展示品の往復輸送・再輸出・ATAカルネと貨物保険
展示品の往復輸送・再輸出・ATAカルネと貨物保険とは
展示品の往復輸送・再輸出・ATAカルネと貨物保険とは、展示会、見本市、商談会、イベントなどのために一時的に輸出入される貨物について、輸出、現地搬入、展示、撤去、再梱包、返送、再輸出までの保険期間と責任区間を整理する実務論点です。
展示品貨物は、通常の販売貨物と異なり、目的地で消費・販売されず、展示後に返送または再輸出されることがあります。また、複数国を巡回して展示される場合もあります。
そのため、貨物保険では、片道輸送だけでなく、往復輸送、現地展示中、現地保管中、再輸出中、返送中のリスクをどこまで担保するのかを確認する必要があります。
展示品貨物で往復輸送が問題になる理由
展示品貨物では、輸送が一回で終わらないことがあります。
たとえば、日本から海外展示会へ展示品を送り、会期終了後に日本へ返送する場合、または海外から日本へ一時輸入した展示品を会期終了後に再輸出する場合があります。
さらに、同じ展示品を複数国の展示会で使用する場合には、国から国へ再輸出される巡回展示になることがあります。
このような場合、貨物保険の保険期間、保険金額、現地保管中の担保、返送時の担保、再輸出時の担保を事前に確認しておかないと、事故発生後に「どの保険で扱うのか」が問題になります。
往復輸送で確認すべき保険期間
展示品貨物の往復輸送では、保険期間の確認が重要です。
往路の輸送保険だけを手配している場合、展示会場到着後や返送時の事故が対象外になることがあります。
確認すべき主な区間は次のとおりです。
- 出発地倉庫から輸出港または空港まで
- 国際輸送中
- 到着港または空港から展示会場まで
- 展示会場搬入中
- 開梱・設営中
- 会期中
- 撤去・再梱包中
- 展示会場から返送港または空港まで
- 返送・再輸出中
- 最終返送先倉庫まで
この全体を一つの往復輸送として整理するのか、往路・会期中・復路を分けて保険手配するのかを確認する必要があります。
再輸出が問題になる場面
展示品貨物では、再輸出が問題になることがあります。
再輸出とは、一時的に輸入された貨物を、国内で消費・販売せず、再び国外へ送り出すことをいいます。
展示会貨物では、次のような場面で再輸出が発生します。
- 海外から日本の展示会へ持ち込んだ展示品を会期終了後に返送する場合
- 日本から海外展示会へ送り、別の国の展示会へ転送する場合
- 複数国の見本市を巡回する場合
- 展示後に販売せず、製造元や所有者へ返送する場合
- 展示後に修理・再調整のため別国へ送る場合
再輸出がある場合には、通関上の手続、輸送手配、保険期間、現地保管期間、返送先を正確に整理する必要があります。
ATAカルネとは
ATAカルネとは、展示品、見本品、職業用具などを一時的に輸出入する際に、通関手続を簡素化するために利用されることがある国際的な通関書類です。
展示会や見本市では、貨物を一時的に現地へ持ち込み、会期終了後に再輸出することがあります。このような場合に、ATAカルネが利用されることがあります。
ただし、ATAカルネは通関手続に関する制度であり、貨物の破損、盗難、紛失、水濡れ、展示中損害を担保する保険ではありません。
そのため、ATAカルネを使用しているからといって、貨物損害が保険で補償されるわけではありません。通関手続と貨物保険は、別に確認する必要があります。
ATAカルネと貨物保険を混同しない
展示品貨物では、ATAカルネと貨物保険を混同しないことが重要です。
ATAカルネは、一時輸入・一時輸出に関する通関手続を円滑にするための書類です。一方、貨物保険は、輸送中や一定の保険期間中に貨物へ発生した損害を対象とする保険です。
ATAカルネが有効であっても、貨物保険の保険期間が終了していれば、展示中や返送中の損害が対象外になることがあります。
逆に、貨物保険が手配されていても、ATAカルネ上の再輸出期限や通関手続が適切に管理されていなければ、通関上の問題が発生することがあります。
実務では、通関上の期限管理と、貨物保険の保険期間管理を分けて確認することが重要です。
一時輸入・一時輸出の期限管理
展示品貨物では、一時輸入・一時輸出の期限管理が重要になります。
会期終了後に貨物を再輸出する予定であっても、展示期間の延長、販売交渉、修理、次の展示会への転送、荷主都合による保管延長などにより、予定より長く現地に残ることがあります。
この場合、通関上の期限だけでなく、貨物保険の保険期間も確認する必要があります。
展示品が現地に長く残る場合には、貨物保険が引き続き有効か、現地保管中の保険を別途手配すべきか、保険期間延長が必要かを確認します。
現地展示中・現地保管中のリスク
