貨物固有の性質(Inherent Vice)とは?貨物保険で免責になる判断ポイント

Inherent Vice in Cargo Insurance: When the Exclusion Applies

貨物固有の性質と保険免責とは、被保険貨物そのものに内在する性質又は性状が原因となって貨物の滅失、損傷又は費用が生じた場合に、貨物海上保険上の免責が問題となることをいいます。

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C) 1/1/09では、Clause 4.4に共通して、貨物固有の瑕疵又は性質によって生じた滅失、損傷又は費用を除外する規定があります。

実務では、腐敗、変質、発錆、カビ、自己発熱、発酵、成分分離その他の品質劣化が確認されたという結果だけで、直ちにClause 4.4を適用することはできません。その損害が貨物自体の性質によって生じたのか、海水浸入、雨濡れ、冷凍機故障、電源停止、衝突、容器破損その他の外部事象によって生じたのかを確認する必要があります。

また、通常の漏損、通常の重量・容積減少又は通常の摩耗はClause 4.2、梱包又は輸送準備の不十分・不適切はClause 4.3、遅延による損害はClause 4.5の問題です。これらは貨物固有の性質と事実上重なって見えることがありますが、適用条項を区別して検討する必要があります。

本記事では、ICC 1/1/09 Clause 4.4を中心に、貨物固有の性質の判断構造、外部事象との競合、Clause 4.2・4.3・4.5との区別、貨物類型別の実務、証拠資料、損害軽減及び第三者への権利保全を整理します。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 他記事で扱う内容
ICC Clause 4.4 貨物固有の瑕疵又は性質による免責の判断構造 外航貨物海上保険で補償されない損害で免責構造全体を扱う
ICC(A) 広い担保条件でもClause 4.4の確認が必要であること ICC(A)条件で担保構造及び他の主要免責を扱う
通常減耗・通常漏損 Clause 4.4とClause 4.2を区別すること 外航貨物海上保険で補償されない損害でClause 4.2を扱う
梱包不備 貨物特性と梱包不足が競合する場合の切り分け 梱包不備と保険免責でClause 4.3を詳しく扱う
遅延 時間経過による品質劣化とClause 4.4の関係 遅延損害でClause 4.5を詳しく扱う
冷凍・冷蔵貨物 貨物自体の品質特性と温度管理事故を切り分ける考え方 温度管理貨物の記事で温度条件・特約を詳しく扱う
中古品 貨物固有の性質と既存損傷・経年劣化の区別 中古品及び事故立証の記事で輸送前状態を詳しく扱う
運送人責任 貨物保険の免責と第三者責任を分けること 運送人責任・代位求償の記事で詳しく扱う
事故後対応 原因調査、損害軽減、証拠保存、第三者への権利保全 保険金請求・求償記事で手続を詳しく扱う

Clause 4.4の基本構造

Clause 4.4の条文はClause 4.3と比較すると簡潔です。特定の作業者、行為時期又は被保険者の認識を独立した要件として規定しているものではなく、中心となるのは「損害が貨物固有の瑕疵又は性質によって生じたか」という原因判断です。

確認要素 確認する内容 実務上の意味 主な資料
損害の存在 腐敗、錆、カビ、変質、自己発熱等の具体的な損害 まず実際に何が起きたかを確定する 写真、検査報告、Survey Report
貨物の性質 化学的、物理的、生物的性質、品質保持特性等 貨物自体がどのような損害傾向を持つか確認する 仕様書、SDS、品質証明、メーカー資料
出荷前状態 水分、温度、鮮度、錆、品質、既存劣化等 輸送前から損害原因が存在していなかったか確認する 出荷前写真、検品、品質検査
輸送環境 温度、湿度、輸送期間、換気、通常の環境変化 貨物の性質だけで損害が発生・進行し得たか確認する 温湿度ログ、輸送記録、保管記録
外部事象 水浸入、機器故障、電源停止、衝突、容器破損等 貨物自体の性質以外の原因が存在するか確認する 事故報告、機器ログ、コンテナ写真
因果関係 貨物固有の性質と外部事象のどちらが損害に結び付いたか 損害結果だけでClause 4.4を適用しない 時系列、専門鑑定、各種ログ
複数原因 外部事象が貨物の性質を作動又は加速させた可能性 単純な二者択一ではなく原因関係を分析する 事故記録、科学的検査、専門家意見

