ICC2009約款(Institute Cargo Clauses 2009)
概要
ICC2009約款(Institute Cargo Clauses 2009)は、外航貨物海上保険の補償危険、免責、保険期間、保険金請求、損害防止義務その他の基本条件を定める英文貨物保険約款です。
ICC2009は一つの単独約款を意味するものではありません。基本条件としてICC(A)、ICC(B)及びICC(C)があり、必要に応じてInstitute War Clauses、Institute Strikes Clauses、Termination of Transit Clause (Terrorism)、貨物別約款及び個別endorsementを組み合わせます。
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)は、補償危険の定め方が異なります。一方、梱包不十分、不堪航、戦争、ストライキ・テロ、保険期間、被保険利益、損害防止義務など、多くの共通条項を持っています。
実務上は、「ICC2009」という名称だけで補償範囲を判断できません。どの基本条件が選択されているか、約款日付が1/1/09であるか、War又はStrikes条件が付帯されているか、個別endorsementにより標準文言が修正されていないかを確認する必要があります。
本記事は、ICC2009の体系的位置づけ、約款相互の関係及び個別保険契約の読み方を扱います。ICC(1982)からの条文変更、梱包免責、倒産免責、不堪航免責、航海変更等の詳細は、ICC2009新約款の主な変更点で扱います。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| ICC2009の位置づけ | 法令ではなく、貨物保険契約へ組み込まれるモデル約款であること | ICC2009新約款の主な変更点で、ICC(1982)からの改定内容を扱う |
| 基本三条件 | ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の役割及び体系上の違い | 協会貨物約款(ICC-A・ICC-B・ICC-C)の違いで、個別危険を詳しく扱う |
| 共通条項 | 免責、保険期間、被保険利益、損害防止及び準拠法の共通構造 | 各免責及び保険期間の専門記事で、個別条項の当てはめを扱う |
| 適用版の判定 | 保険証券、包括予定保険契約及びendorsementから年版を確認する方法 | 外航貨物海上保険証券の見方で、証券記載事項全体を扱う |
| 戦争危険 | 基本ICCとInstitute War Clausesの役割分担 | Institute War Clausesで補償危険及び保険期間を詳しく扱う |
| ストライキ・テロ危険 | Institute Strikes Clauses及びテロ危険終期条項との関係 | Institute Strikes Clausesで補償危険を詳しく扱う |
| 貨物別・個別条件 | 貨物別約款、保証条項及びendorsementが標準ICCを修正する構造 | 中古機械、冷凍貨物、ばら積貨物等の各専門記事で引受条件を扱う |
| 売買条件との関係 | Incotermsと貨物保険約款が別の役割を持つこと | CIF、CIP、FOB等の各記事で危険移転及び保険手配義務を扱う |
| 運送契約との関係 | B/L及び運送人責任と貨物保険の補償責任を区別すること | 運送人への貨物損害賠償請求で責任制限及び請求期限を扱う |
| 個別事故の補償判断 | 判断に必要な約款体系及び確認順序 | 最終的な補償可否は証券、特約、準拠法及び事故事実から個別に判断する |
ICC2009の制度的位置づけ
ICC2009は法律、条約又は行政上の強制規則ではありません。保険会社と保険契約者が締結する貨物保険契約へ組み込むことによって、契約条件として機能するモデル約款です。
したがって、ICC2009の標準文言が存在していても、すべての貨物保険契約へ自動的に適用されるわけではありません。保険証券、保険証明書、包括予定保険契約、保険承認状又はendorsementにより、使用する約款の種類及び日付を特定する必要があります。
個別契約では、標準ICCに追加条項を付けること、特定条項を削除すること、免責金額を設けること、保管期間を変更すること、特定の貨物・航路・船舶について条件を追加することがあります。
このため、ICC2009を読む場合は、標準約款本文だけでなく、証券表面、明細、特約、endorsement及び包括契約を一体として確認します。
