貨物海上保険の保険金額設定

保険金額の設定とは

保険金額の設定とは、貨物海上保険を手配する際に、保険会社が1回の保険事故について負担する保険金の最高限度額を決める実務です。保険金額は、保険料を計算する際の基礎にもなります。

保険金額を設定しただけで、事故時にその金額が機械的に支払われるわけではありません。実際の保険金は、認定された損害額、保険価額又は協定保険価額、保険条件、免責金額残存価値、他の保険契約その他の契約内容に基づいて算定されます。

そのため、保険金額と、貨物の価値を示す保険価額、契約時に合意する協定保険価額、取引価格であるCIF価額及び保険料を区別する必要があります。

外航貨物海上保険では、CIF価額に10%を加えた金額、すなわちCIF価額の110%を保険金額とする設定が一般的です。ただし、すべての貨物、契約及び取引に機械的に適用できるわけではありません。

実際の設定では、インボイス金額、建値、運賃、保険料、通貨、売買契約、信用状条件包括予定保険契約、貨物の価額資料及び保険会社の引受条件を確認します。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 別に確認すべき内容
保険金額 1回の保険事故について保険会社が負担する保険金の最高限度額と、その設定方法を整理します。 個別事故における保険金支払額は、損害額、約款、免責金額等によって判断します。
保険価額 被保険利益を金銭的に評価した価額と、保険金額との違いを整理します。 事故時の具体的な評価方法は、保険契約及び適用約款を確認します。
協定保険価額 契約時に保険者と保険契約者等が合意する保険価額の位置付けを整理します。 協定の効力、適用範囲及び著しい価額差がある場合の取扱いは契約ごとに確認します。
CIF価額 貨物代金、運賃及び保険料から構成される価額と保険金額との関係を説明します。 売買契約上の費用負担及び危険移転はIncoterms関連記事で扱います。
CIF×110% 日本の外航貨物海上保険で一般的に使用される設定方法を整理します。 Incoterms又は信用状が求める保険手配義務とは別に確認します。
建値 CIF、CIP、CFR、FOBEXW、DAP及びDDPごとの確認事項を整理します。 Incotermsの危険移転、引渡し及び費用負担の詳細は関連記事で扱います。
信用状取引 信用状上の保険金額、通貨、保険条件及び証券記載を確認します。 銀行による書類審査及びディスクレパンシーの最終判断は銀行へ確認します。
通貨・為替換算 インボイス通貨、証券通貨、換算基準日及び適用レートを整理します。 具体的な換算方法は包括予定保険契約又は保険会社所定の基準を確認します。
特殊な価額設定 無償貨物、返品貨物、修理品、自社所有品、中古品等の設定方法を整理します。 個別の評価額及び引受可否は、資料を提出して保険会社へ照会します。
フォワーダーの関与 保険金額設定における情報伝達、運賃提供及び付保調整の範囲を整理します。 保険募集権限及びフォワーダー賠償責任保険は別途確認します。

保険金額・保険価額・協定保険価額の違い

保険金額を正しく設定するためには、関連する金額概念を同一視しないことが重要です。

用語 意味 実務上の位置付け 主な確認資料
保険金額 1回の保険事故について保険会社が負担する保険金の最高限度額 保険証券、保険明細又は確定通知に表示される付保額であり、保険料計算の基礎にもなります。 保険証券、確定通知書、保険明細
保険価額 被保険利益を金銭的に評価した価額 一部保険、超過保険及び損害額算定を考える際の基礎となります。 インボイス、売買契約、評価資料、運賃資料
協定保険価額 契約締結時に保険者と保険契約者等が合意した保険価額 事故時の価額算定の基準として使用される場合があります。 保険契約、評価書、保険会社との合意記録
CIF価額 貨物代金、運賃及び保険料を含む取引上の価額 外航貨物海上保険の保険金額を算出する基礎として広く使用されます。 インボイス、運賃明細、保険料計算資料
CIF×110% CIF価額に10%を加算する保険金額設定方法 一般的な外航貨物海上保険の付保実務であり、保険金額そのものの同義語ではありません。 付保依頼書、包括予定保険契約、保険会社の計算基準
保険料 保険契約者が保険会社へ支払う保険契約の対価 通常は保険金額、保険料率、最低保険料その他の条件に基づいて計算されます。 保険料計算書、保険明細
損害額 事故によって認定された経済的損害 保険金額とは別概念であり、保険条件に従って保険金算定の基礎となります。 サーベイレポート、修理見積、価額資料