Clause 4.2・4.3・4.4・4.5を区別する

貨物固有の性質が疑われる事故では、他の一般免責と事実関係が重なって見えることがあります。

条項・論点 中心となる問題 典型例 Clause 4.4との区別 主な確認事項
Clause 4.2 通常の漏損、通常の重量・容積減少、通常の摩耗 通常蒸発、通常減量、通常摩耗 貨物の性質そのものによる損傷とは別の条項 通常許容値、重量、容積、過去実績
Clause 4.3 梱包又は準備の不十分・不適切 防湿不足、容器不適合、固定不足 貨物自体ではなくpacking又はpreparationが原因 梱包仕様、作業者、時期、因果関係
Clause 4.4 貨物固有の瑕疵又は性質 自己発熱、自然発酵、一定の自然劣化 貨物そのものに内在する原因が中心 貨物特性、出荷前状態、環境、因果関係
Clause 4.5 遅延による損害 長期滞留による販売不能、時間経過による品質低下 直接原因が時間経過・遅延かを確認する 予定日程、実日程、品質保持期間
既存損傷 保険期間開始前から存在する損害 中古機械の旧錆、傷、故障 Clause 4.4以前に新規損害の存在自体が問題となる 出荷前写真、検査、整備記録

例えば液体貨物の重量減少についても、貨物自体の化学的性質を原因とする損傷なのか、通常想定される蒸発・重量減少なのか、容器からの異常漏出なのかによって確認すべき条項が異なります。

MIA 1906 Section 55との関係

MIA 1906 Section 55(2)(c)でも、ordinary wear and tear、ordinary leakage and breakage、inherent vice or nature of the subject-matter insured等が海上保険上の免責原則として規定されています。

一方、ICC 1/1/09では、通常漏損・通常減量・通常摩耗をClause 4.2、inherent vice or natureをClause 4.4として分けています。

したがって、実務上「自然に起きた損害」という一つの言葉でまとめるのではなく、実際の保険証券に組み込まれた約款のどの条項が問題となるかを区別する必要があります。

外部事象と貨物固有の性質を切り分ける

損害の見え方 外部事象が疑われる事情 貨物固有の性質が疑われる事情 重要資料
金属製品の発錆 海水浸入、雨濡れ、コンテナ穴、倉庫漏水 出荷前水分、腐食性、通常環境下での発錆傾向等 塩分検査、出荷前写真、コンテナ状態、防錆記録
食品の腐敗 冷凍機故障、電源停止、異常温度 出荷前品質、成熟度、品質保持期間、貨物自体の劣化 温度ログ、製造日、品質証明、検査報告
木材・紙・繊維のカビ 雨濡れ、漏水、コンテナ破損 高い初期含水率、吸湿性、貨物内部の水分 含水率、湿度、梱包、出荷前保管記録
農産物の自己発熱 外部からの異常加熱、水濡れ等 含水率、呼吸作用、発酵その他の内在的作用 積込前検査、温度、水分値、換気記録
化学品の変質 異常温度、外部汚染、容器破損 化学的不安定性、時間経過による反応 SDS、仕様書、温度記録、成分分析
冷凍貨物の品質低下 電源停止、機器故障、設定異常 出荷前品質、予冷状態、品質保持期間 温度ログ、機器記録、積込前温度、品質検査
中古機械の不具合 落下、衝突、異常振動 摩耗、経年劣化、既存錆、既存故障 Pre-shipment Survey、作動記録、事故記録

外部事象が貨物の性質を作動・加速させた場合

実際の貨物事故では、「外部事故」か「貨物固有の性質」かを単純に二者択一できない場合があります。

例えば、金属製品は本来錆びる性質を持っていても、コンテナ破損によって大量の海水が浸入し急激に腐食した場合があります。食品も時間とともに劣化する性質を持っていますが、冷凍機停止により短時間で急速に品質が低下する場合があります。

このような場合は、貨物が一定の性質を有していたというだけでClause 4.4を確定しません。外部事象の内容、貨物への作用、損害発生までの時間、通常状態ならどの程度の劣化が生じたか等を確認し、適用約款及び準拠法に従って因果関係を判断します。

