主な確認資料 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|
| 1. 適用契約を特定する | 事故貨物又は出荷予定貨物に適用される保険証券、包括契約及び付帯約款を確認する | 保険証券、包括予定保険証券、専用通知書、付帯約款 | 旧年度又は別契約の解約通知と混同しません。 |
| 2. 解約通知の対象を確認する | 通知が戦争危険だけを対象とするか、ストライキ危険その他の条件にも及ぶかを確認する | 解約通知書、保険会社回答 | 貨物保険全体の解約と誤認しません。 |
| 3. 解約通知日と効力発生日を確定する | 通知日時、予告期間、効力発生日時及び基準タイムゾーンを確認する | 解約通知書、約款全文、受信記録 | 日付だけでなく、必要に応じて時刻まで確認します。 |
| 4. 対象貨物を時点別に分類する | 航海中、船積み済み、予告期間中の船積み予定、効力発生後の新規貨物に分ける | B/L、Booking、出荷予定表、保険通知 | すべての貨物を一律に扱いません。 |
| 5. 保険責任開始時点を確認する | 各貨物について戦争危険の保険責任がいつ開始したかを確認する | Institute War Clauses、B/L、危険開始記録 | 船積日と保険責任開始時点が常に一致するとは限りません。 |
| 6. 航路及び危険海域通過を確認する | JWC Listed Areasその他の高リスク地域を通過するか、通過予定日を確認する | 船会社情報、本船動静、航海日程、航路図 | 解約効力発生日との先後関係を確認します。 |
| 7. 事故発生時点及び事故原因を確認する | 事故がいつ、どこで発生し、戦争危険に該当する原因によるものかを確認する | 事故報告、船会社通知、サーベイ、当局資料 | 事故発生日と事故発見日を区別します。 |
| 8. 再付保・追加保険料を確認する | 新条件、追加保険料、航路制限又は事前通知が承認されていたかを確認する | 保険会社回答、承認メール、追加保険料請求 | 口頭回答だけでなく、書面記録を確認します。 |
| 9. 通常危険及び他の約款を確認する | 戦争危険以外のInstitute Cargo Clauses又はInstitute Strikes Clausesが適用されるかを確認する | 基本約款、ストライキ約款、事故原因資料 | 戦争危険の対象外であることと、貨物保険全体が対象外であることは同じではありません。 |
| 10. 保険者へ照会し記録を保存する | 継続補償、再付保、追加保険料及び支払可否を整理して照会する | 貨物一覧、時系列、航路資料、質問事項 | 補償の有無を荷主又はフォワーダーが独自に断定しません。 |
実務で問題になりやすいケース
| 場面 | 主な原因 | 判断のポイント | 確認資料 | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 予告期間中に貨物が船積みされた | 出荷予定を変更できなかった、通知の社内共有が遅れた | 船積時点で従来条件が継続していたか、新条件が必要だったか | 解約通知、B/L、Booking、保険通知 | 船積日と効力発生日を整理し、保険者へ書面確認します。 |
| 航海中貨物が効力発生日後に危険海域へ入った | 航海日程の長期化又は港湾混雑 | 既開始危険への補償継続範囲と、危険海域通過日の関係 | Institute War Clauses、本船動静、航海日程 | 対象貨物及び通過予定を保険者へ通知します。 |
| 再付保交渉中に事故が発生した | 追加保険料又は条件の承認が未完了 | 新条件の契約成立時点と事故発生時点の先後関係 | 見積、承認メール、事故時刻、保険料記録 | 交渉経緯及び承認時刻を保存し、即時に事故通知します。 |
| 戦争危険解約を貨物保険全体の解約と誤認した | 通知文の読み違い又は社内説明不足 | 通常危険、戦争危険及びストライキ危険のどこまでが対象か | 解約通知、保険証券、各協会約款 | 対象危険を条項別に整理して荷主へ再説明します。 |