保険金額は支払限度額であり、保険価額は被保険利益の価値です。協定保険価額は、保険価額について契約時に合意した金額です。

CIF価額及びCIF×110%は、保険金額を設定するための基礎又は計算方法であり、保険金額や保険価額の同義語ではありません。

保険金額を設定する基本フロー

  1. 貨物の品名、数量、単価及び取引金額を確認します。
  2. インボイスに記載された建値及び通貨を確認します。
  3. 売買契約上、誰が貨物保険を手配するかを確認します。
  4. インボイス金額に運賃、保険料その他の費用が含まれているか確認します。
  5. CIF価額又は保険会社所定の基礎価額を算出します。
  6. 110%等の付保割合について、売買契約、信用状及び保険契約を確認します。
  7. 保険金額の通貨及び為替換算方法を確認します。
  8. 無償貨物、中古品、高額貨物等に該当する場合は価額資料を追加します。
  9. 保険会社又は保険代理店へ保険金額、保険条件及び引受可否を照会します。
  10. 保険証券又は確定通知の発行前に、金額、通貨、航路、貨物及び保険条件を再確認します。

保険金額の設定で確認する主な資料

確認資料・情報 確認する内容 保険金額への影響 実務上の注意点
Commercial Invoice 貨物代金、通貨、建値、数量及び単価 保険金額の基礎となる取引価額を確認します。 運賃や保険料が含まれているかを建値と併せて確認します。
売買契約書 売買価格、建値、保険手配義務及び付保割合 契約当事者が合意した保険手配条件を確認します。 インボイス表記だけで判断せず契約本文も確認します。
運賃明細 海上運賃、航空運賃、内陸運賃及び付随費用 FOB、FCA、EXW等からCIF相当額を算出する際に使用します。 見積運賃と確定運賃を区別します。
保険料計算条件 保険料率、最低保険料及び計算方法 CFR又はFOB価額からCIF相当額を求める際に関係します。 保険料と保険金額が循環するため、所定の計算方法を使用します。
Packing List 梱包数、数量、重量及び容積 分割船積みや一部出荷の金額配分を確認します。 インボイス数量と一致しているか確認します。
信用状 保険金額、付保割合、通貨、保険条件及び証券記載 信用状取引で要求される保険証券の内容を確認します。 保険実務上妥当でも、信用状条件と不一致になる場合があります。
包括予定保険契約 価額設定、換算レート、確定通知及び適用条件 継続取引に適用する計算方法を確認します。 個別の判断で計算方法を変更しないようにします。
評価書・査定書 市場価額、再取得費用及び中古価額 取引価額が存在しない又は実態を示さない貨物に使用します。 評価日、評価目的及び評価対象を確認します。
修理・再製作見積 修理品、代替品又は自社設備の経済的価値 インボイス価額だけでは説明できない貨物の参考資料となります。 保険会社の事前承認を得る必要がある場合があります。

CIF価額を基準とする考え方

外航貨物海上保険では、貨物代金、運賃及び保険料から構成されるCIF価額が、保険金額設定の基礎として一般的に使用されます。

CIF価額には、貨物そのものの代金だけでなく、仕向港までの運賃及び貨物保険料が含まれます。

貨物代金だけを保険金額の基礎にすると、全損時に既に支出した運賃等が保険金額へ十分反映されない可能性があります。

ただし、CIF価額が常に事故時の保険価額又は実際の損害額と一致するわけではありません。CIF価額は、保険金額を設定するための一般的な基礎額として整理します。

CIF価額の110%を設定する意味

日本の外航貨物海上保険では、CIF価額に10%を加えた金額、すなわちCIF価額の110%を保険金額とする設定が一般的です。

この10%は、期待利益や事故時に生じ得る諸費用等を一定範囲で考慮する商慣習上の加算です。

通常のCIF価額へ10%を加算することは、合理的な設定根拠に基づく一般的な付保実務であり、それだけで不適切な超過保険を意味するものではありません。

ただし、次の三つは根拠が異なります。

区分 内容 主な根拠 確認事項
外航貨物海上保険の一般的設定 CIF価額の110%を保険金額とする実務 保険会社の引受実務、包括予定保険契約、商慣習 保険会社所定の価額計算方法を確認します。
Incoterms上の保険手配義務 CIF又はCIPで売主が買主のために保険を手配する義務 売買契約に採用されたIncoterms規則 必要な保険金額、補償条件及び保険区間を確認します。
信用状上の要求 信用状が保険証券へ要求する金額、通貨及び条件 信用状本文及び適用される信用状ルール 銀行提出書類として条件に一致しているか確認します。