損害 外部原因候補 内在的原因候補 判断の中心 主な証拠
急激な発錆 海水浸入 金属の腐食性 外部水がどの程度腐食を発生・加速させたか 塩分、濡損範囲、錆の進行状態
冷凍食品の変質 電源停止 食品の自然劣化 温度異常と品質低下の時間的関係 温度ログ、品質検査
木材のカビ 雨水浸入 高含水率 外部水と出荷時水分のどちらが主要因か 含水率、水濡れ痕、梱包状態
化学品の成分変化 異常高温 化学的不安定性 通常条件でも変化したか、異常温度が反応を進めたか 温度、成分分析、製品仕様
農産物の自己発熱 水濡れ・換気障害 水分・呼吸・発酵 積込前状態と輸送中の環境変化 水分値、温度、換気記録

貨物種類別に見たClause 4.4の注意点

貨物類型 問題になりやすい損害 貨物自体の確認事項 外部事象として確認する事項
食品・生鮮品 腐敗、発酵、変色、品質低下 鮮度、成熟度、製造日、品質保持期間 温度逸脱、電源停止、保管異常
金属製品 錆、腐食、変色 材質、出荷時水分、表面状態、腐食傾向 海水・雨水浸入、倉庫漏水
木材・紙・繊維 カビ、反り、変色 含水率、吸湿性、出荷前保管環境 漏水、雨濡れ、異常湿度
液体貨物 変質、成分変化、減量 揮発性、化学的安定性、通常減量 漏出、容器破損、異常温度
粉体・農産物・飼料 固結、発酵、自己発熱、虫害 含水率、生物的・化学的性質 水濡れ、外部加熱、換気異常
冷凍・冷蔵貨物 解凍、変質、鮮度低下 出荷前温度、品質、予冷、保持期限 冷凍機故障、電源停止、設定異常
化学品 分離、凝固、反応、変色 安定性、保存条件、使用期限 異常温度、汚染、容器事故
中古機械・中古設備 錆、摩耗、作動不良 既存状態、使用年数、整備状態 落下、衝突、新規水濡れ等

発錆事故を判断する方法

発錆はClause 4.4が問題になりやすい代表的な損害ですが、「金属は錆びる性質がある」という理由だけで免責を確定することは適切ではありません。

少なくとも次の原因を分けて確認します。

  • 出荷前から存在した錆
  • 貨物内部又は梱包内部に残存していた水分
  • 通常の輸送環境下で発生した湿度変化
  • 防湿・防錆等の輸送準備
  • 海水又は雨水の浸入
  • コンテナ又は倉庫からの漏水

塩化物反応、錆の分布、濡損跡、コンテナ外傷、出荷前写真及び防錆処理記録等を組み合わせ、貨物固有の性質、Clause 4.3の梱包・準備又は外部事象のどれが損害へ結び付いたかを確認します。

冷凍・冷蔵貨物を判断する方法

冷凍・冷蔵貨物では、到着時に品質不良が確認されたというだけでは原因を判断できません。

冷凍機故障、電源停止、設定温度の異常等がなく、輸送中の温度が適切に維持されていた場合は、出荷前の品質、予冷、製造日、品質保持期間、貨物自体の成熟・劣化等を確認します。

反対に、明確な電源停止又は機器故障があり、その時点から貨物温度が上昇して品質が急速に低下している場合は、貨物固有の性質だけでなく、外部事象との因果関係を確認します。

温度ログは重要ですが、それだけで十分とは限りません。測定位置、supply air、return air、cargo core temperature、積込前温度、予冷記録及び品質検査を総合して確認します。

遅延と貨物固有の性質

腐敗しやすい食品や品質保持期間の短い貨物では、遅延と貨物固有の性質が同時に問題となることがあります。

例えば本船遅延によって輸送期間が10日延び、その間に貨物が自然に劣化した場合、Clause 4.5の遅延とClause 4.4の双方が問題となる可能性があります。