| JWC Listed Areasへの追加後も従来条件で出荷した | 航路情報の更新漏れ又は料率確認漏れ | 追加保険料、事前通知及び個別承認が必要だったか | 航路、Listed Areas情報、保険者回答 | 今後の出荷を一時確認し、対象貨物を抽出します。 |
| 危険海域回避のため航路が変更された | 船会社による運航変更又は安全上の判断 | 変更後航路に戦争危険、Deviation又は追加保険料の問題がないか | Booking変更、本船動静、保険者承認 | 船会社と保険者の双方へ変更内容を通知します。 |
| 荷主への解約通知の伝達が遅れた | フォワーダー又は代理店内の連絡漏れ | 出荷判断、追加保険料及び代替措置へどのような影響が生じたか | 通知受信記録、荷主連絡、出荷予定 | 遅延経緯を記録し、対象貨物と選択肢を直ちに説明します。 |
| 事故原因が戦争危険か通常危険か不明である | 爆発、火災又は港湾損傷の原因が確定していない | Institute War ClausesとInstitute Cargo Clausesのどちらが関係するか | 事故報告、当局資料、サーベイ、船会社通知 | 両方の可能性を留保して事故通知及び証拠保全を行います。 |
Joint War Committee・JWC Listed Areasとの関係
戦争危険の引受実務では、Joint War Committee(JWC)が公表するListed Areasが参照されることがあります。
Listed Areasは、戦争、海賊、テロ、政治的暴力その他の危険が高いと市場で評価される地域を示す実務上の情報です。
ある海域又は港湾が高リスク地域として扱われると、戦争保険料率、追加保険料、事前通知、航路条件、船舶条件及び引受可否に影響することがあります。
協会戦争解約約款は、Listed Areasそのものを定める条項ではありません。しかし、地域情勢の変化によって保険者が従来条件での引受けを継続できないと判断した場合、解約通知、条件変更又は再付保につながることがあります。
| 確認項目 | 実務上の意味 | 確認する内容 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| Listed Areas該当性 | 追加条件又は追加保険料の対象となる可能性を確認する | 航路、通過海域、寄港地、通過予定日 | 地域指定及び市場の取扱いは変動するため、出荷ごとに確認します。 |
| 戦争保険料率 | 航路及び地域情勢に応じた追加保険料を確認する | 保険者見積、適用料率、適用期間 | 船積み直前に料率が変更される場合があります。 |
| 通知義務 | 高リスク海域通過について事前通知が必要か確認する | 保険条件、通知期限、航路情報 | 通知漏れが事故時の争点になる可能性があります。 |
| 航路条件 | 特定海域、寄港又は船舶に制限があるか確認する | 船会社情報、航路変更、保険者承認 | 航路変更時には保険条件も再確認します。 |
戦争保険料率の変動と再付保
戦争危険は、地域情勢によって保険料率が短期間で大きく変動することがあります。
従来は低い追加保険料で引き受けられていた航路でも、武力衝突、攻撃、拿捕、封鎖、機雷、ミサイル攻撃又は海賊行為等の危険が高まると、追加保険料が急上昇する場合があります。
解約通知が出された場合でも、戦争危険の引受けが永久に不可能になるとは限りません。
保険者が従来条件を終了させた後、新しい料率、追加条件、航路制限、船舶条件及び通知義務を付して再付保を認めることがあります。
| 確認項目 | 確認する内容 | 確認先 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 再付保の可否 | 解約後も新条件で戦争危険を付保できるか | 保険会社、保険代理店 | 引受不可の場合は、航路変更又は出荷延期を検討します。 |
| 追加保険料 | 対象航路、対象貨物及び危険海域通過に対する追加保険料 | 保険会社、保険代理店 | 売買契約及び運送契約上の費用負担者を確認します。 |
| 適用条件 | 航路制限、寄港制限、通知義務、船舶条件及び適用期間 | 保険会社、船会社、フォワーダー | 条件と実際の航路・船積予定を照合します。 |
