1963年版協会貨物約款(ICC 1963)解説
1963年版協会貨物約款(ICC 1963 / Institute Cargo Clauses 1963)は、1982年版のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)に改定される前に広く使われていた貨物海上保険の基本約款です。
現在の実務では、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)の体系が一般的に使われていますが、1963年版の約款は、古い保険証券、長期契約、外航貨物海上保険の歴史的説明、旧式の保険条件、海外取引先の書類確認などで参照されることがあります。
ICC 1963の特徴は、現在のA/B/C方式ではなく、All Risks、W.A.(With Average)、F.P.A.(Free from Particular Average)という旧来の条件体系で整理されている点にあります。
Maritime Wikiでは、ICC 1963を単なる旧約款としてではなく、貨物保険の補償範囲、分損担保、分損不担保、共同海損、保険期間、1982年版との違いを理解するための基礎資料として整理します。
ICC 1963とは
ICC 1963は、ロンドン市場で使用されてきた協会貨物約款の旧体系です。
協会貨物約款は、国際貨物保険において、どのような危険を保険の対象とし、どのような損害を免責とするかを定める標準約款です。
1963年版では、補償範囲がAll Risks、W.A.、F.P.A.という条件名で整理されていました。
これは、現在のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)とは名称も構成も異なります。
そのため、古い保険証券や取引書類にICC 1963の表記がある場合、現在のICC(A)(B)(C)と同じ感覚で読んではいけません。
ICC 1963が今も参照される理由
ICC 1963は現在の標準的な新規契約では主流ではありませんが、実務上まったく無関係になったわけではありません。
古い保険証券、過去の契約、外航貨物海上保険の解説、海外の古い保険条件、長期契約の参照条項などで、ICC 1963の考え方が出てくることがあります。
また、日本の貨物保険実務でも、All Risks、W.A.、F.P.A.という用語は、現在でも説明上使われることがあります。
特に、分損担保と分損不担保の違い、共同海損と単独海損の違い、特定事故時の分損担保の扱いを理解するうえで、ICC 1963の体系は重要です。
ICC 1963を理解しておくと、現在のICC(A)(B)(C)との違いも整理しやすくなります。
ICC 1963とICC 1982の違い
ICC 1963とICC 1982の最も大きな違いは、約款体系の名称と構造です。
ICC 1963では、All Risks、W.A.、F.P.A.という条件名が使われていました。
これに対し、ICC 1982では、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)という現在の体系に整理されました。
ICC(A)は、いわゆるAll Risks型の広い担保を基本とし、ICC(B)とICC(C)は列挙危険型の約款として整理されています。
ただし、ICC(A)も「すべての損害を無条件に補償する」という意味ではありません。免責、保険期間、梱包不備、固有の性質、遅延、戦争・ストライキ危険などは別途確認が必要です。
ICC 1963を読む際には、現在のA/B/C体系へ機械的に置き換えるのではなく、旧約款の条件名と補償範囲を個別に確認する必要があります。
All Risks条件
ICC 1963におけるAll Risks条件は、三条件の中で最も広い補償範囲を持つ条件です。
All Risksという名称から、あらゆる損害が補償されるように見えますが、実際には免責条項や約款上の制限があります。
たとえば、貨物固有の性質、通常の漏損・重量減少、梱包不備、遅延、戦争・ストライキ危険などは、約款上の免責や別特約の問題になります。
All Risks条件では、偶然な外来事故による貨物損害が広く対象となる一方、保険で引き受けるべきではない性質損害や商業上の遅延損害までは当然に担保されません。