したがって、CIF×110%を機械的に使用するだけでなく、売買契約、信用状、包括予定保険契約及び保険会社の引受条件を個別に確認します。

Incoterms別の保険手配と保険金額

Incotermsは、売主と買主の間で、運送、保険、費用及び危険の分担を定める売買契約上の規則です。

Incoterms上、売主に保険手配義務が明示される代表的な条件はCIF及びCIPです。ただし、CIFとCIPでは使用できる輸送方法及び標準的に要求される補償水準が異なります。

建値 原則的な保険手配者 保険金額確認の基礎 主な注意点
CIF 売主 契約価額、CIF価額及び売買契約上の指定 海上・内陸水路輸送に使用し、原則的な補償水準はICC(C)相当です。より広い条件を合意することもできます。
CIP 売主 契約価額及び売買契約上の指定 複数の輸送方法に使用でき、原則的な補償水準はICC(A)相当です。CIFと条件を混同しないようにします。
CFR 買主 CFR価額に保険料を加えたCIF相当額 売主は運賃を負担しますが、Incoterms上の保険手配義務は原則として負いません。
FOB 買主 FOB価額、実際の海上運賃及び保険料 FOB価額だけでは運賃と保険料が含まれないため、補償不足に注意します。
FCA 買主 FCA価額、主運送費及び保険料 コンテナ貨物等ではFOBではなくFCAが適切な場合があります。
EXW 買主 EXW価額、集荷費、輸出関連費用、主運送費及び保険料 付保開始地点及びどの輸送費を含めるか確認します。
DAP Incoterms上の保険手配義務は定められていない 売買価格の内訳及び実際の付保区間 仕向地内陸運送費等が含まれるため、売買価格全額をそのまま基礎にしない場合があります。
DDP Incoterms上の保険手配義務は定められていない 売買価格の内訳及び実際の付保区間 関税、輸入税、通関費及び仕向地配送費等を区分します。

Incotermsは、売主又は買主が独自に追加の保険を手配することを妨げるものではありません。売買契約でIncotermsの標準内容と異なる合意をした場合は、その合意内容を確認します。

CFR条件から保険金額を設定する場合

CFR価額には、通常、貨物代金及び仕向港までの運賃が含まれますが、保険料は含まれません。

CFR条件では、CFR価額に保険料を加えてCIF相当額を算出し、そのCIF相当額を基礎として保険金額を設定します。

ただし、保険料は保険金額を基礎に計算されるため、単純に任意の保険料相当額を加算すると循環計算になる場合があります。

具体的な算出では、保険会社又は保険代理店が定める保険料率、計算式、最低保険料及び端数処理を使用します。自己判断による概算だけで確定通知を行わないようにします。

FOB条件から保険金額を設定する場合

FOB価額には、通常、仕向港までの海上運賃及び貨物保険料が含まれていません。

FOB条件では、FOB価額に実際の海上運賃その他の付保対象となる費用を加え、保険会社所定の方法で保険料及びCIF相当額を算出します。

海上運賃が未確定の場合は、確定前に使用する予定運賃又は見積運賃について保険会社又は保険代理店へ確認し、確定後に訂正が必要か確認します。

FOB価額だけを保険金額として設定すると、全損時に海上運賃等が保険金額へ反映されず、必要な補償水準に達しない可能性があります。

DAP・DDP価格を使用する場合

DAP又はDDPの売買価格には、仕向地側の内陸輸送費、輸入通関費、関税、輸入税、荷役費その他の費用が含まれていることがあります。

売買価格全額をそのまま保険金額の基礎にせず、付保対象となる貨物価額及び輸送費と、保険対象外又は別途確認すべき費用を区分します。

費用項目 DAP・DDP価格に含まれる可能性 保険金額設定時の扱い 確認事項
貨物代金 通常含まれる 保険金額の主要な基礎となります。 実際の取引価額を確認します。
国際運賃 通常含まれる 付保区間に対応する費用として確認します。 運賃内訳を取得します。
仕向地内陸輸送費 含まれることがある 保険期間及び付保区間に含まれるか確認します。 最終仕向地までの保険条件を確認します。
輸入通関費 含まれることがある 貨物価額とは別に整理します。 付保対象として加算するか保険会社へ確認します。
関税・輸入税 DDPでは含まれることがある 売買価格へ含まれていても、当然に貨物保険の基礎額となるとは限りません。 関税保険等を含め個別に確認します。
据付・試運転費 契約によって含まれる 通常の貨物海上保険と別のリスクとなる場合があります。 据付保険又は特約の要否を確認します。

