ICC(2009)の主な変更点と貨物海上保険実務への影響

ICC (2009) — Major Changes and Impact on Marine Cargo Insurance Practice

概要

ICC(2009)は、ICC(A)、ICC(B)及びICC(C)の基本的な補償構造を全面的に作り替えた約款ではありません。ICC(1982)の基本構造を維持しながら、国際物流、コンテナ輸送、保険証券の譲渡及び事故対応の実態に合わせて、解釈が分かれやすかった文言を整理したモデル約款です。

実務上重要な変更は、保険期間の始期及び終期、梱包又は輸送準備の不十分・不適切に関する免責、船主等の倒産・財務不履行、不堪航及び輸送用具不適合、保険契約を譲り受けた買主の取扱い、航海変更並びにテロ関連文言です。

ただし、事故発生日が2009年以降であるという理由だけで、ICC(2009)が適用されるわけではありません。適用される約款は、保険証券、保険証明書、包括予定保険契約、保険承認状、申込書又は特約に組み込まれた文言によって決まります。

また、ICC(2009)は市場で利用されるモデル文言です。個別の保険契約では、保険会社の普通保険約款、追加条項、削除条項、特別約款又は各国固有の規制によって修正されることがあります。本記事では、標準的なICC(1982)とICC(2009)の差を整理し、個別契約の最終的な補償判断そのものは扱いません。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 他記事で扱う内容
改定の位置付け ICC(1982)からICC(2009)へ改定された背景及びモデル約款としての性質 ICC2009約款(Institute Cargo Clauses 2009)で約款全体の構造を扱う
適用版の判定 証券、証明書、保険承認状及び特約から1982年版又は2009年版を判定する方法 外航貨物海上保険証券の見方で証券記載事項全体を扱う
保険期間 倉庫内での最初の移動、荷卸し完了、保管利用及び60日制限の変更 外航貨物海上保険の保険期間でTransit Clause全体を扱う
梱包免責 梱包主体、作業時期、コンテナ内積付け及び独立請負業者の取扱い 貨物保険における梱包不良免責で事故原因及び梱包責任を扱う
倒産・財務不履行 被保険者の認識要件及び善意の保険契約譲受人に対する例外 運送人倒産と貨物保険で運送契約打切り後の対応を扱う
不堪航・不適合 船舶・舟艇とコンテナ・輸送用具を分けた免責構造 船舶の不堪航と貨物保険で堪航性に関する詳細を扱う
航海変更 被保険者による仕向地変更、無認識の別仕向地航行及び通知義務 航海変更・抜港・強制荷卸し時の貨物保険対応で個別事故を扱う
戦争・ストライキ・テロ 基本約款の免責と別建て条項の関係 Institute War Clauses及びInstitute Strikes Clausesで各補償を扱う
保険契約譲受人 CIF取引及びL/C取引で善意の買主が保険証券を取得した場合の変更 CIF保険証券の譲渡と保険金請求権で請求実務を扱う
個別の保険金支払判断 変更点を確認するための判断材料 具体的な補償可否は保険証券、特約、準拠法及び事故事実から個別に判断する

ICC(2009)改定の背景と目的

ICC(1982)は長期間にわたり国際貨物保険の標準的な約款として使用されました。しかし、その間に、コンテナ輸送、複合一貫輸送、倉庫内作業、第三者による梱包・バンニング、保険証券の電子化及び貨物売買の形態が変化しました。

1982年版の文言には、「貨物が倉庫を離れた時」「最終倉庫へ引き渡された時」「被保険者又はその使用人が不堪航を知っていた時」など、物流工程又は関係者の立場によって解釈が分かれやすい部分がありました。

2009年改定は、補償危険の基本的な分類を維持しつつ、次の目的で文言を整理したものと理解できます。

  • 保険期間の開始及び終了を実際の荷役・輸送工程に合わせて明確にすること
  • 被保険者、従業員及び独立請負業者の区別を明確にすること
  • 船主等の倒産又は財務不履行免責を被保険者の認識と結び付けること
  • 船舶の不堪航とコンテナ・輸送用具の不適合を分けて整理すること
  • 善意で貨物及び保険契約上の権利を取得する買主を一定範囲で保護すること
  • 航海変更時の通知、追加条件及び保険継続の扱いを明確にすること
  • 政治的動機だけでなく思想的・宗教的動機による行為を明示すること
  • 古い市場用語を、現代の運送・保険実務で理解しやすい表現へ改めること

ICC(2009)は法令ではなくモデル約款です。したがって、「2009年版だから必ずこの結論になる」と判断せず、個別保険契約にどの文言が組み込まれ、どの特約で修正されているかを確認する必要があります。