展示品貨物では、現地展示中や現地保管中のリスクも問題になります。
輸送中には問題がなくても、展示会場での設営中、会期中、撤去中、現地倉庫保管中に損害が発生することがあります。
主なリスクは次のとおりです。
- 展示会場での接触・転倒・破損
- 設営作業中の部品破損
- 会期中の盗難・紛失
- 会場内の火災・漏水
- 現地倉庫での保管中損害
- 撤去・再梱包中の破損
- 返送前の保管中の水濡れ・汚損
これらのリスクが貨物保険で担保されるのか、展示会保険、動産総合保険、現地保険、施設側保険で扱うべきなのかを事前に確認する必要があります。
ラウンド輸送・巡回展示の注意点
展示品を複数国で巡回展示する場合には、ラウンド輸送として保険を設計する必要があります。
たとえば、日本からA国の展示会へ送り、その後B国、C国の展示会を回り、最終的に日本へ戻す場合です。
この場合、各国間の輸送、各展示会場での保管、会期中、再梱包、次の展示地への輸送が連続します。
事故が発生した場合には、どの国のどの区間で発生したのか、どの保険期間に含まれるのか、現地保険が必要だったのかを確認する必要があります。
ラウンド輸送では、単純な片道貨物保険では対応できないことがあるため、輸送計画全体を事前に保険会社または保険代理店へ説明しておくことが重要です。
海外展示会と現地付保規制
海外展示会では、現地付保規制にも注意が必要です。
国や地域によっては、現地に所在する貨物、現地法人が管理する貨物、現地で長期間保管される貨物について、国外保険会社が直接保険を引き受けることに制限がある場合があります。
そのため、日本側の貨物保険で輸出から展示、返送まで一括して整理できるのか、現地保険、会場保険、施設側保険を確認すべきかを検討する必要があります。
特に、現地法人が展示品を管理する場合、現地倉庫で保管する場合、展示後に現地販売へ切り替える可能性がある場合には、現地の保険手配を確認することが重要です。
実務では、輸送延長として扱うべき部分と、現地保管・現地管理リスクとして別に扱うべき部分を分けて整理します。
事故処理の主体
展示品貨物では、事故処理の主体も問題になります。
輸出者、輸入者、現地法人、展示会主催者、会場管理者、施工業者、フォワーダー、現地代理店、保険会社など、多くの関係者が関与します。
事故が起きた場合、誰が保険会社へ通知するのか、誰がサーベイを手配するのか、誰が修理・再製作・廃棄・返送を判断するのかを事前に決めておくことが重要です。
海外展示会では、現地で事故が発生しても、輸出者側で損害処理を行うことがあります。その場合でも、現地法人や現地業者が貨物を管理していた場合には、現地側の資料、写真、事故報告、会場側保険の有無を早期に確認する必要があります。
保険金額・評価額の問題
展示品の往復輸送・再輸出では、保険金額と評価額も重要です。
展示品は、販売用貨物ではなく、試作品、サンプル品、デモ機、宣伝用展示物、特注品、美術品であることがあります。
この場合、通常の仕入価格だけで評価できないことがあります。製造原価、再製作費、修理費、展示価値、残存価値、返送費用、再輸送費用などを考慮する必要があります。
事故後に評価方法で揉めないよう、保険金額、評価方法、修理・再製作費用、残存価値の考え方を事前に確認しておくことが重要です。
荷主との事前契約で整理すべき事項
展示品の往復輸送・再輸出では、荷主との事前契約が重要です。
特に、海外展示会、複数国の巡回展示、一時輸入・一時輸出、ATAカルネを利用する場合には、次の事項を整理しておくことが望まれます。
- 往路・復路・再輸出時の貨物保険の有無
- 展示会場搬入後の保険期間
- 会期中・撤去中・再梱包中の担保範囲
- 現地保管中の保険手配
- 現地付保規制・現地保険の確認
- ATAカルネの管理者
- 一時輸入・一時輸出の期限管理
- 再輸出・返送の手配責任
- 展示品の評価額・保険金額
- 事故発見時の通知方法
- サーベイ手配の権限
- 修理、廃棄、再製作、再輸送の判断権限
- 弁護士費用、サーベイ費用、検査費用、保管費用の負担
- 展示会業者・施工業者・運送人・現地代理店への求償協力義務
展示品貨物では、輸送、展示、通関、保管、返送、再輸出が連続するため、役割分担を記録化しておくことが重要です。
フォワーダー実務上の注意点
フォワーダーやNVOCCの立場では、展示品の往復輸送・再輸出は、通常貨物よりも管理範囲が広くなりやすい業務です。
フォワーダーが片道輸送だけを手配したのか、展示会場搬入、会期中保管、返送、再輸出、ATAカルネ管理まで関与したのかによって、責任範囲が変わります。
荷主が「往復で保険がある」と思っていても、実際には往路だけの保険手配である場合があります。また、ATAカルネを利用していることと、貨物損害保険が有効であることは別問題です。
