シンガポール港―トランシップ・ターミナル再編・Tuas Port移行の実務
シンガポール港―トランシップ・港湾再編・Tuas Port移行の実務
シンガポール港は、世界有数のコンテナ取扱港であると同時に、世界各地の幹線航路とアジア域内のフィーダー航路を接続する大規模なトランシップ・ハブです。
ただし、実務上「SINGAPORE」を一つのコンテナターミナルとして考えると、貨物の現在位置、積替え状況、接続船への積載、事故発生区間及び追加費用の原因を誤認することがあります。
PSA Singaporeのコンテナオペレーションは、Tanjong Pagar、Keppel、Brani、Pasir Panjang及びTuasという複数のターミナル群によって構成されています。さらに現在は、都心部及びPasir Panjangに分散してきたコンテナ港湾機能を、シンガポール西部のTuas Portへ段階的に集約する大規模な港湾再編の途中にあります。
したがって、現在のシンガポール港を理解するには、「大きな港」という静的な見方ではなく、既存ターミナルを稼働させながら、新しいTuas Portへ貨物・船舶・港湾能力を移していく移行期の港湾システムとして見る必要があります。

この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| 港湾構造 | Tanjong Pagar、Keppel、Brani、Pasir Panjang及びTuasの関係 | 個別ターミナルの最新バース割当、寄港スケジュール及び料金表は各運営者・shipping lineの最新情報で確認する |
| トランシップ | 第一船からのDischarge、ヤード保管、Inter-Gateway Transfer、接続船へのLoad及び実出港 | 一般的な本船スケジュール管理はETD・ETA及び本船スケジュールの記事で扱う |
| Inter-Gateway Transfer | Pasir PanjangとTuas等の異なる港湾拠点間で行われるコンテナ移送 | 個別輸送案件の車両・フィーダー手配条件及び料金はBooking条件で確認する |
| Tuas Port | 港湾機能集約、自動化、港湾能力及び移行期の実務への影響 | Tuasの工事工程及び個別バースの最新供用状況はMPAの最新公表情報で確認する |
| B/L | Port of Discharge、実際の積替港及び使用ターミナルの違い | B/Lの譲渡、裏書、貨物引渡し及び裏面約款は各B/L専門記事で扱う |
| 貨物事故 | ターミナル荷役、ヤード保管、IGT及び接続輸送中の事故区間の切り分け | サーベイ及び貨物保険金請求の詳細は貨物事故・海上貨物保険の記事群で扱う |
| 港湾サービス | アンカレッジ、バンカリング及び多数の商船が集積する理由 | 個別船舶の停泊目的、航行情報及びバンカー契約条件は扱わない |
世界最大級のトランシップ・ハブとしての位置付け
シンガポール港の2025年のコンテナ取扱量は4,466万TEU、船舶入港総トン数は32.2億GTに達しました。舶用燃料販売量も5,677万トンを記録しており、コンテナ港であると同時に世界最大規模のバンカリング拠点でもあります。
また、2024年のMPA公表値では、シンガポールで取り扱われるコンテナの約90%が他国・他港へ積み替えられるトランシップ貨物です。
この比率は、シンガポール港の役割を理解する上で重要です。国内の輸出入貨物だけを処理する港であれば、本船から揚げた後の通関・搬出が主要工程になります。しかしトランシップ・ハブでは、第一船から揚げられたコンテナを次の本船へ確実に接続すること自体が港湾機能の中心になります。
| 確認段階 | 確認する事実 | 誤認しやすい点 |
|---|---|---|
| Port Arrival | 本船がシンガポール港へ到着した | 貨物が既に揚げられたとは限らない |
| Berthing | 本船が指定バースへ着岸した | コンテナのDischarge完了とは別である |
| Discharge | 第一船からコンテナが揚げられた | 接続船への積替え完了ではない |
| Yard | ターミナルヤードへ収容された | 接続船と同一ターミナルとは限らない |
| Inter-Gateway Transfer | 別の港湾拠点へコンテナを移送する | 同じSingapore内でも独立した輸送工程が生じる |
| Load | 接続船へ積載された | 接続船が出港したとは限らない |
| Departure | 接続船が実際に出港した | ここで初めて次の海上輸送区間が開始する |
Pasir Panjang Terminal―現在もシンガポール港を支える主要拠点
Pasir Panjang Terminalは、Tuas Portへの移行が始まった現在でもシンガポールの主要コンテナ拠点です。
MPAによれば、Pasir Panjang Terminalは37バース、年間約3,400万TEUの取扱能力を持っています。大型コンテナ船に対応する長大な岸壁と多数のSTSガントリークレーンを備え、世界各地の航路を処理しています。