実務では、All Risksという名称だけで判断せず、保険証券、特別約款、免責条項、対象貨物の性質を確認する必要があります。
W.A.条件
W.A.はWith Averageの略で、日本語では分損担保と呼ばれます。
W.A.条件は、一定の範囲で単独海損、すなわち貨物の一部損害を担保する条件です。
ただし、All Risks条件ほど広い担保ではありません。
W.A.条件では、海上危険によって生じた分損が一定の条件で担保される一方、貨物の性質、通常の損耗、梱包不備、遅延などは別途免責として問題になります。
また、旧約款では、一定割合以上の損害がある場合に分損を担保する考え方や、特定事故に関連する場合には割合にかかわらず担保される考え方が問題になります。
そのため、W.A.条件では、単に「分損担保」と覚えるだけでなく、どの原因による分損か、免責に該当しないか、特定事故との関係があるかを確認する必要があります。
F.P.A.条件
F.P.A.はFree from Particular Averageの略で、日本語では分損不担保と呼ばれます。
F.P.A.条件は、三条件の中で最も限定的な担保条件です。
原則として、貨物の一部損害である単独海損は担保されにくく、全損、推定全損、共同海損、救助料、または特定の重大事故に伴う分損が中心になります。
たとえば、船舶の沈没、座礁、大火災、衝突などの特定事故がある場合には、F.P.A.条件でも一定の分損が問題になることがあります。
一方、通常の濡損、破損、汚損、漏損などの分損が常に補償されるわけではありません。
したがって、F.P.A.条件の貨物で事故が発生した場合は、損害が全損なのか分損なのか、特定事故が発生しているのか、共同海損や救助料に該当するのかを確認する必要があります。
All Risks・W.A.・F.P.A.の比較
ICC 1963では、All Risks、W.A.、F.P.A.の違いを理解することが最も重要です。
All Risksは、偶然な外来事故による損害を広く担保する条件です。
W.A.は、一定の分損を担保する条件ですが、All Risksほど広くありません。
F.P.A.は、原則として単独海損を担保しない条件であり、全損、共同海損、救助料、特定事故に関連する損害が中心になります。
この違いは、事故発生時の保険金支払可否に直結します。
同じ貨物損害でも、All Risksなら対象になり得るものが、W.A.やF.P.A.では対象外または争点になることがあります。
Warehouse to Warehouse Clause
ICC 1963では、保険期間を理解するうえで、いわゆるWarehouse to Warehouse Clauseが重要です。
Warehouse to Warehouseとは、保険が単に本船上だけを対象とするのではなく、一定の条件のもとで、出発地の倉庫から仕向地の倉庫までの輸送過程を対象とする考え方です。
ただし、これは無制限に保険期間が続くという意味ではありません。
通常の輸送過程、仕向地到着後の保管期間、荷卸し後の経過日数、途中での売却・保管・配送先変更などによって、保険終期が問題になります。
実務では、貨物がどこから搬出され、どの運送経路を通り、どこで荷卸しされ、どの時点で通常の輸送過程を離れたかを確認する必要があります。
保険始期と終期
ICC 1963の保険期間を判断するには、貨物の実際の移動と保険証券上の条件を確認します。
保険は、出発地の倉庫または保管場所から通常の輸送を開始する時点で始まることがあります。
その後、通常の輸送過程を通じて継続し、仕向地の倉庫または最終保管場所に到着する時点、または約款で定められた期間経過により終了します。
ただし、仕向地で貨物が保管目的に切り替わった場合や、通常の輸送過程から離れた場合には、保険終期が早まることがあります。
そのため、事故が保険期間内に発生したかどうかを判断するには、B/Lの日付だけでなく、実際の搬出・輸送・荷卸し・保管の流れを確認する必要があります。
航海変更・危険変更
ICC 1963では、予定された航海や輸送経路に変更が生じた場合、保険者への通知が重要になります。
予定外の寄港、航路変更、積替え、途中保管、航海の中止、仕向地変更などが発生すると、保険条件や追加保険料が問題になることがあります。
これらの変更があっても、一定の条件のもとで担保が継続する場合がありますが、被保険者は速やかに保険者へ通知し、必要に応じて割増保険料を支払う必要があります。