通貨と為替レートの確認

保険金額を設定する際は、インボイス金額だけでなく、どの通貨で保険金額を表示するかを確認します。

外貨建て貨物を円貨で付保する場合は、任意の為替レートを使用せず、包括予定保険契約、保険会社又は保険代理店が定める換算基準日及び適用レートを確認します。

確認項目 確認する内容 主な問題 実務上の対応
インボイス通貨 USD、EUR、JPY等の売買通貨 証券通貨と異なる場合があります。 通貨コード及び金額を正確に伝えます。
保険証券の表示通貨 保険金額を表示する通貨 L/C又は売買契約との不一致が生じます。 証券発行前に指定通貨を確認します。
L/C指定通貨 信用状で要求される保険証券の通貨 銀行審査上の書類不一致となる可能性があります。 L/C本文と保険証券を照合します。
換算基準日 インボイス日、船積日、確定通知日等 使用する日によって円貨額が変わります。 契約所定の基準日を使用します。
使用レート 保険会社所定レート、銀行レート等 担当者が任意のレートを使用することがあります。 包括契約又は保険会社の指定を確認します。
端数処理 円未満、外貨小数点以下等の処理 証券金額と社内計算が一致しません。 所定の切上げ・四捨五入方法を確認します。
複数通貨 一出荷に複数通貨の貨物が含まれる場合 単純合算できません。 基準通貨へ換算する方法を確認します。
為替変動 付保後に為替が大きく変動した場合 円貨換算額が実態と乖離する場合があります。 包括契約の調整方法又は訂正可否を確認します。

信用状取引で確認する事項

信用状取引では、保険として合理的な保険金額であるかという問題と、銀行へ提示する保険証券が信用状条件へ適合しているかという問題を分けて確認します。

信用状には、インボイス価額又は契約価額に対する付保割合、通貨、保険条件、保険区間、発行日及び保険証券の形式等が指定される場合があります。

確認項目 信用状で問題になりやすい点 実務上の確認 不一致時の対応
保険金額 インボイス価額の110%以上等の指定 証券上の保険金額が要求割合を満たすか確認します。 保険会社又は保険代理店へ訂正可否を確認します。
通貨 インボイス、信用状及び保険証券の通貨不一致 指定通貨と換算条件を確認します。 銀行及び保険関係者へ確認します。
保険条件 ICC(A)、War、Strikes等の指定が証券に反映されていない 要求された条件と実際の引受条件を照合します。 追加付保又は信用状条件変更を検討します。
保険区間 積地・仕向地又は倉庫間の記載が不十分 信用状記載の航路と証券記載を照合します。 保険期間と実際の輸送を保険会社へ確認します。
発行日 保険証券の日付が船積日より後になる 遡及担保の可否及び信用状条件を確認します。 銀行と保険会社へ早急に照会します。
貨物記載 品名、数量、B/L番号等が他の書類と一致しない インボイス、B/L及び保険証券を照合します。 誤記訂正又は信用状条件変更を検討します。

信用状条件を満たすために保険金額を設定する場合でも、実態とかけ離れた価額を無条件に申告するのではなく、売買契約、信用状、保険会社の引受条件及び価額根拠を確認します。

過少保険・一部保険の注意点

保険金額が保険価額又は協定保険価額に満たない状態は、一般に一部保険又は過少保険と呼ばれます。

保険金額が不足している場合、全損時に保険金額を超える部分が補償されないだけでなく、契約条件によっては分損時の保険金算定にも影響することがあります。

具体的な支払方法は、適用約款、保険価額の協定状況、保険金額及び損害の種類によって異なります。

不足の原因 典型例 生じ得る問題 実務上の対応
運賃を含めていない FOB価額だけで付保した CIF相当額に対して保険金額が不足します。 運賃と保険料を含む計算方法を確認します。
付保割合が不足 L/Cが110%を要求しているのに100%で付保した 補償不足又は信用状上の不一致が生じます。 L/Cと証券金額を照合します。
為替レートが不適切 古い円高レートを使用した 円貨保険金額が実態より低くなります。 所定の換算日とレートを使用します。
数量変更を反映していない 確定通知後に出荷数量が増加した 増加分が保険金額に反映されません。 訂正通知又は追加付保を確認します。
分割船積みの配分誤り 全契約金額を各船積みに正しく配分していない 特定船積みの保険金額が不足します。 数量、単価及び船積みごとに配分します。