重要なのは、Tuas Portが開港したからといってPasir Panjangの役割が終了したわけではないことです。Pasir Panjang Terminalの機能をTuasへ集約するのは2040年代までの長期計画であり、その間は既存港と新港が並行して稼働します。
この規模は、個々の船舶だけを見ても分かりにくく、海上やKent Ridge Park側の高台からターミナル全体を見るとより明確になります。複数の本船、岸壁クレーン、広大なコンテナヤードが同時に稼働することで、大量のトランシップ・コンテナを短時間で処理する能力が形成されています。

City Terminals―都心近接型コンテナ港からTuasへの移行
シンガポールのコンテナ港の歴史は、現在のTuasから始まったわけではありません。
Tanjong Pagar Terminalは1972年に開業した東南アジア初の本格的なコンテナターミナルであり、その後、Keppel、Brani、Pasir Panjangへコンテナ港湾機能が拡張されてきました。
Tanjong Pagar、Keppel及びBraniは一般にCity Terminalsとして扱われ、シンガポール中心部に極めて近い位置にあります。この立地は港湾発展の歴史を象徴する一方、都市用地との競合、ターミナル間移動及び将来の能力拡張という課題も伴います。
シンガポール政府はこれらの港湾機能をTuasへ集約する方針を進めており、City Terminalsについては2027年末までの移転が予定されています。
一方、港湾移転は「旧港を閉鎖して翌日から新港へ切り替える」という単純な工程ではありません。実際、2024年に紅海情勢等を背景として寄港スケジュールが乱れ、シンガポール港で混雑が発生した際には、過去に取扱いを縮小していたKeppel Terminalのバース及びヤードの一部が再稼働されました。
これは、既存設備を残しながら新しいTuasの能力を段階的に増やすことで、移行期間中の港湾能力とレジリエンスを維持している例といえます。
大型本船とフィーダー航路を結ぶトランシップ
シンガポール港の競争力は、大型コンテナ船を受け入れられることだけではありません。
アジア・欧州、アジア・北米などの幹線航路と、東南アジア、南アジア、オセアニアその他の地域航路を接続し、限られた時間内に大量のコンテナを別の本船へ積み替える能力が重要です。

トランシップ貨物では、第一船のETAだけを確認しても日本側の納期は判断できません。
第一船の実入港、Discharge、ヤード受入れ、接続船のターミナル、Cut-off、Load、接続船の実出港までを連続した工程として確認します。
特に現在はPasir PanjangとTuasという大きく離れた二つの港湾拠点が並行して稼働しているため、第一船と接続船の使用ターミナルが異なる場合、ターミナル間の貨物移動そのものが重要な工程になります。
Inter-Gateway Transfer―Pasir PanjangとTuasをどう接続するか
現在のシンガポール港を理解する上で特に重要なのが、Inter-Gateway Transfer(IGT)です。
MPAは2026年、PSAの主要なコンテナ拠点がPasir PanjangとTuasという二つの地理的クラスターに分かれているため、顧客の接続を維持するためにコンテナのIGTが必要になると説明しています。
現在のIGTは、道路又は海上のフィーダー船を使用して行われています。
したがって、第一船がPasir Panjangへ入港し、接続船がTuasから出港する場合、コンテナは単に「Singaporeで積替え」られるのではありません。Discharge後、別の港湾拠点へ移動し、接続側ターミナルで再び受け入れられた後、接続船へ積載されます。
| 工程 | 主な確認資料 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 第一船からDischarge | Discharge実績、EIR、Terminal情報 | 入港時刻と揚荷時刻を分ける |
| IGT手配 | 移送指示、道路又はフィーダー情報 | 誰が移送を手配する契約なのか確認する |
| 出発側Terminal | Gate-out又は搬出記録 | コンテナ外装状態を記録する |
| 接続側Terminal | Gate-in又は受入記録 | 移送前後の異常有無を比較する |
| 接続船Load | Load記録、接続船名、Voyage | 船名表示だけでなく実積載を確認する |
さらにMPAとPSAは2026年、Pasir PanjangとTuas等のターミナル間輸送を対象として、自動運航Inter-Gateway Feederの開発・実証を進めるためのExpression of Interestを実施しました。
これは単なる自動運航技術の実証ではありません。Tuasへの港湾集約が完了するまで、地理的に分かれた複数のターミナル群をどのように一つの港湾ネットワークとして運用するかという課題に対する技術的な対応でもあります。