通知を怠ると、事故時に担保継続が争点になる可能性があります。
フォワーダーや荷主は、船会社から航路変更や寄港地変更の通知を受けた場合、貨物保険への影響も確認する必要があります。
共同海損・救助料の扱い
ICC 1963では、共同海損と救助料の扱いも重要です。
共同海損とは、船舶・貨物・運賃などが共同の危険にさらされた場合に、その危険を避けるために合理的に行われた犠牲や費用を、関係者が分担する制度です。
救助料は、海難に遭った船舶や貨物を救助した者に対して支払われる報酬です。
貨物保険では、貨物自体が損傷していなくても、共同海損分担金や救助料が担保されることがあります。
そのため、F.P.A.条件のように分損が限定される条件であっても、共同海損や救助料は別途重要な担保項目になります。
実務では、共同海損宣言、Average Bond、Average Guarantee、保険会社への通知を速やかに行う必要があります。
Particular AverageとParticular Charges
ICC 1963を理解するうえでは、Particular AverageとParticular Chargesの違いも重要です。
Particular Averageは、共同海損ではない個別の貨物損害、すなわち単独海損を意味します。
W.A.やF.P.A.の違いは、このParticular Averageをどこまで担保するかに関係します。
一方、Particular Chargesは、損害防止や損害軽減のために支出された一定の費用を指します。
貨物事故では、損害そのものだけでなく、検査費用、選別費用、再梱包費用、保管費用などが問題になることがあります。
これらの費用が保険でどう扱われるかは、約款、事故原因、支出目的、保険会社の判断によって変わります。
免責事項
ICC 1963でも、保険者がすべての損害を支払うわけではありません。
代表的な免責として、遅延、貨物固有の性質、通常の自然損耗、通常の漏損・重量減少、梱包不備、被保険者の故意、戦争危険、ストライキ危険などが問題になります。
特に、遅延損害は貨物保険で誤解されやすい論点です。
船舶遅延により納期が遅れ、販売機会損失や違約金が発生しても、それだけで貨物保険の対象になるとは限りません。
また、貨物の性質に起因するむれ、かび、腐敗、変質、変色、さびなども、外来事故ではなく貨物固有の問題として整理されることがあります。
戦争危険・ストライキ危険との関係
ICC 1963では、戦争危険やストライキ危険は通常の貨物約款とは別に整理されることが一般的です。
捕獲、だ捕、拘束、抑留、戦争、内乱、機雷、魚雷などの危険は、通常の貨物約款では免責または別特約の対象となります。
ストライキ、暴動、民衆騒擾、労働争議、テロ行為なども、通常の貨物条件とは別に確認が必要です。
そのため、危険地域を通過する貨物や、政情不安のある地域向け貨物では、Institute War ClausesやInstitute Strikes Clausesの有無を確認します。
なお、海賊危険の扱いは、旧約款、新約款、戦争約款、特別条件によって整理が変わることがあるため、保険証券と約款文言を個別に確認する必要があります。
インコタームズとの関係
ICC 1963は保険約款であり、インコタームズとは役割が異なります。
インコタームズは、売主と買主の間で、費用負担、リスク移転、輸送手配、保険手配義務などを整理する売買条件です。
一方、ICC 1963は、保険契約上どの危険を担保するかを定める約款です。
たとえば、FOBやCFRでは、買主側が保険を手配することが多く、CIFでは売主側が保険を手配することが前提になります。
ただし、インコタームズ上のリスク移転時期と、貨物保険の保険期間は必ずしも同じものではありません。
実務では、売買契約、インコタームズ、保険証券、B/L、貨物の実際の移動を合わせて確認する必要があります。
確認すべき書類
ICC 1963に関係する貨物保険実務では、次の書類を確認します。
- 貨物保険証券
- 保険証明書
- Institute Cargo Clauses 1963の適用条件
- All Risks、W.A.、F.P.A.の指定
- Institute War Clauses
- Institute Strikes Clauses
- インボイス
- パッキングリスト