過大保険・超過保険の注意点

保険価額を合理的な根拠なく超える保険金額を設定しても、超過部分がそのまま保険金として支払われるわけではありません。

損害保険は、原則として実際に生じた損害を補償する保険です。保険金額が高額であっても、認定損害額、保険価額、協定保険価額、保険条件及び支払限度額に従って保険金が算定されます。

一方、通常のCIF価額に期待利益等を考慮して10%を加算する設定は、一般的な外航貨物保険の価額設定であり、直ちに不適切な超過保険を意味するものではありません。

確認事項 問題となる例 合理的な根拠となり得る資料 対応
中古品の価額 根拠なく新品再調達価額で申告した 売買価格、市場価額、再取得費用、評価書 保険会社へ事前に価額根拠を提示します。
無償貨物 商業価値を検討せず高額な名目額を設定した 同等品価格、製造原価、評価資料 合理的な評価方法を保険会社へ照会します。
関連会社間取引 社内振替価格をそのまま市場価額とした 第三者取引価格、製造原価、評価書 取引価格の性質を明示します。
再製作費 貨物価格と再製作費を重複加算した 再製作見積、設計費、材料費 補償対象となる価額範囲を確認します。
据付費等 貨物輸送と無関係な費用をすべて加算した 契約内訳、工事見積 貨物保険と据付リスクを区分します。

インボイス金額をそのまま使えない貨物

すべての貨物に商業インボイス上の通常の売買価格が存在するとは限りません。

次の貨物は、インボイス金額がゼロ、名目的又は市場価額と異なる場合があるため、追加の価額資料が必要になります。

貨物の種類 インボイス上の問題 確認する価額資料 実務上の対応
無償サンプル 無償又は低い申告額になっている 製造原価、通常販売価格、同等品価格 保険会社へ合理的な評価方法を照会します。
無償支給品 売買代金が発生しない 取得価格、帳簿価額、再調達価格 所有者及び被保険利益を確認します。
返品貨物 当初販売価額と現在価額が異なる 当初インボイス、返品理由、現在の状態 損傷品又は不良品であるかを明示します。
修理品 修理代のみがインボイスへ記載されることがある 本体価額、修理前後価額、修理見積 本体価額を含める必要性を確認します。
展示品 売買価格が存在しない 取得価格、市場価額、再取得費用 使用歴及び状態を明示します。
自社所有品 社外売買がない 帳簿価額、再取得費用、評価書 帳簿価額だけで十分かを確認します。
関連会社間移送 移転価格が市場価額を示さない場合がある 製造原価、第三者販売価格、評価資料 名目的価格であることを明示します。
リース品 売買価格と所有権が一致しない リース契約、取得価額、残存価額 被保険者及び保険金請求権者を確認します。
中古機械 売買価格と同等品再取得費用が大きく異なる 売買契約、市場価額、評価書、再取得見積 協定保険価額又は事前承認の要否を確認します。
代替品 無償交換で売買代金が発生しない 通常販売価格、製造原価、交換契約 旧品と代替品の価額を混同しないようにします。

中古品の保険金額を設定する場合

中古品について、根拠資料や保険会社との事前合意がないまま、新品再調達価額を保険金額として申告することは避ける必要があります。

一方で、中古品だから必ず売買価格だけを使用するとも限りません。売買価格が名目的である場合、同等品の再取得が困難な場合又は再製作費が必要な場合は、追加資料を提出して保険会社へ照会します。

主な確認資料は次のとおりです。

  • 実際の売買価格
  • インボイス金額
  • 帳簿価額
  • 中古市場における市場価額
  • 同等中古品の再取得費用
  • 修理費又は再製作費
  • 第三者評価書
  • 協定保険価額
  • 保険会社の事前承認記録