Tuas Port―港を増設するのではなく、港湾システムを再構築する
Tuas Portは2022年9月に正式開港しました。
完成目標は2040年代で、最終的には約1,337ヘクタール、66バース、岸壁総延長約26km、年間6,500万TEUの取扱能力を持つ港湾として計画されています。
Pasir Panjang Terminalの年間取扱能力が約3,400万TEUであることを考えると、Tuasは単なる代替ターミナルではなく、シンガポールのコンテナ港湾能力そのものを大幅に再構成するプロジェクトです。
Phase 1だけでも最終的に21の深水バースと年間2,000万TEUの取扱能力が計画されており、MPAは2026年3月時点で、2026年中にさらに4バースを供用する方針を示しています。
Tuasの特徴は規模だけではありません。自動化されたヤードクレーン、Automated Guided Vehicle(AGV)、遠隔操作、AI、港湾データシステム等を前提に、港湾オペレーション自体を再設計しています。
また、港湾関連産業をシンガポール西部へ集約することで、港湾と物流・産業地区の距離を短縮し、ターミナル間輸送の削減と港湾運営の効率化を図る構想でもあります。
B/L表示と実際のTerminalを分けて確認する
B/L上のPort of Loading、Port of Discharge、Place of Receipt及びPlace of Deliveryは、運送契約上の場所及び区間を確認するための重要な情報です。
しかし、B/L上に「SINGAPORE」と記載されていても、それだけでは実際にPasir Panjang、Brani、Keppel、Tanjong Pagar又はTuasのどこで取り扱われるのかまでは判断できません。
また、Through B/Lでシンガポールが途中の積替港として使用される場合、B/L主要欄へSingapore自体が表示されないこともあります。
したがって実際の経路は、Booking Confirmation、shipping line又はfreight forwarderのTracking、Ocean B/L、House B/L、Arrival Notice、Terminal情報及びContainer Movement記録を組み合わせて確認します。
Port of Dischargeが同じSingaporeであっても、実際のTerminal変更又はIGTの発生によって、接続時間、追加ハンドリング、費用及び事故証拠の所在が変わることがあります。
フォワーダーの関与範囲と契約上の地位
Terminal、shipping line、IGT輸送者及びfreight forwarderは、それぞれ別の主体です。
事故又は遅延が発生した場合、実際に作業を行った者と、荷主に対して運送を引き受けた者を分けて確認します。
この五分類は、法令上又は業界全体で確立された法的分類ではなく、本シリーズにおいて、フォワーダーが契約及び実務上どの範囲まで関与しているかを整理するための分析上の枠組みである。
| Standard Five Classifications | 典型的な関与 | シンガポール経由で確認する責任 | 主な確認相手 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 1. Simple Intermediary | Booking又は運賃取次ぎに限定 | 受領したTerminal・Schedule情報を正確に伝達したか | 実際の運送人 | 連絡窓口であるだけでThrough運送全体のContracting Carrierとは限らない |
| 2. Cargo Transportation Service Provider | 海上輸送、IGT、国内輸送等を組み合わせて手配 | 引き受けた工程及び下請先選定・接続管理の範囲 | shipping line、IGT輸送者、海外代理店 | 事業者属性と個別契約上の責任を分ける |
| 3. NVOCC / House B/L Issuer | 自己名義のHouse B/Lを発行 | Singaporeでの積替え及びIGTを含むThrough運送上の契約責任 | House B/L発行者 | Actual Carrier又はTerminalが原因でも荷主からの一次的請求先になることがある |
| 4. Door-to-Door Single Contractor | 集荷から最終納品まで一括して引き受ける | 接続管理、IGT、代替便及び最終納品までの全体調整 | 一括契約したfreight forwarder | 下請先が複数でも荷主との契約責任が当然に分割されるとは限らない |
| 5. Agent / Coordinator for Specific Operations | 特定のshipping line又は荷主の指示による限定業務 | 委任されたTerminal調整、通知、書類及び事故連絡 | 委任者 | 委任権限を超えて責任承認又は契約変更を行わない |
貨物保険では物的損害と遅延損害を分ける