一方、遅延中に冷凍機が故障して貨物に異常な温度上昇が生じた場合は、単なる時間経過とは別の事故原因を確認する必要があります。

したがって、「遅れたから腐った」「腐りやすい貨物だから免責」という一つの説明にまとめず、時間経過、貨物特性及び外部事象を分けて分析します。

中古品では既存損傷とClause 4.4を区別する

中古機械、中古車、中古設備等では、錆、摩耗、変形、作動不良が輸送前から存在する場合があります。

これは直ちにClause 4.4の問題となるわけではありません。まず、保険期間中に新しい滅失又は損傷が発生したことを確認する必要があります。

そのうえで、新たに進行した錆や劣化が貨物自体の経年状態・性質によるものなのか、輸送中の水濡れ、衝撃その他の外部事象によるものなのかを確認します。

Pre-shipment Survey、輸送前写真、整備記録、作動試験、到着時写真及び専門鑑定が重要です。

Clause 4.4の制度適用フロー

  1. 保険証券及び適用ICCを確認する。
    ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)、約款版及び特別条件を確認します。
  2. 事故貨物を特定する。
    品名だけでなく成分、仕様、用途、製造日等を確認します。
  3. 具体的な損害を確定する。
    腐敗、錆、カビ、自己発熱、変質等の状態と範囲を確認します。
  4. 出荷前状態を確認する。
    品質、水分、温度、錆、鮮度、既存劣化等を整理します。
  5. 貨物固有の性質を確認する。
    その貨物がどのような条件で自然に変化又は劣化する性質を持つか確認します。
  6. 通常の輸送・保管環境を確認する。
    温度、湿度、期間、換気等を整理します。
  7. 外部事象を調査する。
    水浸入、電源停止、機器故障、衝突、容器破損等を確認します。
  8. 時系列を作成する。
    出荷、輸送、異常発生、損害発見までを整理します。
  9. Clause 4.2との関係を確認する。
    通常減量・通常漏損等をClause 4.4と混同しません。
  10. Clause 4.3との関係を確認する。
    貨物特性ではなく梱包・準備不足が原因でないか確認します。
  11. Clause 4.5との関係を確認する。
    時間経過・遅延自体が損害原因でないか確認します。
  12. 複数原因の関係を分析する。
    外部事象が貨物の内在的性質を作動又は加速させた可能性を検討します。
  13. 損害軽減と証拠保存を行う。
    二次損害を防ぎながら現物・サンプル・記録を保存します。
  14. 第三者への権利を保全する。
    運送人、倉庫、温度管理業者等へ必要な通知を行います。
  15. 保険会社・保険代理店へ資料を提出する。
    Clause 4.4の原因判断に必要な資料を整理して確認します。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な争点 確認資料 判断のポイント 初動対応
金属部品が発錆 海水濡れか貨物特性・水分か 塩分、出荷前写真、コンテナ状態 錆という結果だけでClause 4.4を判断しない 錆・水分サンプルを保存する
冷凍食品が変質 機器事故か出荷前品質・自然劣化か 温度ログ、予冷、品質証明 温度正常でも貨物側の条件を確認する 温度データと検体を確保する
木材にカビ 外部水濡れか高含水率か 含水率、湿度、漏水痕 水分源を特定する 現物・含水率を早期測定する
農産物が自己発熱 貨物自体の発酵か外部環境異常か 水分、温度、換気、出荷前検査 積込前状態から確認する 安全確保とサンプル保存を行う
液体貨物の重量減少 通常減量か異常漏出か 重量、容器、シール、過去実績 Clause 4.2とClause 4.4を区別する 容器・計量資料を保存する
化学品が分離・変質 内在的不安定性か異常温度か SDS、仕様書、温度、成分分析 通常条件下での安定性を確認する 検体を保存する
中古機械に錆・作動不良 既存状態か輸送中の新規損害か Pre-shipment Survey、整備記録 Clause 4.4以前に新規損害を立証する 修理前に鑑定する
遅延後に食品品質が低下 遅延か貨物特性か別の事故か 輸送日程、温度、品質保持期間 Clause 4.4とClause 4.5を分ける 品質検査と事故経緯を確保する

制度適用シナリオ1―金属部品が発錆したが外部水濡れ記録がない場合

事例:神戸からロッテルダム向けに、保険金額3,800万円の精密金属部品をICC(A)で輸出したとします。

到着後の開梱時に複数の部品へ錆が確認され、約700万円の研磨・交換費用が見積もられました。しかし、コンテナには明確な穴や浸水痕がなく、運送人からも航海中の水濡れ事故報告はありませんでした。

保険会社は、貨物の表面に残存した水分又は通常輸送環境に対する腐食性が原因であり、Clause 4.4が問題となると指摘しました。

荷主は、目視できないコンテナ内結露又は輸送中の外部水分が原因だった可能性を主張しました。

この場合、錆という結果だけでClause 4.4を適用するのではなく、出荷前の金属表面状態、防錆処理、梱包内部水分、塩化物反応、コンテナ内状態、出荷地・輸送中の温湿度及び錆の分布を確認します。