ICC2009約款体系の全体像
| 階層 | 主な文書・約款 | 主な役割 | 単独では判断できない事項 | 実務上の確認 |
|---|---|---|---|---|
| 保険契約の基本文書 | 保険証券、保険証明書、包括予定保険契約 | 被保険者、貨物、金額、区間、基本条件を特定する | 約款全文の詳細 | 証券番号、From/To、保険金額、適用約款を確認する |
| 通常危険の基本条件 | ICC(A)、ICC(B)、ICC(C) | 通常の輸送危険及び基本免責を定める | 戦争、ストライキ及びテロ危険 | 条件記号と1/1/09等の日付を確認する |
| 戦争危険 | Institute War Clauses (Cargo) | 戦争、内乱、一定の拿捕・抑留等を別建てで補償する | 通常の破損、水濡れ、盗難等 | 付帯の有無、始期、終期及び取消条件を確認する |
| ストライキ・テロ危険 | Institute Strikes Clauses (Cargo) | ストライキ、暴動及び一定のテロ・動機行為を別建てで補償する | 戦争危険及び通常輸送危険 | 対象危険と保険期間を確認する |
| テロ危険の終期 | Termination of Transit Clause (Terrorism) | テロ危険補償が終了する場所及び時点を定める | 事故がテロ行為に該当するか | 保管、分配、コンテナ利用及び経過日数を確認する |
| 貨物別条件 | Commodity Clauses、冷凍貨物、中古機械等の条件 | 貨物固有の危険及び免責を定める | 基本ICCとの優先関係 | 貨物別約款及び優先順位条項を確認する |
| 個別修正 | endorsement、warranty、special condition | 標準約款を追加、削除又は修正する | 他の文書との優先順位 | 標準ICCと抵触する箇所を照合する |
| 周辺契約 | 売買契約、Incoterms、B/L、運送契約 | 危険負担、費用負担及び運送人責任を定める | 保険者の補償責任 | 貨物保険契約とは別の契約として確認する |
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の基本的な役割
| 比較項目 | ICC(A) | ICC(B) | ICC(C) | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 補償構造 | 免責事項を除き、偶然な外来事故を広く対象とする | 約款に列挙された危険を対象とする | ICC(B)より限定された列挙危険を対象とする | 条件名だけでなく事故原因との関係を確認する |
| 立証の中心 | 偶然な損害の発生と免責の有無 | 損害が列挙危険に合理的に起因するか | 損害が限定された列挙危険に起因するか | 損傷の存在だけでは補償可否を判断できない |
| 主な利用場面 | 一般貨物、高額貨物、破損しやすい貨物等 | 中間的な危険範囲を選択する場合 | 最低限の重大事故を中心に補償する場合 | 貨物の性質及び売買条件に合わせて選択する |
| 戦争危険 | 基本条件では免責 | 基本条件では免責 | 基本条件では免責 | Institute War Clausesを別途確認する |
| ストライキ・テロ危険 | 基本条件では免責 | 基本条件では免責 | 基本条件では免責 | Institute Strikes Clauses等を別途確認する |
| 共通免責 | 故意、通常損耗、梱包不十分、固有の欠陥、遅延等 | 同様の共通免責を持つ | 同様の共通免責を持つ | 広い条件でも免責事項は残る |
| 保険期間 | 共通するTransit Clauseを持つ | 共通するTransit Clauseを持つ | 共通するTransit Clauseを持つ | 補償危険の広さと保険期間を混同しない |
ICC(A)は一般に広い条件ですが、すべての損害を無条件に補償するものではありません。ICC(B)及びICC(C)では、事故原因が列挙危険に該当するかが特に重要です。
基本三条件の個別危険及び相違点は、協会貨物約款(ICC-A・ICC-B・ICC-C)の違いで扱い、本記事ではICC2009体系内の位置づけに限定します。
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)に共通する主要構造