| 対象貨物の区分 | 航海中貨物、予告期間中の貨物及び効力発生後の貨物 | 荷主、フォワーダー、船会社、保険代理店 | すべての貨物を一律に同じ条件として扱いません。 |
荷主・フォワーダーが確認すべきこと
荷主又はフォワーダーが戦争解約通知を受け取った場合、通知文を保管するだけでは足りません。
対象となる貨物、航路、保険期間、解約効力発生日及び今後の出荷予定を早急に整理する必要があります。
| 確認タイミング | 確認内容 | 確認先・確認資料 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 解約通知を受領した時点 | 通知日、効力発生日、対象契約及び対象危険 | 解約通知書、保険証券、包括契約、保険代理店 | 戦争危険だけか、他の補償にも影響するか確認します。 |
| 対象貨物を抽出する時点 | 船積み済み、航海中、船積み予定及び倉庫保管中の貨物 | Shipping Instruction、B/L、Booking、出荷予定 | 貨物ごとの保険責任開始時点を整理します。 |
| 航路を確認する時点 | 危険海域又はListed Areasを通過するか | 船会社、本船動静、航路情報、寄港予定 | 通過予定日と解約効力発生日を照合します。 |
| 保険条件を確認する時点 | Institute War Clauses、追加保険料及び再付保条件 | 保険証券、付帯約款、保険会社回答 | 従来条件で継続できない場合は新条件を確認します。 |
| 今後の出荷を判断する時点 | 継続、延期、航路変更又は船会社変更 | 荷主、買主、船会社、保険会社、売買契約、L/C | 納期、費用、保険及び契約条件を併せて確認します。 |
| 荷主へ説明する時点 | 解約通知の意味、継続補償、追加保険料及び選択肢 | 保険会社回答、対象貨物一覧、航路資料 | 即時無保険又は貨物保険全体の解約と誤解させません。 |
航路変更・出荷延期との関係
戦争危険の解約通知又は高リスク海域指定を受けた場合、危険海域を避ける航路変更、特定港への寄港回避、出荷延期又は別船会社の利用を検討することがあります。
これらは安全上必要な対応となることがありますが、輸送日数、運賃、保険料、売買契約上の納期、L/C条件及び保管費用にも影響します。
| 対応策 | 確認する内容 | 保険上の注意点 | 実務対応 |
|---|---|---|---|
| 航路変更 | 変更後航路が戦争危険の対象地域を通過するか | 新航路でも追加保険料又は通知義務が必要となる場合があります。 | 船会社及び保険者の双方へ確認します。 |
| 出荷延期 | 情勢が落ち着くまで船積みを延期するか | 延期中の保管リスク及び貨物保険の始期を確認します。 | 売買契約、L/C、納期及び保管費用を確認します。 |
| 別船会社・別サービス | 危険海域を回避する運航サービスがあるか | 船会社変更により保険通知又は個別承認の訂正が必要となる場合があります。 | Booking、B/L及び保険通知を訂正します。 |
| 追加保険料による再付保 | 追加保険料を支払って戦争危険を継続できるか | 補償範囲、対象航路、適用期間及び条件を確認します。 | 費用負担者を荷主、買主又は売主間で確認します。 |
サーベイヤー・保険者との確認ポイント
| 確認項目 | 確認する内容 | 必要資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 解約通知 | 通知日、効力発生日、対象契約及び対象危険 | 解約通知書、保険証券、付帯約款 | 対象が戦争危険か、保険全体かを確認します。 |
| 保険責任開始時点 | 対象貨物がいつ戦争危険の保険期間に入ったか | Institute War Clauses、B/L、船積日、危険開始記録 | 解約通知前後で扱いが異なる場合があります。 |
| 事故発生時点 | 事故がいつ、どこで発生したか | 事故報告、船会社通知、サーベイ | 事故発生日と事故発見日を分けて確認します。 |
| 危険海域通過 | 貨物がどの時点で高リスク海域を通過したか | 本船動静、航海日程、AIS情報、船会社資料 | 解約効力発生日との先後関係を確認します。 |