また、防湿・防錆対策そのものが不足していた場合にはClause 4.3との関係も確認します。貨物固有の性質と梱包・準備の問題を一つの免責理由として混同しないことが重要です。

制度適用シナリオ2―冷凍食品が変質したが温度記録に異常がない場合

事例:シンガポールから東京向けに、保険金額7,500万円の冷凍水産食品を輸送したとします。

到着後、一部貨物に色調変化及び品質劣化が確認され、荷主は2,200万円の損害を主張しました。

しかし、リーファーコンテナの記録では航海中のset point、supply air及びreturn airに大きな異常がなく、電源停止や冷凍機故障も確認されませんでした。

保険会社は、積込前の品質、予冷状態、製造後の経過期間及び貨物自体の品質特性を確認する必要があるとしてClause 4.4を検討しました。

この場合、正常なリーファー記録だけでClause 4.4を確定するのではなく、積込前貨物温度、製造日、冷凍開始時期、品質検査、積込前保管履歴及び到着後検査を確認します。

反対に、貨物中心温度や別のdata loggerに異常が確認されれば、コンテナの機器記録だけでは把握できない外部的な温度管理問題が存在しなかったかを再検討する必要があります。

制度適用シナリオ3―中古機械で既存劣化と輸送中損害の区別が困難な場合

事例:大阪からジャカルタ向けに、保険金額1,800万円の中古産業機械を輸出したとします。

到着後、駆動部の作動不良、表面錆及び電気系統の不具合が確認され、買主は500万円の修理費を請求しました。

しかし、輸送前には簡単な外観写真しか撮影されておらず、詳細な作動試験又はPre-shipment Surveyは行われていませんでした。

この場合、最初に確認するのはClause 4.4ではなく、保険期間中に新たな損害が発生したことを立証できるかです。

新規損害が確認できた場合には、その損害が経年劣化、既存錆その他の貨物自体の状態から進行したものなのか、輸送中の衝撃、水濡れ、異常振動等によって生じたものなのかを確認します。

中古品では、既存状態、貨物固有の性質及び輸送中事故の三つを分離して分析しないと、Clause 4.4と事故立証の問題が混同されます。

フォワーダーの関与範囲

この五分類は、法令上又は業界全体で確立された法的分類ではなく、本シリーズにおいて、フォワーダーが契約及び実務上どの範囲まで関与しているかを整理するための分析上の枠組みである。

Standard Five Classifications 一般的な関与 貨物固有の性質との接点 確認すべき限界 主な対応
1. Simple Intermediary 荷主、保険会社、運送人等の連絡を行う 品名、温度、品質等の情報を伝達する 貨物の技術的性質又は免責を独自に確定しない 必要情報を正確に保険側へ伝える
2. Cargo Transportation Service Provider 集荷、保管、温度管理、荷役等を行う 輸送環境が貨物劣化へ影響したかが問題となり得る 保険免責と自社作業責任を混同しない 温度・保管・作業記録を保存する
3. NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行し契約運送人となる 輸送中の保管・取扱いについて運送責任が問題となり得る Clause 4.4が適用されても運送人責任が当然に消えるわけではない House B/L、事故区間、取扱記録を確認する
4. Door-to-Door Single Contractor 輸送全体を一括受託する 複数区間の温度・保管情報を統合する 一括受託だけで貨物自体の品質を保証したことにはならない 各区間の記録と下請関係を整理する
5. Agent / Coordinator for Specific Operations 現地検査、保管、サーベイ等を調整する 品質・温度・事故証拠の収集を支援する 代理権を超えて原因又は補償可否を断定しない 検査・現地資料を早期確保する

五分類だけでClause 4.4の適用又は損害賠償責任を決めることはできません。

実際には、フォワーダーが契約運送人(Contracting Carrier)、実運送人(Actual Carrier)又は単なる手配者のいずれであるか、温度管理、保管、貨物情報の伝達等についてどの範囲を受託していたかを別途確認します。