シンガポール港で通常のトランシップ又はTerminal間移動が行われたからといって、直ちに貨物保険の対象外になるわけではありません。
補償可否は、保険証券、Institute Cargo Clauses、特別約款、保険責任期間、申告された輸送区間及び事故原因によって判断します。
最初に分けるべきなのは、貨物そのものに物的な滅失又は損傷が発生したのか、それとも接続遅延だけが発生したのかという点です。
例えば、接続船への積み残しによって納品が4日遅れ、買主から違約金を請求された場合、その違約金は貨物そのものの物的損傷とは異なります。
一方、IGT中のコンテナ衝突、荷役中の落下、雨水又は海水浸入、Reeferの電源停止又は設定異常により貨物そのものが損傷した場合は、事故原因及び適用条件に応じて貨物保険の対象となる可能性があります。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| Pasir Panjangで揚げた貨物がTuas接続船に間に合わない | 第一船遅延、IGT時間不足、接続Cut-off | Discharge実績、IGT記録、接続船Cut-off、Load記録 | どの工程で接続可能性を失ったか | 次便及び日本側納期への影響を確定する |
| IGT中のコンテナ外装損傷 | 道路輸送、フィーダー輸送、積替荷役 | Gate EIR、写真、IGT受渡記録 | 移送前後のどの時点で異常が発生したか | 写真保存、留保通知、サーベイを行う |
| 接続船への積み残し | スペース不足、Schedule変更、Cut-off超過 | Rollover通知、Load記録、Booking条件 | 接続保証があったか、単なる予定であったか | 次便・代替航路を確認する |
| Reefer貨物の温度逸脱 | 電源未接続、設定温度違い、長期滞留 | Reefer log、Plug-in記録、アラーム履歴 | 単なる遅延か物的損傷か | 温度データを保存し検品・保険通知を行う |
| Terminal変更に伴う追加費用 | 運航変更、IGT追加、接続船変更 | Booking、料金条件、請求書、変更通知 | 誰の指示又は原因で追加工程が生じたか | 実費と賠償責任を分けて確認する |
| B/L表示と実際の経路が異なる | Through B/L、接続変更、Terminal変更 | House B/L、Ocean B/L、Tracking | 契約上許容された積替えか | 必要に応じ荷主・銀行・保険会社へ通知する |
| LCL貨物の不足 | CFSでの仕分け、再混載、誤積み | CFS tally、受渡記録、House B/L | どのCFSで個数差が生じたか | 残貨照会と記録保全を行う |
| Singapore到着表示後も貨物が動かない | 未Discharge、Yard滞留、IGT未完了 | Container Movement、Terminal Status、Load情報 | Arrival表示だけで貨物位置を判断しない | 現在工程を一段ずつ確認する |
事故発生区間は受渡記録を連結して判断する
シンガポール経由貨物の事故調査では、損傷が発見された場所だけで事故発生場所を決めてはいけません。
第一船からのDischarge、Terminal受入れ、IGT開始、IGT終了、接続Terminal受入れ、接続船へのLoad、次港でのDischargeという各受渡記録を時間順に並べます。
EIR、Gate記録、Container Movement、荷役写真、Reefer log及びLoad記録等を連結し、最初に異常が記録された時点を絞り込みます。
事故原因者と荷主に対する契約上の請求先は同一とは限りません。Terminal又はIGT輸送者に原因があっても、荷主との契約上はHouse B/L発行者又はThrough運送を引き受けたContracting Carrierが一次的な確認先となる場合があります。
具体例1:Pasir PanjangからTuasへのIGTを含むFCL機械貨物の損傷
以下は実務判断を説明するための想定例です。
上海港からSingaporeを経由して横浜港へ輸送された1,500万円相当の機械貨物があり、Pasir Panjangで第一船から揚げた後、Tuasから出港する接続船へIGTされたとします。
横浜でデバンニングした際、機械に約280万円の損傷が確認され、荷主は「SingaporeのTerminal間移送中にコンテナが衝撃を受けた」と主張しています。
この場合、SingaporeでIGTが行われたという事実だけでは事故区間を確定できません。
Pasir PanjangのDischarge EIR、IGT開始時の外装写真、Tuas側の受入EIR、接続船へのLoad記録及び横浜側Discharge EIRを比較します。
Pasir Panjang側では異常なし、Tuas受入時に初めてコンテナ側面の変形が記録されていればIGT区間が重点調査対象になります。一方、Tuas側にも異常記録がなく横浜で初めて変形が確認された場合は、接続船航海中又は横浜での揚荷も調査対象から外せません。
具体例2:Singapore接続遅延による冷凍食品の納品違約金