| 条項群 | 主な内容 | 実務上確認する事項 | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|---|
| Risks Covered | 補償危険、共同海損、双方過失衝突条項 | A・B・Cのどの条件か、事故原因が何か | 条件名だけで補償が確定するわけではない |
| Exclusions | 一般免責、不堪航・不適合、戦争、ストライキ・テロ | 原因、作業主体、認識、付帯条件 | ICC(A)にも多数の免責がある |
| Duration | 保険始期、終期、運送契約打切り、航海変更 | 最初の移動、荷卸し、保管利用、通知 | 倉庫から倉庫まで常に無条件で継続するわけではない |
| Claims | 被保険利益、継送費用、推定全損、増加価額 | 損害時の被保険利益及び他保険 | 証券を持つだけで請求権が確定するとは限らない |
| Benefit of Insurance | 被保険者又は譲受人を対象とし、運送人等を利益させない | 被保険者、譲渡、裏書及び請求者の地位 | 運送人が貨物保険から当然に利益を受けるものではない |
| Minimising Losses | 損害防止軽減及び第三者への権利保全 | 事故通知、サーベイ、運送人への権利留保 | 保険請求だけ行えば足りるわけではない |
| Avoidance of Delay | 被保険者が合理的な迅速性をもって行動する義務 | 事故後の対応、修理、代替輸送及び通知 | 放置による損害拡大まで補償されるとは限らない |
| Law and Practice | 標準文言ではEnglish law and practiceを定める | 準拠法変更のendorsementの有無 | すべての契約で無修正の英国法が適用されるとは限らない |
ICC2009が適用される主な場面
| 適用場面 | 主な契約書類 | 確認する表示 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 一輸送ごとの貨物保険 | 保険証券、保険証明書 | Institute Cargo Clauses (A) 1/1/09等 | ICC(A)のみの表示では年版を確定できない |
| 包括予定保険 | 包括予定保険契約、保険承認状 | 基本約款名、日付、個別申告条件 | 個別証明書に省略された条件は包括契約で確認する |
| CIF又はCIP売主手配保険 | 売主手配証券、売買契約、裏書 | 適用ICC、保険金額、被保険者、譲渡 | Incoterms上の義務と実際の保険条件を照合する |
| L/C取引 | 信用状、呈示保険書類 | 信用状が要求する条件及び証券の実際の条件 | All Risksという表示だけではICC(A) 2009と確定しない |
| 三国間取引 | 複数の売買契約、保険証券、裏書 | 誰が手配し、誰が請求権を取得するか | 売主、仲介者及び最終買主の地位を分ける |
| 継続契約の更新 | 旧契約、更新承認書、変更endorsement | 約款版が1982年から2009年へ変更されたか | 契約更新だけで年版が自動変更されるとは限らない |
| 外国保険証券の譲渡 | 原証券、譲渡裏書、売買契約 | 約款版、準拠法及び譲渡要件 | 日本側の通常条件と同一とは限らない |
| 特殊貨物・プロジェクト貨物 | 証券、サーベイ条件、保証条項 | 標準ICCに追加された条件 | 標準ICCより個別条件が実務上重要となる |
ICC2009を適用して保険金を請求するための基本要件
| 要件 | 確認内容 | 主な確認資料 | 不足した場合の問題 |
|---|---|---|---|
| 約款の組込み | ICC2009が保険契約へ有効に組み込まれていること | 証券、包括契約、endorsement | 別の年版又は別約款が適用される |
| 対象貨物 | 事故貨物が保険目的物として申告されていること | 申告書、インボイス、パッキングリスト | 申告漏れ又は貨物相違が問題となる |
| 被保険利益 | 損害発生時に請求者が被保険利益を持つこと | 売買契約、Incoterms、所有・危険移転資料 | 保険金請求権が認められない可能性がある |
| 保険期間 | 事故が保険始期後かつ終期前に発生したこと | 搬出記録、運送記録、荷卸し記録 | 期間外事故として対象外となる |
| 補償危険 | ICC(A)又はICC(B)・ICC(C)の対象危険に該当すること | 事故報告、サーベイ、気象・運送記録 | 原因が対象危険に該当しない |