事故時に確認すべき資料

資料 確認内容 主な目的 注意点
保険証券・Certificate ICC、約款版、特約、保険期間 適用する保険条件を確定する 条件名だけで判断しない
貨物仕様書・SDS 物理的・化学的性質、保存条件 貨物固有の性質を確認する 一般品名だけでは不足する場合がある
出荷前写真 錆、カビ、外観、既存損傷 輸送前状態を確認する 中古品・金属製品では特に重要
品質証明・検査記録 鮮度、水分、成分、品質基準 出荷時品質を確認する 検査日時・サンプル位置も確認する
製造日・使用期限 品質保持期間 時間経過による自然劣化を検討する 出荷時の残存期間を確認する
温度・湿度記録 輸送・保管環境 外部環境異常の有無を確認する 測定位置、欠測、機器精度を確認する
リーファー記録 設定、実測、警報、電源 温度管理事故を確認する 貨物中心温度とは異なる場合がある
コンテナ・倉庫記録 漏水、破損、保管環境 外部事象を確認する 返却・修理前に状態を確認する
梱包資料 防湿、防錆、防水、通気等 Clause 4.3との関係を確認する Clause 4.4と一括して扱わない
Survey Report 損害原因、範囲、貨物状態 原因分析を支援する 確認事実と推定を区別する

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
錆、腐敗、カビならすべてClause 4.4で免責になる 同じ損害結果でも外部事象によって生じる場合があります。 結果ではなく原因を確認します。
ICC(A)なら貨物固有の性質も補償される ICC(A)にもClause 4.4があります。 All Risksを無制限担保と理解しません。
外部事故が少しでもあればClause 4.4は問題にならない 外部事象と内在的性質が競合する場合には因果関係の分析が必要です。 複数原因を時系列で整理します。
貨物が自然に減量した場合はすべてClause 4.4である 通常漏損・通常重量減少等はClause 4.2の問題です。 4.2と4.4を区別します。
防湿不足による錆はすべてClause 4.4である 梱包・準備の不適切が原因ならClause 4.3が問題となる場合があります。 貨物特性とpackingを区別します。
温度ログが正常なら冷凍貨物は必ずClause 4.4になる ログ位置、出荷前品質、貨物中心温度等も確認する必要があります。 一つの記録だけで原因を確定しません。
遅延後の品質低下はすべて貨物固有の性質である Clause 4.5の遅延免責との関係を確認します。 時間経過と貨物特性を分けます。
中古品の不具合は貨物固有の性質である まず既存損傷か新規輸送損害かを確認します。 輸送前状態を立証します。
保険でClause 4.4免責なら運送人にも責任はない 保険免責と運送人の契約上・法的責任は別問題です。 第三者への権利を保全します。
フォワーダーが貨物固有の性質かどうかを判断できる 専門的な品質・原因判断は保険会社、サーベイヤー、メーカー等の確認が必要です。 事実整理と最終判断を分けます。

判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
付保時 荷主、保険会社、保険代理店 貨物性質、品質保持期間、温度条件、特殊条件 特殊貨物は事前に引受条件を確認する
出荷前 荷主、メーカー、検査会社 品質、水分、温度、既存損傷 検査・写真・品質資料を保存する
事故発見時 荷受人、倉庫、配送会社 錆、カビ、腐敗、変質等の範囲 廃棄・加工前に写真と検体を保存する
外部事象確認時 運送人、倉庫、サーベイヤー 水浸入、衝突、温度異常、機器故障等 事故記録・機器データを早期取得する
貨物特性確認時 メーカー、品質担当、検査機関 自然劣化、発熱、発酵、腐食等の特性 専門資料又は科学的検査を取得する
Clause 4.2確認時 保険会社、メーカー 通常減量・通常漏損の範囲 Clause 4.4と分けて整理する
Clause 4.3確認時 荷主、梱包業者、保険会社 防湿、防錆、防水等のpacking・preparation 貨物固有の性質だけで説明しない
温度管理事故時 運送人、リーファー業者、倉庫 温度、電源、機器、予冷 生データを保存する
中古品確認時 売主、荷主、検査会社 既存損傷、整備、作動状態 新規損害を先に特定する
損害軽減時 保険会社、サーベイヤー、荷主 冷却、乾燥、隔離、選別等 証拠保存と並行して損害拡大を防ぐ
第三者請求時 契約運送人、実運送人、倉庫等 事故区間、責任、通知・出訴期限 保険判断を待たず権利を保全する
法的紛争時 保険会社、海事弁護士 Clause 4.4、因果関係、複数原因、準拠法 専門鑑定と証拠を保全する