ハンブルク港からSingaporeを経由して神戸港へ輸送される800万円相当の冷凍食品が、接続船変更によってSingaporeで4日間滞留したとします。
日本の買主は、納期遅延を理由として60万円の違約金及び販売機会損失を荷主へ請求しています。
まずReefer log、電源接続履歴、設定温度及び検品結果を確認します。
貨物自体に温度逸脱又は品質劣化がなければ、中心となる問題は物的損害ではなく遅延による経済損失です。
貨物保険の補償判断と、shipping line又はContracting Carrierに対する運送契約上の責任判断は分けて行います。「保険で支払われない」ことと「運送人に責任がない」ことは同じではありません。
具体例3:Terminal変更で38万円の追加費用を請求された場合
ジャカルタ港からSingaporeを経由して名古屋港へ輸送されるコンテナについて、当初は同一Terminal内で接続する予定であったものの、接続船変更によりPasir PanjangからTuasへのIGTが必要になったとします。
その結果、IGT、追加保管及び再手配費用として合計38万円相当が請求され、荷主は「Singapore港内の変更はshipping line側の都合なので全額運送人負担である」と主張しています。
この場合、追加費用が実際に発生したことと、その費用を誰が最終的に負担するかは別問題です。
Booking条件、運送約款、接続変更の原因、費用明細及びfreight forwarderの契約上の地位を確認します。
運航上認められた経路変更であっても、追加費用の荷主負担が当然に成立するとは限らず、反対にshipping line側の変更であるという理由だけで全額賠償責任が成立するとも限りません。
シンガポール沖の船舶群を「入港待ち」と断定しない
シンガポール沿岸では、多数の大型商船が停泊している光景を見ることができます。

これらを一括して「コンテナ港への入港待ち船」と説明するのは適切ではありません。
シンガポールはコンテナ積替港であると同時に、世界最大規模のバンカリング拠点であり、アンカレッジ、船用品供給、修繕、乗組員交代その他の海事サービスが集中しています。
船舶ごとに停泊目的は異なるため、AIS、港湾情報又は実際の運航情報を確認せず、写真だけから停泊理由を断定しないことが重要です。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| Singaporeは一つのコンテナターミナルである | 複数のTerminal群によって構成される | 実際のTerminal名を確認する |
| Singaporeへ到着すれば接続船へ積替え済みである | Arrival、Discharge、Yard、Load、Departureは別の事実である | 接続船へのLoadと実出港まで確認する |
| 同じSingapore内ならTerminal間輸送はない | Pasir PanjangとTuas等の間でIGTが行われる | 道路又は海上移送の有無を確認する |
| Tuas Portが開港したのでPasir Panjangは旧港である | Pasir Panjangは現在も主要Terminalとして稼働している | 2040年代までの長期移行として理解する |
| B/LにSingaporeがなければSingapore経由ではない | Through B/Lでは途中の積替港が主要欄へ表示されないことがある | Booking及びTrackingを照合する |
| 沖に停泊している船はすべて入港待ちである | バンカリングその他の目的で停泊する船もある | 写真だけで停泊目的を断定しない |
| Terminal事故ならTerminalだけが荷主への責任主体である | 原因者とContracting Carrierは異なることがある | B/L及び運送契約を起点に確認する |
| 接続遅延は貨物保険で補償される | 遅延による経済損失と貨物の物的損害は別である | 貨物自体の損害有無を先に確認する |
フォワーダーの判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| Booking時 | shipping line又は海外代理店 | 第一船、接続船、予定Terminal及び最終港 | IGTが必要な場合は接続余裕を確認する |
| 第一船遅延時 | shipping line | 接続船Cut-off及びRollover可能性 | 荷主及び日本側へ早期通知する |
| Singapore到着時 | shipping line又はTerminal | BerthingではなくDischarge実績 | 未Dischargeの場合は次工程を断定しない |
| IGT発生時 | shipping line、PSA側手配者又は代理店 | 出発Terminal、到着Terminal、移送方法 | Gate又は受渡記録を保存する |
| Terminal変更時 | shipping line又はNVOCC | 接続船、Cut-off、追加費用 | 原因別に費用負担を整理する |