フォワーダーは、保険期間、返送時の保険、再輸出時の保険、現地保険の要否、ATAカルネ管理者、事故時の連絡体制について、事前確認を促すことが重要です。
海事弁護士を利用すべき場面
展示品の往復輸送・再輸出では、貨物保険だけでなく、通関手続、現地保険、展示会場の利用条件、施工業者との契約、フォワーダー責任、求償が問題になることがあります。
特に、損害額が大きい場合、海外展示会で現地法人や現地保険が関係する場合、ATAカルネや再輸出手続の管理が問題になる場合、会場内作業中の事故で責任者が争われる場合、荷主からフォワーダーへ賠償請求がされている場合には、早い段階で海事弁護士の関与を検討することが重要です。
展示品貨物は、輸送、展示、通関、再輸出、現地保険が絡むため、保険実務だけで判断すると対応を誤る可能性があります。
証拠として重要になる資料
展示品の往復輸送・再輸出では、事故がどの区間で発生し、どの保険期間に含まれるのかを確認するための資料が重要です。
保険・通関に関する資料
- 保険証券または保険条件
- 展示品に関する特別条件
- 往復輸送・返送・再輸出に関する保険条件
- ATAカルネ関係書類
- 一時輸入・一時輸出の期限管理資料
- 現地保険、会場保険、施設側保険に関する確認記録
輸送・展示に関する資料
- B/L、Waybill、Booking確認書
- 搬入・搬出予定表
- 展示会スケジュール
- 搬入記録、開梱写真、設営記録
- 撤去記録、再梱包時の写真
- 返送・再輸出に関する手配記録
- 現地法人、会場管理者、施工業者との連絡記録
事故確認・求償に関する資料
- 貨物写真
- 損害箇所の写真
- 梱包状態の写真
- 事故発見日時と発見場所の記録
- サーベイレポート
- 関係者への事故通知記録
- 荷主との契約書、見積条件、作業指示書
- 展示会業者、施工業者、運送人、現地代理店、フォワーダーとのやり取りの記録
事故処理の基本フロー
展示品の往復輸送・再輸出で事故が発生した場合、実務上は次の順番で対応します。
- 貨物の損害状態を写真で記録する。
- 事故発見日時と発見場所を確認する。
- 事故が往路輸送中、搬入中、会期中、撤去中、返送中、再輸出中のどこで発生したかを確認する。
- 貨物保険の保険期間と往復輸送の担保範囲を確認する。
- ATAカルネや一時輸入・一時輸出の手続状況を確認する。
- 現地保険、会場保険、施設側保険の有無を確認する。
- 搬入記録、開梱写真、設営記録、撤去記録、再梱包写真を確認する。
- 返送・再輸出の手配状況を確認する。
- 保険会社、保険代理店、フォワーダー、関係業者へ通知する。
- 必要に応じてサーベイを手配する。
- 修理、再製作、廃棄、返送の判断を保険会社・荷主と確認する。
- 展示会業者・施工業者・運送人・現地代理店への求償可能性を確認する。
- 荷主との契約条件と費用負担を確認する。
- 損害額が大きい場合や責任論が複雑な場合は、海事弁護士の利用を検討する。
- 貨物保険請求とフォワーダー賠償責任の有無を分けて整理する。
実務上のポイント
- 展示品の往復輸送では、往路だけでなく復路・再輸出時の保険手配を確認する。
- ATAカルネは通関手続であり、貨物損害を担保する保険ではない。
- 一時輸入・一時輸出の期限管理と、貨物保険の保険期間は別に確認する。
- 会期中・現地保管中・撤去中・再梱包中の損害は、通常輸送中損害とは分けて整理する。
- 海外展示会では、現地付保規制、現地法人、会場保険、現地保険の確認が重要になる。
- 巡回展示では、国ごとの輸送区間と保険期間を明確にする。
- 事故後は、保険、通関、展示、返送、再輸出の資料を一体で確認する。
- 責任関係が複雑な場合は、海事弁護士の利用を検討する。
まとめ
展示品の往復輸送・再輸出・ATAカルネでは、輸出、展示会場搬入、会期中、撤去、再梱包、返送、再輸出までの全体を見て、保険期間と責任区間を整理する必要があります。
ATAカルネは、一時輸入・一時輸出の通関手続を円滑にするための書類であり、貨物損害を担保する保険ではありません。通関手続と貨物保険は、別に確認する必要があります。
海外展示会では、日本側の貨物保険だけで一括して処理できるとは限らず、現地付保規制、現地法人、会場保険、現地での火災・盗難等の保険手配も確認する必要があります。
フォワーダーやNVOCCにとっては、往復輸送、再輸出、ATAカルネ、現地保険、事故後の証拠保全、海事弁護士との連携まで含めて、荷主との役割分担を明確にしておくことが重要になります。
同義語・別表記
関連用語
公式情報
- 公式ホームページ: https://marineinsurance.jp/
