Deviation Clauseと貨物保険の実務
概要
Deviation Clauseとは、予定された航路や通常の輸送過程から外れた場合に、貨物保険がどのように扱われるかを整理する考え方である。
なお、ここでいうDeviation Clauseは、独立した特別約款名ではなく、Transit Clause、Termination of Contract of Carriage、Change of Voyageなどの中で問題となる「離路・航海変更」の実務論点を指す整理上の呼称である。
国際輸送では、抜港、寄港地変更、積替、強制荷卸、港湾混雑、航海リスク回避、スケジュール変更などにより、当初予定された輸送経路と実際の輸送経路が異なることがある。このような場合に、貨物保険が継続するのか、保険会社への通知が必要なのか、追加条件が必要なのかが実務上の問題となる。
MIA1906上のDeviationの考え方
英国海上保険法上、航海保険では、保険証券で予定された航海や通常の航路から正当な理由なく離れた場合、保険者がその時点以降の責任を免れるという厳格な考え方がある。
特に、仕出港や仕向地が保険証券と異なる場合、危険が開始しないことがあり、危険開始後に仕向地が変更された場合には、航海の変更として保険者が責任を免れることがある。また、通常航路からの離路や不合理な遅延も問題となる。
つまり、伝統的な海上保険法の考え方では、Deviationは単なる航路変更ではなく、保険責任の有無に直結する重要な論点である。
ICC2009では実務救済型に整理されている
一方で、現代の貨物輸送では、船会社都合による航路変更、抜港、積替、強制荷卸、スケジュール変更は珍しくない。特にコンテナ輸送では、被保険者が直接コントロールできない事情により、当初予定と異なる輸送になることがある。
ICC2009の保険期間条項では、被保険者の支配し得ない遅延、Deviation、強制荷卸、再積込、積替、運送人に認められた自由裁量権に基づく輸送上の変更について、一定の範囲で保険が継続する考え方が示されている。
この点で、MIA1906の厳格な考え方に対し、ICC2009は現代物流に合わせた実務救済型の整理をしているといえる。
実務で問題になりやすい場面
Deviationに関連して実務上問題になりやすいのは、次のような場面である。
- 予定港が抜港され、別港で荷卸しされた場合
- 直行便予定だった貨物が途中積替になった場合
- 港湾混雑により中継港やCYで長期滞留した場合
- 航海リスクや戦争危険を避けるため航路が変更された場合
- 運送契約が途中で打ち切られ、別の港や場所で貨物が止まった場合
- 仕向地変更やBuyer変更により、当初予定と異なる場所へ転送された場合
これらは、単なるスケジュール変更ではなく、保険期間、保険終期、通知義務、追加保険料、保険条件変更と関係する場合がある。
Change of Voyageとの違い
Deviationは、予定された航路や通常航路から外れることを意味する。一方、Change of Voyageは、危険開始後に仕向地そのものが変更される場面を指す。
たとえば、予定された仕向地に向かう途中で寄港地が変更された場合はDeviationの問題となり得るが、貨物の最終仕向地自体が変更される場合はChange of Voyageの問題となる。
両者は近い概念であるが、実務では、航路変更なのか、仕向地変更なのかを分けて確認する必要がある。
フォワーダー実務での注意点
フォワーダー実務では、船会社から抜港、積替、遅延、仕向地変更、運送打切りなどの通知を受けた場合、単に荷主へETA変更を伝えるだけでは足りないことがある。
特に、貨物保険が付保されている場合には、次の点を確認する必要がある。
- 当初の保険証券または包括予定保険の仕向地と一致しているか
- 輸送が通常の輸送過程にあるといえるか
- 保険会社または保険代理店への通知が必要か
- 保険継続に追加保険料や条件変更が必要か
- リーファー貨物や食品など、遅延に弱い貨物で温度管理上の問題がないか
- 運送人への求償に必要な証拠を確保しているか
リーファー貨物・食品・医薬品では特に注意
Deviationや遅延は、通常貨物では単なる到着遅れで済む場合もある。しかし、冷凍・冷蔵貨物、食品、医薬品、化学品、展示品、プロジェクト貨物では、航海延長や中継港滞留が損害原因に直結することがある。
特にリーファー貨物では、電源不備、温度逸脱、再冷却、ドア開閉、データロガー記録などが重要な証拠となる。航路変更や積替があった場合には、温度記録や本船・CYでの取扱状況を早めに確認する必要がある。
実務上のポイント
Deviation Clauseは、単に「航路を外れた場合の条項」ではない。実務上は、保険期間、Held Covered、Change of Voyage、運送契約打切り、遅延、積替、強制荷卸、求償対応と連動する。
そのため、フォワーダーや荷主は、輸送経路に変更が生じた時点で、貨物保険の条件と保険会社への通知要否を確認することが重要である。
特に、被保険者側の判断で仕向地を変更する場合や、通常の輸送過程から外れる保管・転送を行う場合には、保険が当然に継続すると考えず、事前確認を行うべきである。