- B/LまたはSea Waybill
- Air Waybill
- 売買契約書
- L/C
- インコタームズ条件
- 運送契約
- 事故報告書
- サーベイレポート
- 損害写真
- 修理見積書
- 廃棄証明書
- 共同海損声明書
- Average Bond
- Average Guarantee
- 救助料関連資料
- 保険者への通知記録
特に、旧約款では条件名だけでなく、保険証券にどの約款・特別約款が添付されているかを確認することが重要です。
具体例
F.P.A.条件で分損が問題になったケース
輸送中に一部貨物が濡損したものの、船舶の沈没、座礁、大火災、衝突などの特定事故が確認できない場合があります。
この貨物がF.P.A.条件で付保されていた場合、単独海損としての分損は担保されない可能性があります。
荷主は貨物に損害があれば当然保険金が支払われると考えがちですが、F.P.A.条件では補償範囲が限定されます。
このケースでは、出荷前にF.P.A.条件で足りる貨物か、W.A.またはAll Risks条件にすべきかを確認すべきでした。
W.A.条件で損害割合が問題になったケース
貨物に一部損傷が生じた場合でも、W.A.条件では損害の原因、損害割合、特定事故の有無が問題になることがあります。
特定事故に該当する場合と、単なる通常輸送中の損傷では、保険上の扱いが変わる可能性があります。
このケースでは、サーベイレポートにより、事故原因、損害割合、船舶事故の有無を明確にする必要がありました。
All Risks条件でも梱包不備が争点になったケース
All Risks条件で付保されていた貨物が輸送中に破損した場合でも、梱包が輸送に耐えないものであった場合、梱包不備が免責として問題になることがあります。
All Risksは広い担保条件ですが、梱包不備や貨物固有の性質まで無条件に担保するものではありません。
このケースでは、貨物の性質、梱包仕様、輸送方法、事故原因を確認し、外来事故による損害かどうかを整理すべきでした。
共同海損で無傷貨物にも分担金が発生したケース
船舶火災の消火活動や避難港入港により共同海損が宣言されることがあります。
貨物自体が無傷であっても、共同海損分担金を求められる場合があります。
貨物保険に加入していれば、保険会社がAverage Guaranteeを発行し、分担金に対応することがあります。
このケースでは、荷主は貨物損害の有無にかかわらず、共同海損通知を受けた時点で保険会社へ連絡すべきでした。
航路変更の通知が遅れたケース
船会社の都合や安全上の理由で、予定外の寄港や航路変更が発生することがあります。
航路変更が保険条件に影響する場合、被保険者は速やかに保険者へ通知し、必要に応じて割増保険料を支払う必要があります。
通知が遅れると、事故発生時に担保継続が争点になることがあります。
このケースでは、フォワーダーが船会社から航路変更通知を受けた段階で、荷主と保険代理店へ情報共有すべきでした。
注意点
ICC 1963は、現在のICC(A)(B)(C)とは異なる旧体系の約款です。
All Risks、W.A.、F.P.A.という名称だけで補償範囲を判断せず、保険証券、約款本文、特別約款を確認する必要があります。
All Risksであっても、遅延、貨物固有の性質、梱包不備、通常損耗、戦争・ストライキ危険などは免責または別特約の問題になります。
W.A.とF.P.A.では、分損の扱いが大きく異なります。
共同海損・救助料は、貨物自体の損害とは別に重要な担保項目です。
古い保険証券や海外取引先の条件にICC 1963が出てきた場合、現在のICC(A)(B)(C)と同じ前提で処理しないことが重要です。
まとめ
1963年版協会貨物約款(ICC 1963)は、All Risks、W.A.、F.P.A.という旧来の条件体系で構成された貨物海上保険の基本約款です。
現在のICC(A)、ICC(B)、ICC(C)とは名称も構造も異なるため、古い保険証券や海外書類でICC 1963が出てきた場合は、補償範囲を個別に確認する必要があります。
実務上重要なのは、三条件の違い、Warehouse to Warehouse Clause、共同海損・救助料、免責、戦争・ストライキ危険、航路変更時の通知義務です。
ICC 1963を理解することは、貨物保険の旧体系を読み解くだけでなく、現在のICC(A)(B)(C)の構造を理解するうえでも有用です。