| 再付保・追加保険料 | 新条件で戦争危険が有効に付保されていたか | 保険会社回答、追加保険料請求、承認記録 | 契約成立時点と事故発生時点を確認します。 |
具体例1:予告期間中に船積みされた貨物
保険者が1月1日に戦争危険の解約通知を発行し、解約効力発生日が1月8日であったとします。
荷主は、以前から予定されていた冷凍食品を1月5日に船積みしました。貨物は1月6日に出港し、1月12日に高リスク海域へ入る予定でした。
この場合、単に船積日が解約効力発生前であるという理由だけで、従来条件による戦争危険が全航海について継続すると断定することはできません。
まず、Institute War Clauses上の保険責任開始時点、協会戦争解約約款の条文、解約通知の対象契約及び予告期間中に開始した危険の扱いを確認します。
さらに、保険者が1月5日の船積みを従来条件で承認していたか、追加保険料又は新条件を提示していたか、荷主又はフォワーダーが必要な通知を行っていたかを確認します。
船積み前に保険者の書面確認を取得していなかった場合は、通知時系列、付保依頼、保険者回答及び保険料処理を整理し、補償の継続範囲を確認する必要があります。
具体例2:解約効力発生日と危険海域通過日の先後関係が問題になる場合
ある貨物は、解約通知が発行される前に既に船積みされ、航海中であったとします。
解約通知の効力発生日は3月10日でしたが、本船がJWC Listed Areasとして扱われる海域へ入ったのは3月12日であり、3月13日に武力攻撃による損害が発生したとします。
この場合、事故日が解約効力発生日後であるという事実だけで、直ちに戦争危険が終了していたと判断することはできません。
貨物について戦争危険の保険責任がいつ開始したか、既に開始した危険について解約後も補償が継続する条文構造となっているかを確認します。
また、危険海域への進入、航路変更、追加保険料又は事前通知に関する個別条件が付されていなかったかも確認します。
本船動静、AIS情報、事故報告、解約通知、戦争約款、保険者回答及び保険通知を同じ時系列に並べ、事故時点の補償状態を確認する必要があります。
具体例3:再付保交渉中に事故が発生した場合
解約通知後、保険者が新しい戦争保険料率及び追加条件を提示し、荷主とフォワーダーが再付保について交渉していたとします。
保険代理店は追加保険料の見積書を送付しましたが、荷主の承認返信及び保険料支払が完了する前に、対象貨物を積載した船舶が攻撃を受けたとします。
この場合、見積書が発行されていたという事実だけで、再付保契約が成立していたとは限りません。
保険者の提示が単なる見積りであったのか、引受承認を含む確定的な申込みであったのか、荷主又は被保険者がいつ承諾したのかを確認します。
追加保険料の支払が契約成立又は補償開始の条件であったか、承認メール、保険承認状又はシステム上の引受記録が存在するかも確認します。
事故時刻と承認時刻が接近している場合は、メール送受信記録、電話記録、見積書、請求書及び保険会社の引受記録を保存し、契約成立時点を慎重に整理する必要があります。
フォワーダー実務での判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認すること | 確認先・確認資料 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 解約通知受領時 | 通知日、効力発生日、対象保険及び対象危険 | 解約通知書、保険会社、保険代理店 | 通常危険まで解約されると誤認しないよう整理します。 |
| 対象貨物確認時 | 船積み済み、航海中、予告期間中及び効力発生後の貨物 | Booking、B/L、出荷予定、保険通知 | 貨物ごとに保険責任開始日と航路を確認します。 |
| 航路確認時 | 高リスク海域又はListed Areasを通過するか | 船会社、本船動静、航路、寄港地 | 通過予定日と解約効力発生日を照合します。 |
| 保険条件確認時 | Institute War Clauses、解約条項、追加保険料及び再付保条件 | 保険証券、付帯約款、保険会社回答 | 従来条件の継続又は追加手配の要否を確認します。 |