| Reefer滞留時 | Terminal、shipping line、荷主 | 電源、設定温度、アラーム | 温度記録を保存し保険関係者へ通知する |
| 貨物損傷時 | Contracting Carrier、保険会社、サーベイヤー | EIR、写真、Container Movement、事故区間 | 修理・廃棄前に証拠を保全する |
| 追加費用請求時 | 請求者及び契約相手 | 費用名目、期間、単価、原因及び契約根拠 | 費用発生と賠償責任を分けて回答する |
海事弁護士への相談を検討すべき場面
通常の接続確認又は少額の追加費用について直ちに海事弁護士を利用する必要はありません。
一方、House B/LとOcean B/Lの責任関係が競合している場合、Contracting Carrier、Actual Carrier、Terminal及びIGT輸送者が相互に責任を否定している場合、高額貨物又は重大な温度損害が発生した場合、通知期限又は出訴期限が迫っている場合には早期相談を検討します。
特にSingaporeで複数のTerminal又は運送主体を跨いだ事故では、実際の原因区間の特定と、荷主が契約上誰へ請求できるかという問題を分けて整理する必要があります。
事故直後に責任を断定するより、まず受渡記録、B/L、Booking条件、写真及びTerminal記録を保存し、請求期限を確認した上で責任関係を整理することが重要です。
Pasir PanjangからTuasへ―現在を見る意味
完成後のTuas Portだけを見るなら、6,500万TEU、66バースという将来規模を確認すれば足ります。
しかし、実務上より興味深いのは現在の移行期間です。
Tanjong Pagar、Keppel、BraniというCity Terminals、現在も主力であるPasir Panjang、そして拡張中のTuasが同時に存在し、その間を実際のコンテナが移動しています。
巨大な国際港を停止させることなく、日々の本船荷役とトランシップを継続しながら、数十年をかけて港湾の中核機能そのものを別の場所へ移す。
シンガポール港の再編は、単なる新港建設ではなく、世界有数のトランシップ・ネットワークを稼働させたまま行う港湾システムの再構築です。
まとめ
シンガポール港を実務で理解する際は、「Singapore」という一つの港名だけで判断してはいけません。
第一船がどのTerminalへ入り、どこでDischargeされ、接続船がどのTerminalから出港し、その間にInter-Gateway Transferが必要なのかを確認する必要があります。
現在はCity Terminals及びPasir PanjangからTuasへの長期的な港湾集約の途中であり、既存港と新港が並行して稼働しています。
この構造は、接続時間、貨物位置、追加費用、事故発生区間、B/L上の責任関係及び貨物保険の判断にも影響します。
シンガポール港の強さは、大型コンテナ船を受け入れる岸壁だけにあるのではありません。トランシップ、フィーダー航路、Terminal間輸送、バンカリング、港湾サービス、自動化及びデジタル港湾システムを一体として運用できることにあります。
Tuas Portへの移行は、その仕組みを次の世代へ作り替えるプロジェクトとして見る必要があります。
Tuas Portの撮影制限について
なお、Tuas Portの港湾施設には、シンガポールのProtected Place(保護対象施設)として管理される区域があります。
Singapore Police Force(SPF)によれば、Protected Area / Protected Placeについては、施設管理者の許可なく写真又は動画を撮影することは認められていません。Infrastructure Protection Act 2017第29条でも、Protected Area又はProtected Placeを内部、外部又は上空から許可なく撮影することが禁止されています。
そのため、本記事ではTuas Portについて現地での独自撮影は行わず、Pasir Panjang Terminalとの位置関係については公開情報を基に作成した概略地図で紹介します。

同義語・別表記
シンガポール港、Port of Singapore、Singapore Port
関連用語
Pasir Panjang Terminal、Tanjong Pagar Terminal、Keppel Terminal、Brani Terminal、Tuas Port、PSA Singapore、トランシップ、フィーダー輸送、Inter-Gateway Transfer、IGT、STS Crane、AGV、B/L、Through B/L、House B/L、Contracting Carrier、Actual Carrier、バンカリング、アンカレッジ
公式情報
Maritime and Port Authority of Singapore(MPA)、Ministry of Transport Singapore(MOT)、PSA Singapore