| 免責非該当 | 梱包不良、固有の欠陥、遅延等の免責に該当しないこと | 梱包記録、検査記録、事故原因資料 | 補償危険でも免責となる |
| 契約上の条件履行 | 申告、通知、サーベイ又は保証条件を履行していること | 通知メール、承認書、サーベイ証明 | 個別条件違反が問題となる |
| 損害額の立証 | 修理費、再調達費、残存価値等を立証できること | 請求書、見積書、鑑定資料 | 支払額を確定できない |
| 権利保全 | 運送人その他の第三者への権利を保存していること | 事故通知、権利留保通知、受渡記録 | 保険者の代位求償権を害する可能性がある |
ICC2009だけでは判断できない場面
| 対象外又は別途確認が必要な場面 | ICC2009だけでは判断できない理由 | 確認すべき契約・制度 |
|---|---|---|
| 戦争危険 | 基本ICCでは免責される | Institute War Clauses及び取消条件 |
| ストライキ・テロ危険 | 基本ICCでは免責される | Institute Strikes Clauses及びテロ危険終期条項 |
| 納期遅延・逸失利益 | 通常の貨物保険は物的損害を中心とする | 遅延利益保険、プロジェクト保険、売買契約 |
| 運送人の賠償責任 | ICCは保険者と被保険者の契約条件である | B/L、運送約款、条約及び国内法 |
| 売主と買主の危険移転 | ICCは売買当事者間の危険を定めない | 売買契約及びIncoterms |
| 所有権移転 | ICC及びIncotermsだけでは所有権を決めない | 売買契約及び準拠法 |
| 国内輸送だけの契約 | 国内運送保険の独自約款が使用される場合がある | 運送保険普通保険約款及び特別約款 |
| 航空貨物 | 海上貨物用ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)とは別の航空貨物約款がある | Institute Cargo Clauses (Air) |
| 制裁対象取引 | 標準ICCの補償危険とは別に制裁条項が適用される | Sanction Limitation and Exclusion Clause及び関係法令 |
| サイバー関連損害 | 個別のサイバー除外又はendorsementが適用される場合がある | Marine Cyber Endorsementその他の個別条件 |
標準ICCと個別保険契約の優先関係
ICC2009の標準文言だけを読んでも、個別契約の最終条件は確定しません。通常は、複数の文書が一つの保険契約を構成します。
| 確認順位 | 文書 | 主な役割 | 確認上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 証券表面・明細 | 被保険者、貨物、金額、区間、基本条件を特定する | 条件名、日付及び免責金額を確認する |
| 2 | 個別endorsement・特別条件 | 標準条件を追加、削除又は修正する | 抵触する範囲で標準ICCより優先する場合がある |
| 3 | 貨物別約款・保証条項 | 貨物又は輸送方法固有の条件を定める | サーベイ、梱包、船舶又は保管条件を確認する |
| 4 | ICC(A)・ICC(B)・ICC(C) | 通常危険、免責、保険期間及び請求条件を定める | 1/1/09等の約款日付を確認する |
| 5 | War・Strikes等の別建て約款 | 基本ICCで免責された危険を補完する | 補償危険だけでなく保険期間も確認する |
| 6 | 普通保険約款・準拠法条項 | 保険契約全体の一般事項を定める | 標準ICCとの優先順位及び準拠法を確認する |
同じICC(A) 2009であっても、endorsement、免責金額、保管条件、貨物別条件及び準拠法が異なれば、実際の補償内容も異なります。
ICC(1982)からの変更点との役割分担
ICC2009の体系を理解するうえで、1982年版からの変更点を把握することは重要です。ただし、本記事では各変更条項の詳細な解釈を繰り返しません。
| 主な変更分野 | ICC2009体系上の位置 | 本記事で確認する内容 | 詳細を扱う記事 |
|---|---|---|---|
| 保険始期・終期 | Duration | ICC三条件に共通する保険期間条項であること | ICC2009新約款の主な変更点 |
| 梱包不十分免責 | General Exclusions | 基本三条件に共通する免責であること | ICC2009新約款の主な変更点 |