よくある実務ケース

ケース 問題となる点 確認資料 判断のポイント 初動対応
FOB条件だが海上運賃が未確定 CIF相当額を確定できない 運賃見積、Booking、包括契約 予定運賃を使用できるか、確定後の訂正が必要か 保険代理店へ計算方法を確認します。
CFR条件で保険料の計算方法が不明 保険料と保険金額が循環する CFRインボイス、保険料率、計算基準 保険会社所定の計算式を使用する必要があります。 自己計算で確定せず照会します。
L/Cがインボイス価額の110%を要求 保険実務上の設定とL/C要求の両方を満たす必要がある L/C、インボイス、保険証券案 割合、通貨、条件及び証券記載が一致するか 発行前に書類を照合します。
インボイス通貨と証券通貨が異なる 換算方法又は銀行審査で問題になる インボイス、L/C、換算基準 指定通貨及び所定レートが使用されているか 証券発行前に通貨を訂正します。
分割船積みの金額配分が不明 各出荷の保険金額が過不足となる 船積明細、Packing List、単価表 数量及び単価に基づいて配分できるか 出荷ごとの金額明細を作成します。
無償サンプルでインボイス価額がゼロ 保険金額の基礎が存在しない 製造原価、販売価格、同等品価格 貨物の実際の経済価値を説明できるか 評価資料を提出して事前照会します。
中古機械で売買価格と再取得費用が異なる どの価額を基礎にするか不明 売買契約、評価書、同等品見積 売買価格が実態を示すか、協定が必要か 保険会社の事前承認を取得します。
DDP価格に関税と国内配送費が含まれる 売買価格全額が付保対象とは限らない 価格内訳、関税計算、配送見積 貨物価額と対象外又は別途確認費用を分けられるか 価格内訳を取得します。
複数通貨の商品を一証券で付保する 単純合計ができない 通貨別インボイス、所定換算レート どの基準通貨へ換算するか 換算日とレートを統一します。
確定通知後に数量又は単価が変更された 保険金額が実際の出荷額と一致しない 訂正インボイス、出荷実績、確定通知 訂正通知又は追加保険料が必要か 速やかに保険代理店へ変更を通知します。

フォワーダーの関与範囲と保険金額設定

本記事における五分類は、法令上又は業界全体で確立された分類ではなく、本シリーズにおいてフォワーダーの関与範囲を整理するために使用する分析上の枠組みです。

フォワーダーが貨物保険の手配へ関与する場合でも、保険募集又は保険契約締結に関する権限の有無は、運送契約上の地位とは別に確認する必要があります。

標準五分類 保険金額設定への主な関与 確認すべき委任範囲 実務上の注意点
Simple Intermediary(単純取次) 荷主から受領した付保金額、建値及び通貨を保険代理店へ伝達する 情報の受領・転送だけか、計算確認まで依頼されたか 保険金額の妥当性を自ら保証するとは限りません。
Cargo Transportation Service Provider(貨物利用運送事業者) 運賃、輸送区間及び輸送方法等の算定情報を提供する 保険手配自体を受託しているか 運賃提供と保険金額決定を混同しないようにします。
NVOCC / House B/L Issuer House B/L条件、海上運賃、輸送区間及び貨物情報を提供する 運送人としての地位と保険手配の委任範囲 NVOCCであるだけで保険金額の決定権を持つわけではありません。
Door-to-Door Single Contractor 輸送費用、保険手配及び確定通知を一体的に調整する 荷主の指示、価額計算、再委託及び証券確認の範囲 金額根拠及び荷主の承認を記録します。
Agent/Coordinator for Specific Operations(特定業務の代理・調整者) 付保申込み、金額照会、資料提出又は証券発行を調整する 個別に依頼された作業及び承認権限 委任範囲を超えて保険金額を独断で決定しないようにします。

Contracting Carrier及びActual Carrier等は、法的又は契約上の地位を示す概念であり、本記事の標準五分類を置き換えるものではありません。