損害軽減と第三者への権利保全

貨物固有の性質が疑われる場合でも、保険会社の最終判断まで貨物を放置してよいわけではありません。

濡れた金属製品の腐食進行を防ぐ、冷凍・冷蔵貨物を適切な温度環境へ移す、発熱貨物を安全な方法で隔離する、健全品と損傷品を選別する等、合理的な損害軽減措置が必要になる場合があります。

一方、原因調査前に洗浄、乾燥、廃棄、再加工等を行うと、塩分、水分、微生物、成分変化その他の重要な証拠が失われる可能性があります。

安全確保と損害拡大防止を優先しながら、写真、動画、温湿度データ、検体、貨物サンプル、梱包材及びサーベイ記録を可能な範囲で保存します。

また、Clause 4.4が適用されるかどうかと、契約運送人、実運送人、倉庫業者、温度管理業者その他の第三者が責任を負うかどうかは別問題です。

例えば、貨物自体が温度変化に弱い性質を持っていたとしても、運送人が契約された温度管理を怠った場合には第三者責任の検討が必要になることがあります。保険会社の最終判断を待たず、Claim Notice、証拠保全及び出訴期限等を確認します。

保険会社・保険代理店・海事弁護士へ相談すべき場面

通常の事故通知、品質資料の提出及び補償照会は、まず保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次のような案件では、海上保険及び国際運送に詳しい海事弁護士や専門鑑定人への相談を検討します。

  • 外部事象と貨物固有の性質のどちらが主要な損害原因か争われている場合
  • Clause 4.2、4.3、4.4、4.5のどの条項が適用されるか争われている場合
  • 海水濡れと貨物固有の腐食性が競合している場合
  • 冷凍機事故と食品自体の品質劣化が競合している場合
  • 自己発熱、発酵、化学反応等について専門的な科学鑑定が必要な場合
  • 高額な食品、医薬品、化学品等で品質評価方法が争われている場合
  • 中古品で既存損傷と輸送中損害の区別が大きな争点となる場合
  • 温度・湿度等のデータが複数存在し、相互に矛盾している場合
  • 貨物保険の免責と契約運送人・実運送人等への損害賠償請求が同時に争われている場合
  • 海外で検体、機器データ、公的資料その他の証拠を緊急に保全する必要がある場合
  • 保険金請求又は第三者への通知・出訴期限が迫っている場合

実務上のポイント

Clause 4.4で最も重要なのは、「この貨物は錆びる」「この食品は腐る」といった一般的な性質だけから免責を判断しないことです。

確認すべきなのは、その貨物に実際にどのような損害が生じ、その損害が貨物固有の瑕疵又は性質によって生じたのかという因果関係です。

また、通常減量等はClause 4.2、梱包・準備不足はClause 4.3、遅延はClause 4.5であり、これらをすべて「inherent vice」として処理すべきではありません。

外部事象と貨物固有の性質が競合する場合には、事故前の貨物状態、輸送中の環境、事故の発生時点、損害の進行状況及び科学的検査を時系列で整理します。

食品、冷凍・冷蔵貨物、金属、木材、農産物、化学品、中古品等では、事故発生後だけでなく、付保時・出荷時から品質、温度、水分、製造日、既存状態等を記録しておくことが重要です。

まとめ

ICC 1/1/09 Clause 4.4は、被保険貨物固有の瑕疵又は性質によって生じた滅失、損傷又は費用を対象とする重要な一般免責です。

しかし、腐敗、錆、カビ、変質、自己発熱等の損害結果が確認されたというだけでClause 4.4が自動的に適用されるわけではありません。貨物自体の性質、出荷前状態、輸送環境、外部事象及び損害との因果関係を確認する必要があります。

また、通常漏損・通常減量等を扱うClause 4.2、梱包・準備を扱うClause 4.3、遅延を扱うClause 4.5とは区別して検討する必要があります。

外部事象が貨物固有の性質を作動又は加速させた場合には、単純に「外部事故だから補償」「貨物固有の性質だから免責」と二分せず、実際の原因関係を分析することが重要です。

貨物保険上のClause 4.4による免責と、契約運送人、実運送人、フォワーダー、倉庫業者その他の第三者の責任は別問題です。事故時には保険会社への通知と並行して、損害軽減、証拠保存及び第三者への権利保全を進める必要があります。

同義語・別表記

  • 貨物固有の瑕疵
  • 固有の性質
  • 自然劣化
  • 変質
  • 腐敗
  • 発錆
  • Inherent Vice
  • Inherent Nature