| 船主等の倒産 | General Exclusions | 通常危険の広さとは別の共通免責であること | ICC2009新約款の主な変更点 |
| 不堪航・不適合 | Unseaworthiness and Unfitness Exclusion | 船舶とコンテナ等が別の構造で扱われること | ICC2009新約款の主な変更点 |
| 航海変更 | Duration | 通知及び条件協定を要する条項であること | ICC2009新約款の主な変更点 |
| 善意の譲受人 | 特定免責及びBenefit of Insurance | 譲渡された契約でも請求者の地位確認が必要なこと | ICC2009新約款の主な変更点 |
| テロ関連文言 | Strikes Exclusion及び別建てStrikes条件 | 基本ICCと別建て補償を一体で確認すること | ICC2009新約款の主な変更点 |
War・Strikes・Terrorism関連条件との関係
| 条件 | 対象となる主な危険 | 基本ICCとの関係 | 保険期間上の特徴 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ICC(A)・ICC(B)・ICC(C) | 通常の輸送危険 | 戦争及びストライキ・テロ危険を免責する | 通常のTransit Clauseによる | 基本条件だけで特殊危険が補償されると考えない |
| Institute War Clauses | 戦争、内乱、一定の拿捕・抑留、遺棄兵器等 | 基本ICCの戦争免責を別建てで補完する | 通常の貨物保険とは異なる始期・終期を持つ | 陸上区間を含むか、取消通知が出ていないか確認する |
| Institute Strikes Clauses | ストライキ、暴動、一定のテロ・動機行為 | 基本ICCのストライキ・テロ免責を別建てで補完する | 通常輸送過程との関係を確認する | 労働力不足又は単なる遅延そのものとは区別する |
| Termination of Transit Clause (Terrorism) | テロ危険補償の終期 | 抵触する保険期間条項に優先する場合がある | 荷卸し、別用途保管、コンテナ保管利用又は所定日数で終了する | Strikes条件の付帯だけで無期限に継続すると考えない |
| 個別戦争・制裁endorsement | 特定航路、地域、船舶又は制裁危険 | 標準War条件を修正する | 取消通知又は地域変更で変動する | 船積前だけでなく航海中も通知を確認する |
ICC2009と他の契約・制度との比較
| 契約・制度 | 主な役割 | ICC2009との関係 | ICC2009では決まらない事項 | 確認資料 |
|---|---|---|---|---|
| 売買契約 | 売主と買主の権利義務、価格及び品質を定める | 被保険利益及び必要な保険設計に影響する | 所有権、代金支払及び契約違反責任 | 売買契約、注文書、信用状 |
| Incoterms | 引渡し、危険及び費用を分担する | 誰がどの区間の保険を必要とするかに影響する | 実際の保険者の補償責任 | 売買契約及び指定場所・港 |
| B/L・運送契約 | 運送区間及び運送人責任を定める | 事故原因、求償先及び保険代位に関係する | 貨物保険の補償可否 | B/L、Sea Waybill、運送約款 |
| 保険証券 | ICCを個別契約へ組み込み、貨物・区間・金額を特定する | ICC2009を実際に適用させる基本文書 | 売買当事者間の危険移転 | 証券、証明書、包括契約 |
| 保険法・準拠法 | 保険契約の解釈及び法的効力を規律する | ICC条項の解釈及び有効性に影響する | 事故原因となった事実 | 準拠法条項、関連法令、判例 |
| 運送人賠償責任保険 | 運送人が負う法律上・契約上の賠償責任を補償する | 貨物所有者のICC保険とは別契約である | 貨物価額の無条件な全額補償 | 賠償責任保険証券、運送契約 |
| プロジェクト遅延保険 | 物的損害に起因する一定の遅延経済損失を補償する | 通常のICC貨物保険を補完する | すべての契約違約金又は遅延損害 | プロジェクト保険契約、工程表 |
ICC2009を確認する実務フロー
- 保険証券、保険証明書又は包括予定保険契約を取得する。
- ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)のどの条件が選択されているか確認する。
- 1/1/09等の約款日付を確認し、ICC(1982)と区別する。