| 荷主説明時 | 解約通知の意味、対象貨物及び今後の選択肢 | 対象貨物一覧、航路資料、保険会社回答 | 即時無保険、保険全体解約又は再付保不能と断定しません。 |
| 今後の出荷判断時 | 出荷延期、航路変更、船会社変更又は再付保 | 荷主、船会社、保険会社、売買契約、L/C | 保険だけでなく納期、費用及び契約条件も確認します。 |
| 事故発生時 | 事故日、事故場所、効力発生日及び保険責任開始時点 | 事故報告、サーベイ、B/L、本船動静 | 解約通知と航海日程を照合して保険者へ照会します。 |
| 記録保全時 | 解約通知、保険者回答、荷主説明及び出荷判断 | メール、通知書、承認記録、社内記録 | 後日の説明及び責任切り分けに備えて保存します。 |
| 求償確認時 | 船会社その他の関係者への事故通知、責任及び期限 | B/L、事故通知、事故報告、サーベイ | 貨物保険の確認と並行して請求権を保全します。 |
| 賠償責任確認時 | 通知伝達、保険手配又は航路情報の取扱いにフォワーダー側の問題がなかったか | 荷主指示、保険依頼、メール、社内処理記録 | 貨物保険の支払可否とフォワーダー責任を分けて整理します。 |
よくある誤解
| 誤解 | 実務上の考え方 | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 7日前通知が出たら即時に無保険になる | 通常は予告期間満了後に効力が発生します。既に開始している危険の扱いも別に確認します。 | 通知日、効力発生日、保険責任開始日、船積日 |
| 戦争危険解約は貨物保険全体の解約である | 戦争危険、通常危険及びストライキ危険を分けて確認します。 | 解約通知、Institute Cargo Clauses、Institute War Clauses |
| 解約通知後は再付保できない | 新料率、追加保険料及び新条件によって再付保できる場合があります。 | 保険者回答、追加保険料、対象航路、承認記録 |
| 航海中貨物もすべて解約対象になる | 既に保険責任が開始している貨物は、一定範囲で補償が継続する場合があります。 | 船積日、危険開始日、戦争約款、効力発生日 |
| JWC Listed Areasに該当しなければ確認は不要である | Listed Areas以外でも、保険者が個別に料率又は条件を変更する場合があります。 | 航路、寄港地、保険者条件、戦争保険料率 |
| 航路変更すれば保険上の問題はなくなる | 変更後の航路でも、戦争危険、Deviation、追加保険料及び通知義務が問題となる場合があります。 | 変更後航路、保険者通知、承認、追加保険料 |
| 保険会社の通知は社内で保管すれば十分である | 対象貨物、船積日、航路及び今後の出荷予定を整理し、関係者へ説明する必要があります。 | 対象貨物一覧、荷主説明記録、保険者回答 |
| 見積書が発行されれば再付保は成立している | 見積り、引受承認及び契約成立は同じではありません。 | 承認メール、保険承認状、保険料条件、成立時刻 |
| 事故日が効力発生日後なら必ず補償されない | 既に開始した危険への継続補償及び再付保の有無を確認する必要があります。 | 危険開始日、事故日、解約条項、再付保記録 |
| 戦争危険で支払われなければ船会社にも責任はない | 貨物保険の支払可否と、運送人その他の関係者の賠償責任は別の問題です。 | B/L、事故原因、運送人責任、責任制限 |
保険会社・保険代理店へ相談すべき場面
- 解約通知の対象が戦争危険だけか不明な場合
- 予告期間及び効力発生日時の計算が不明な場合
- 予告期間中に船積み予定の貨物がある場合
- 既に航海中の貨物が効力発生日後に危険海域へ入る場合
- JWC Listed Areasその他の高リスク地域を通過する場合
- 新しい戦争保険料率又は追加保険料が提示された場合
- 航路変更、船会社変更又は出荷延期を検討する場合
- 再付保の契約成立時点又は適用条件が不明な場合
戦争危険は短期間で引受条件が変化するため、船積み又は危険開始前に書面で確認することが重要です。