また、運賃の提供、インボイス確認、為替換算、付保申込み又は証券転送等の個別作業は、それ自体で第六の分類を構成するものではありません。

フォワーダーが保険金額を独自に決定するのではなく、荷主から受領した指示、インボイス、売買条件及び保険代理店からの回答を記録することが重要です。

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
保険金額が事故時にそのまま支払われる 保険金額は最高限度額であり、実際の保険金は損害額、保険価額、約款等に基づいて算定されます。 保険金額と認定損害額を区別します。
保険金額と保険価額は同じである 保険金額は支払限度額、保険価額は被保険利益の価額です。 一部保険及び超過保険の判断では両者を比較します。
協定保険価額は保険金額の別名である 協定保険価額は契約当事者が合意した保険価額です。 証券上の保険金額との関係を確認します。
インボイス金額をそのまま保険金額にすればよい 建値によって運賃や保険料が含まれていない場合があります。 建値、運賃、保険料及び付保割合を確認します。
FOB価額だけで十分である FOB価額には通常、海上運賃及び保険料が含まれません。 CIF相当額の算出方法を確認します。
CIF×110%は常に必須である 一般的な設定ですが、売買契約、L/C及び保険会社の条件によって異なります。 設定根拠を個別に確認します。
CIFとCIPの保険条件は同じである Incoterms上の標準的な補償水準及び使用できる輸送方法が異なります。 CIF、CIP及び売買契約上の追加条件を確認します。
高く付保すれば高い保険金が支払われる 超過部分が当然に保険金として支払われるわけではありません。 合理的な価額根拠を保存します。
過少保険は全損時だけ問題になる 契約条件によっては分損時の算定にも影響します。 適用約款及び保険価額との関係を確認します。
無償貨物は保険金額をゼロにする 売買代金がなくても経済的価値や被保険利益が存在する場合があります。 製造原価、再取得費用又は評価資料を確認します。
為替レートは担当者が任意に選べる 包括契約又は保険会社所定の換算日・レートを使用します。 換算根拠を記録します。
信用状取引では保険として正しければ十分である 保険証券がL/C条件へ文言上適合することも必要です。 金額、通貨、条件、航路及び日付を照合します。

判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
付保依頼受領時 荷主、輸出者、輸入者 品名、数量、インボイス金額、通貨及び建値 不明事項を確認してから付保手続を進めます。
建値確認時 荷主、売買契約担当者 CIF、CIP、CFR、FOB、FCA、EXW、DAP又はDDP 売買価格へ含まれる費用を明細化します。
運賃確認時 フォワーダー、船会社、NVOCC 確定運賃、見積運賃及び付随費用 運賃未確定時の計算方法を保険代理店へ確認します。
保険料計算時 保険会社、保険代理店 料率、CIF相当額、最低保険料及び計算式 自己判断による循環計算を避けます。
付保割合確認時 荷主、保険代理店 CIF×110%、契約価額×110%その他の指定 売買契約、L/C及び包括契約の根拠を確認します。
通貨換算時 保険会社、保険代理店 換算基準日、適用レート、証券通貨及び端数処理 所定の換算方法を使用します。
信用状確認時 荷主、銀行、保険代理店 金額、通貨、条件、航路、証券形式及び日付 証券発行前にL/C本文と照合します。
無償・特殊貨物確認時 荷主、評価者、保険代理店 製造原価、市場価額、再取得費用及び評価資料 保険会社へ事前照会します。
中古品確認時 荷主、売主、評価者 売買価格、状態、市場価額、協定保険価額 根拠なく新品価格を使用しません。
保険証券発行前 保険代理店、荷主 保険金額、通貨、品名、航路及び保険条件 インボイス、L/C及び付保依頼と照合します。
確定内容変更時 荷主、保険代理店 数量、単価、運賃、通貨及び航路の変更 訂正通知又は追加付保の要否を確認します。

具体例1:FOB価額からCIF相当額を算出する場合

FOB価額が100,000米ドルの貨物について、買主から貨物保険の手配依頼を受けました。しかし、海上運賃はBooking時点では確定しておらず、概算運賃しか提示されていませんでした。

この場合、FOB価額だけを110%にして保険金額を設定すると、海上運賃及び保険料が基礎額へ反映されません。

まず、適用する予定運賃又は見積運賃、付保対象となるその他費用及び保険料率を確認します。そのうえで、保険会社又は保険代理店所定の方法によりCIF相当額と保険金額を算出します。