- War、Strikes、Terrorismその他の別建て条件を確認する。
- endorsement、免責金額、貨物別約款及び保証条項を確認する。
- 被保険者、譲受人、保険金請求者及び被保険利益を確認する。
- From/To欄及び実際の物流工程から保険始期・終期を確認する。
- 事故原因がICC(A)又はICC(B)・ICC(C)の補償危険に該当するか確認する。
- 梱包不良、固有の欠陥、遅延その他の免責を確認する。
- 事故通知、サーベイ、損害防止及び第三者への権利保全を行う。
- 標準ICCと個別endorsementの優先関係を確認する。
- 約款版、準拠法又は請求権に争いがある場合は専門家へ相談する。
判断の出発点は「ICC2009という名称が使われているか」ではなく、個別契約に組み込まれた基本条件、日付、別建て条件及びendorsementを特定することです。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 証明書にICC(A)とのみ記載 | 約款日付の省略 | 包括予定保険契約、保険承認状 | 1982年版又は2009年版のどちらか | 保険会社又は保険代理店へ適用版を照会する |
| 個別証明書と包括契約の表示が異なる | 発行ミス又は更新時の切替え漏れ | 旧契約、更新endorsement、個別証明書 | どの文書が優先し、当事者が何を合意したか | 訂正証明書及び書面回答を取得する |
| ICC(A)だが戦争損害が発生 | War条件未付帯 | 証券、War endorsement、事故原因 | 基本ICCの戦争免責と別建て補償 | War条件の有無を確認し、事故通知を行う |
| テロ危険付帯後の長期保管中事故 | 通常輸送から保管への変更 | Strikes条件、Terrorism終期条項、保管指示 | 事故時にテロ危険補償が継続していたか | 保管目的、開始日及び再輸送予定を確定する |
| CIF買主が外国証券で請求 | 譲渡裏書又は被保険利益の不明確さ | 売買契約、原証券、裏書、代金決済 | 請求者がAssured又は有効なassigneeか | 権利移転書類を整理して保険者へ通知する |
| 特殊貨物で標準ICCと保証条項が競合 | サーベイ又は梱包条件の不履行 | 証券、保証条項、サーベイ記録 | 個別条件の内容及び優先順位 | 作業を止め、保険会社へ承認の要否を確認する |
| 運送人が自社保険で対応すると主張 | 貨物保険と賠償責任保険の混同 | ICC証券、運送契約、運送人保険 | 第一当事者保険と賠償責任請求の違い | 双方へ事故通知し、権利を留保する |
| 事故後にendorsementが発見された | 契約書類の分散管理 | 保険証券一式、メール、更新記録 | 標準ICCがどの範囲で修正されたか | 契約締結時点の全書類を収集する |
| From/To欄と実際の輸送経路が異なる | 申告漏れ、仕向地変更、倉庫変更 | 証券、運送書類、変更通知 | 変更区間が保険期間に含まれるか | 保険会社へ迅速に通知し条件を確認する |
実務担当者が確認すべき書類
| 書類 | 主な確認箇所 | 確認目的 | 不明な場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 保険証券・保険証明書 | 条件、日付、被保険者、From/To、保険金額 | 契約の基本内容を特定する | 保険会社又は保険代理店へ照会する |
| 包括予定保険契約 | 基本約款、申告条件、更新内容 | 個別証明書に省略された条件を確認する | 旧版を含む契約履歴を取得する |
| endorsement | 追加、削除、免責及び優先順位 | 標準ICCへの修正を確認する | 抵触関係を書面で確認する |
| War・Strikes関連約款 | 付帯、始期、終期及び取消条件 | 特殊危険の補償範囲を確認する | 基本ICCと別に全文を取得する |
| 売買契約・信用状 | Incoterms、保険条件、譲渡要件 | 被保険利益及び必要保険条件を確認する | 銀行、法務担当又は専門家へ確認する |
| B/L・運送書類 | 運送区間、運送人、仕向地及び変更 | 保険期間、事故区間及び求償先を確認する | freight forwarder又はshipping lineから記録を取得する |
| 事故・サーベイ資料 | 事故原因、場所、日時及び損害額 | 補償危険及び免責へ当てはめる | 修理又は処分前にサーベイを手配する |