海事弁護士へ相談すべき場面
- 解約通知の効力又は既に開始した危険への影響について見解が対立している場合
- 再付保契約の成立時点又は追加保険料条件が争われている場合
- 事故が戦争危険、ストライキ危険又は通常危険のいずれに該当するか争われている場合
- 危険海域通過、航路変更又はDeviationと保険条件の関係が問題になる場合
- フォワーダーによる解約通知の伝達遅延又は保険手配上の責任が争われている場合
- House B/L、Master B/L及び保険条件で準拠法又は管轄が異なる場合
- 運送人その他の関係者への通知期限又は出訴期限が迫っている場合
- 高額貨物又は複数コンテナの事故で、保険請求と求償を並行して整理する場合
海事弁護士への相談は、直ちに訴訟を開始するためだけではありません。解約の効力、保険期間、再付保、通知義務、証拠保全、求償先及び期限を整理し、請求権を失わないためにも有用です。
実務上のポイント
協会戦争解約約款は、戦争危険に関する貨物保険について、政治情勢及び地域情勢の急変に対応するため、一定の予告期間を置いて補償を解約できることを定める条項です。
実務上の中心は、戦争危険を通常の貨物危険と分けて管理し、既に開始している危険と今後開始する危険を区別することです。
解約通知を受けた場合は、通知日、効力発生日、対象契約、対象危険、保険責任開始時点、船積日、航路及び危険海域通過予定を確認します。
予告期間中に船積みされる貨物、航海中貨物及び効力発生後の新規貨物については、同じ取扱いになるとは限りません。
フォワーダーやNVOCCは、通知受領後直ちに対象貨物と航海予定を整理し、再付保、追加保険料、航路変更及び出荷延期の選択肢を荷主へ誤解なく説明する必要があります。
まとめ
協会戦争解約約款は、貨物保険の戦争危険について、保険者又は被保険者が一定の予告期間を置いて解約できることを定める条項です。
戦争危険は、政治情勢、軍事情勢、港湾・海峡の緊張、制裁又は航路変更によって短期間で大きく変化するため、通常危険とは別に、解約及び条件変更の仕組みが設けられています。
7日前通知等が出された場合でも、通知と同時にすべての貨物が直ちに無保険になるとは限りません。
実務では、解約通知日、効力発生日、保険責任開始時点、船積日、事故日、航路、危険海域通過予定及び再付保承認の有無を分けて確認します。
特に、既に航海中の貨物、予告期間中に船積みされる貨物及び効力発生日後に新たに開始する貨物は、区分して管理することが重要です。
JWC Listed Areasその他の高リスク地域を通過する場合は、追加保険料、事前通知、航路条件及び船舶条件が問題となることがあります。
解約後も、新しい料率及び条件によって再付保できる場合がありますが、見積りの取得と保険契約の成立は同じではありません。承認時点、適用貨物、航路、期間及び追加保険料を確認します。
フォワーダーやNVOCCは、戦争解約通知を単なる案内として処理せず、対象貨物一覧、航路情報、再付保条件、追加保険料及び荷主説明記録を保存する必要があります。
戦争危険の補償可否と、船会社、フォワーダーその他の関係者の賠償責任は、別の判断として整理することが基本です。
外航貨物海上保険は、保険料より条件で差が出ます。協会戦争解約約款、予告期間、戦争危険の継続、再付保、追加保険料及び高リスク海域の取扱いについては、専門の保険会社・保険代理店にご相談ください。
本記事は、協会戦争解約約款に関する一般的な貨物保険及び国際輸送実務を解説するものです。個別事故における戦争危険の担保、解約の効力、既に開始した危険への補償継続、再付保契約の成立、運送人責任、フォワーダー責任又は法的請求の成否を保証するものではありません。実際の判断では、保険証券、Institute War Clauses、Institute War Cancellation Clause、解約通知書、再付保承認、追加保険料、B/L、航路資料、事故通知、準拠法及び事故資料を確認し、保険会社、保険代理店、サーベイヤー又は海事弁護士へ相談してください。
同義語・別表記
関連用語
公式情報
- 公式ホームページ: https://marineinsurance.jp/