確定運賃が予定額と大きく異なった場合は、包括予定保険契約又は個別契約に従い、確定通知の訂正が必要か確認します。

具体例2:L/Cの110%条件と証券通貨を確認する場合

ユーロ建てインボイスの取引で、信用状にはインボイス価額の110%以上の保険金額とすること、保険証券もユーロ建てとすることが指定されていました。

ところが、付保依頼では社内管理上の日本円換算額だけが保険代理店へ伝えられていました。

日本円換算額による保険契約が補償上不合理でない場合でも、信用状がユーロ建て証券を要求しているなら、銀行提出書類として不一致となる可能性があります。

この場合は、インボイス価額、110%の金額、L/C指定通貨、保険条件及び証券記載を発行前に照合します。必要に応じて銀行及び保険代理店へ確認します。

具体例3:中古機械の価額根拠が不足している場合

関連会社から中古機械を移送する案件で、インボイスには社内振替価格として少額の金額だけが記載されていました。

一方、同等の中古機械を市場で再取得するには、インボイス金額の数倍の費用が必要でした。

インボイス金額をそのまま保険金額の基礎にすると不足する可能性がありますが、根拠なく新品再調達価額を使用することも適切ではありません。

帳簿価額、中古市場価額、同等品再取得見積、機械の状態、修理・再製作費及び評価書を提出し、協定保険価額又は個別承認の要否を保険会社へ照会します。

具体例4:無償貨物でインボイス価額がない場合

顧客へ無償で提供する試作品について、Commercial Invoiceには通関用として「No Commercial Value」と記載されていました。

売買代金が発生していなくても、試作品の製造には材料費、加工費及び設計費が発生しており、貨物としての経済的価値が存在する場合があります。

この場合、インボイス金額をゼロとして無保険にするのではなく、製造原価、同等品の販売価格、再製作費及び開発費のうち付保価額へ含めることが適切な部分を整理します。

開発費や知的財産価値等が通常の貨物海上保険でどこまで評価対象となるかは個別判断となるため、資料を提出して保険会社又は保険代理店へ事前照会します。

保険会社・保険代理店へ事前照会すべき場合

次のような場合は、通常のCIF×110%の計算だけで処理せず、保険会社又は保険代理店へ事前に照会します。

  • インボイス金額がない、ゼロ又は名目的である場合
  • 中古品、高額設備、作品、試作品等で市場価額が分かりにくい場合
  • 売買価格と再取得費用が大きく異なる場合
  • 無償支給品、返品品、修理品又は代替品である場合
  • DAP又はDDP価格に関税、輸入税、据付費等が含まれる場合
  • 複数通貨を一つの証券又は確定通知で扱う場合
  • 信用状の要求と通常の保険条件が一致しない場合
  • 通常と異なる付保割合を希望する場合
  • 協定保険価額を設定する必要がある場合
  • 数量、単価、運賃又は航路が確定通知後に変更された場合

まとめ

貨物海上保険の保険金額は、1回の保険事故について保険会社が負担する保険金の最高限度額であり、保険料計算の基礎にもなります。

保険金額、保険価額、協定保険価額、CIF価額及び保険料は別の概念です。CIF×110%は、保険金額を設定する一般的な方法であり、保険金額又は保険価額の同義語ではありません。

保険金額を設定する際は、インボイス金額だけでなく、建値、運賃、保険料、付保割合、通貨、為替換算、売買契約及び信用状条件を確認します。

CIF及びCIPではIncoterms上、原則として売主が保険を手配しますが、CIFとCIPでは使用できる輸送方法及び標準的な補償水準が異なります。

FOB、CFR又はEXW条件では、運賃や保険料等を加えてCIF相当額を求める必要があります。保険料と保険金額が相互に関係する場合は、保険会社所定の計算方法を使用します。

無償貨物、中古品、修理品、自社所有品及び関連会社間移送では、インボイス金額が実際の価値を示さない場合があります。価額資料を提出し、保険会社又は保険代理店へ事前照会します。

保険金額が保険価額に満たない場合は、全損時の上限不足だけでなく、契約条件によっては分損時の算定にも影響します。一方、合理的な根拠なく高額に設定しても、超過部分が当然に支払われるものではありません。

本記事は、貨物海上保険における一般的な保険金額設定実務を整理したものであり、個別案件の保険価額、協定保険価額、保険金支払額、信用状適合性又は法的責任を断定するものではありません。

実際の保険金額は、保険証券、包括予定保険契約、適用約款、売買契約、信用状、インボイス、運賃資料、価額資料及び保険会社の引受条件を確認し、必要に応じて保険会社又は保険代理店へ事前に照会してください。

同義語・別表記

  • 保険金額
  • 付保金額
  • Sum Insured
  • Amount Insured

関連用語

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