制度適用シナリオ1:横浜港から輸出する機械の証明書にICC(A)としか記載されていない場合
日本のshipperが、2,400万円相当の精密機械を横浜港から輸出し、倉庫搬出中に貨物を落下させたとします。
社内で保管されていた保険証明書にはICC(A)とだけ記載され、1982年版か2009年版か分かりませんでした。shipperは、倉庫内の最初の搬出作業から保険が始まるICC2009が適用されると主張しました。
しかし、事故日が2009年以降であることや、証明書にICC(A)と記載されていることだけでは、ICC2009の適用は確定しません。
包括予定保険契約、更新endorsement及び保険承認状を確認し、Institute Cargo Clauses (A) 1/1/09が組み込まれているかを先に確定します。その後、搬出作業が保険始期の要件を満たすかを確認します。
約款版の確認と、事故を条項要件へ当てはめる作業は、別の段階として行う必要があります。
制度適用シナリオ2:神戸着CIF貨物に戦争損害が発生した場合
日本の買主が、6,800万円相当の化学品をCIF神戸で購入し、ICC(A) 1/1/09と記載された外国保険証券の譲渡を受けたとします。
輸送中、戦争に関連する拿捕により貨物の引渡しができなくなりました。買主はICC(A)が広い条件であるため、損害が補償されると考えました。
しかし、ICC(A) 2009は戦争危険を基本免責としています。Institute War Clausesが別途付帯されているか、その危険及び期間が事故を対象としているかを確認しなければなりません。
この場面では、ICC(A)かICC(B)かという通常危険の比較だけでは結論を出せません。基本ICC、War条件、取消通知、事故原因及び保険期間を一体として確認します。
制度適用シナリオ3:名古屋着貨物で個別endorsementが保管条件を修正していた場合
海外から名古屋港へ輸入した1億2,000万円相当の精密設備について、通関後もコンテナ内で25日間保管し、その間に水濡れ損害が発生したとします。
cargo ownerは、ICC2009の標準Transit Clauseでは本船荷卸し後60日以内であるため、当然に保険期間中だと主張しました。
しかし、個別endorsementには、コンテナを通常輸送以外の保管に使用した時点で保険を終了させる旨が明記されていました。また、標準ICC自体にも、輸送用具又はコンテナを通常輸送以外の保管に使用する選択が保険終期となる構造があります。
この場合、60日という数字だけで判断せず、コンテナを保管に使用する決定時点、通常輸送が継続していたか、endorsementが標準条項をどのように修正したかを確認します。
標準約款、個別endorsement及び実際の物流目的を順に当てはめる必要があります。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| ICC2009は一つの約款である | ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)と周辺約款からなる体系である | 基本条件と別建て条件を分けて確認する |
| 事故が2009年以降ならICC2009が適用される | 適用版は契約へ組み込まれた約款名及び日付で決まる | 証券及び包括契約を確認する |
| ICC(A)なら戦争・テロも補償される | 基本ICCでは戦争及びストライキ・テロ危険が免責される | War及びStrikes条件を別途確認する |
| ICC(A)はすべての損害を補償する | 梱包不良、固有の欠陥、遅延等の免責がある | 事故原因と免責を確認する |
| ICC(B)とICC(C)は保険金額が低い条件である | 主な違いは補償危険の範囲である | 保険金額と補償条件を分けて確認する |
| 保険証明書にICC(A)とあれば年版も分かる | ICC(1982)又はICC(2009)のどちらかは日付確認が必要である | 1/1/82又は1/1/09を確認する |
| 標準ICCは個別契約で変更できない | endorsement等により追加、削除又は修正される | 証券一式を確認する |
| IncotermsがICCの補償範囲を決める | Incotermsと貨物保険約款は別の契約構造である | 売買条件と保険条件を照合する |
| 運送人に責任があれば貨物保険は不要である | 運送人責任と貨物保険は根拠及び回収方法が異なる | 保険請求と賠償請求を並行して行う |
| 証券を持っていれば誰でも請求できる | 被保険者、assignee及び被保険利益の確認が必要である | 裏書及び売買契約を確認する |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 保険契約締結時 | 保険会社、保険代理店 | ICC条件、日付、免責金額及び別建て条件 | 証券又は保険承認状へ明記する |
| 包括契約更新時 | 保険会社、社内保険担当 | 約款版及びendorsementの変更 | 新旧条件を比較し書面で保存する |
| CIF・CIP契約締結時 | 売主、買主、保険会社 | 必要なICC条件、保険金額及び譲渡方法 | 売買契約へ具体的な保険条件を記載する |
| L/C発行時 | 銀行、売主、買主 | 信用状が要求する約款及び年版 | 曖昧なAll Risks表記を具体化する |
| 特殊貨物の船積前 | 保険会社、サーベイヤー、物流担当 | 保証条項、梱包、船舶及び保管条件 | 承認前に作業を開始しない |
| War・Strikes条件付帯時 | 保険会社、保険代理店 | 補償危険、始期、終期及び取消条件 | 基本ICCと別建て条件を一体で確認する |
| 証券受領時 | 売主、銀行、保険会社 | 被保険者、裏書、From/To及び約款日付 | 船積前又は書類受領時に訂正を求める |
| 仕向地・経路変更時 | 買主、shipping line、保険会社 | 変更区間、通知、追加条件及び制裁 | 迅速に通知し条件を協定する |
| 事故発生時 | 保険会社、サーベイヤー、運送人 | 適用約款、事故原因、区間及び証拠 | 修理又は処分前に通知して証拠を保存する |
| 保険金請求時 | 保険会社、保険代理店 | 被保険利益、損害額、他保険及び求償先 | 必要書類を整理し第三者への権利を留保する |
| 約款解釈に争いがある時 | 保険会社、海事弁護士、法務担当 | 標準ICC、endorsement、準拠法及び契約経緯 | 請求期限を確認し権利を留保する |
海事弁護士を利用すべき場面
通常の条件確認、事故通知及び保険金請求は、保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次の場合は、海上保険及び国際取引に詳しい弁護士への相談を検討します。
- ICC(1982)又はICC(2009)のどちらが契約へ組み込まれたか争いがある場合
- 標準ICCと個別endorsementの優先順位が不明な場合
- 被保険者、assignee又は被保険利益の帰属に争いがある場合
- 外国保険者が外国法又は外国裁判管轄を主張している場合
- War、Strikes又はTerrorism条件の適用・終期が争われている場合
- 制裁条項により補償又は保険金送金が制限されている場合
- 保険者と運送人が相互に責任を否定している場合
- 保険金請求期限、運送人への通知期限又は出訴期限が迫っている場合
ICCに基づく保険金請求と、運送人、売主、倉庫業者又は梱包業者への損害賠償請求は、根拠及び期限が異なります。保険者との協議を理由として、第三者への事故通知及び権利保全を省略しないことが重要です。
まとめ
ICC2009は、外航貨物海上保険で使用される一つの単独約款ではなく、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)を中心に、War、Strikes、Terrorism、貨物別約款及び個別endorsementを組み合わせて構成する約款体系です。
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)は補償危険の構造が異なりますが、免責、保険期間、被保険利益、損害防止義務及び準拠法等の共通条項を持っています。
ICC2009は法令ではなく、個別の保険契約へ組み込まれるモデル文言です。したがって、事故日やICC(A)という表示だけで適用版を判断せず、約款日付、証券、包括契約、War・Strikes条件、貨物別約款及びendorsementを確認する必要があります。
また、ICCは売買契約上の危険移転、所有権、運送人責任又はプロジェクト遅延損害を一律に決めるものではありません。Incoterms、B/L、売買契約及び賠償責任保険とは役割を分けて確認します。
実務上の判断は、個別契約へ組み込まれた文書を特定し、被保険者、貨物、区間、補償危険、免責及び事故原因を順に当てはめることから始まります。ICC(1982)からの個別変更内容は、ICC2009新約款の主な変更点で確認します。