ICC(2009)が適用される場面

場面 確認資料 適用版の判断 実務上の注意点
一輸送ごとの個別保険 保険証券、保険証明書 Institute Cargo Clauses (A) 1/1/09等の記載を確認する ICC(A)という記号だけで年版を推測しない
包括予定保険 包括予定保険契約書、保険承認状 包括契約に組み込まれた約款日付を確認する 個別申告書に年版がなくても包括契約側で決まることがある
CIF売主手配保険 保険証券、譲渡裏書、売買契約 売主が手配した証券の約款名及び日付を確認する 買主の国内保険が2009年版でも売主保険は1982年版の場合がある
L/C取引 信用状、呈示保険書類 L/C条件と実際の保険書類を照合する 単にAll Risksと記載されていても適用年版は確定しない
旧来の継続契約 更新前後の契約書、更新承認書 更新時に2009年版へ切り替わったか確認する 保険期間の更新だけで約款版が自動変更されたとは限らない
貨物保険の譲渡 原証券、譲渡裏書、売買契約 譲渡された契約に組み込まれた版が適用される 譲受日又は事故日を理由に2009年版へ置き換わるわけではない
追加特約付き契約 特約、endorsement、保険承認状 ICC本文より特約が優先する範囲を確認する 2009年版の標準文言が削除又は修正されている場合がある
戦争・ストライキ危険 War、Strikes及びTerrorism関連条項 基本ICCと別建て条項の各年版を確認する 基本ICCが2009年版でもWar条項が同じ版とは限らない

本記事の変更点比較がそのまま適用されない場面

対象外又は別途確認が必要な場面 理由 確認すべきもの
保険会社独自の英文貨物約款 標準ICCを修正又は置換している可能性がある 実際に添付された全文及び特約
日本語の国内運送保険約款 ICCではなく国内輸送用の別約款が適用される 運送保険普通保険約款及び特別約款
Institute Commodity Clauses等の貨物別約款 貨物固有の約款が優先又は併用される 貨物別約款及び優先順位条項
戦争・ストライキ・テロ危険の補償可否 基本ICCでは免責され、別条項によって補償される Institute War Clauses、Institute Strikes Clauses及び保険終期条項
保険契約の準拠法が変更されている場合 標準文言末尾のEnglish law and practiceが修正される場合がある 準拠法及び裁判管轄特約
保険者が個別に引受条件を付した大物貨物 サーベイ、梱包、船舶又は保管条件が追加される 引受条件、サーベイ条件及び保証条項
事故原因が複数競合する場合 変更点だけでは近因、免責及び因果関係を確定できない 事故報告、サーベイ、作業記録及び準拠法

ICC(1982)からICC(2009)への主な変更点

論点 ICC(1982) ICC(2009) 実務上の意味 主な確認資料
保険始期 貨物が倉庫又は保管場所を離れて輸送を開始した時 輸送開始のため、直ちに輸送用具へ積み込む目的で倉庫内において最初に動かされた時 倉庫内の最初の移動が単なる保管作業か、輸送開始のための移動かを確認する 搬出指示、作業記録、集荷予定、監視映像
保険終期 最終倉庫等への引渡し又は本船荷卸し後60日等 最終倉庫等で輸送用具からの荷卸しが完了した時、別用途保管・分配場所で荷卸しが完了した時、輸送用具を保管に使用すると決めた時又は60日経過時 到着だけでなく、荷卸し完了及びコンテナの保管利用が重要になる 配送記録、荷卸し記録、デバンニング記録、保管指示
梱包不十分免責 危険開始前又は被保険者若しくはその使用人による梱包・コンテナ内積付け 危険開始前の梱包・準備又は被保険者若しくはその従業員による梱包・準備。独立請負業者は従業員に含まれない 作業時期と作業主体を分けて確認する必要がある 梱包契約、作業者名簿、vanning記録、写真
船主等の倒産・財務不履行 船主、管理者、用船者又は運航者の倒産・財務不履行に起因する損害を広く免責 積込時に被保険者が、通常航海を妨げる倒産等を知っていた又は通常業務上知るべきであった場合に免責 被保険者の認識及び積込時点が判断要素になる Booking時の情報、信用情報、警告通知、社内記録
倒産免責と善意の譲受人 善意の譲受人に関する明示的な例外がない 拘束力ある契約に基づき善意で貨物を購入又は購入合意した譲受人には倒産免責を適用しない CIF又はL/C取引の買主が保護される可能性がある 売買契約、保険証券、裏書、代金決済資料
不堪航・不適合 船舶、輸送用具、コンテナ等について被保険者又はその使用人が認識していた場合 船舶・舟艇の不堪航と、コンテナ・輸送用具の不適合を分けて規定する 誰が積込みを行い、誰が不適合を認識していたかを個別に確認する 積込記録、コンテナ点検、船舶情報、作業指示
不堪航免責と譲受人 善意の譲受人に関する明確な例外がない 船舶・舟艇の不堪航に関する免責について善意の譲受人を保護する 保護対象は船舶・舟艇に関する条項であり、コンテナ等の不適合まで一律に拡張しない 証券譲渡、売買契約、事故原因資料
航海変更 迅速な通知を条件としてheld coveredとし、保険料及び条件を後日協定 被保険者による仕向地変更は迅速に通知し条件・料率を協定する。協定前事故は市場で合理的に引受可能であった場合に限り補償され得る 通知すれば必ず自動継続するという理解は危険である 仕向地変更指示、通知日時、保険者回答、航路情報
無認識の別仕向地航行 明示的な整理が限定的 被保険者又は従業員が知らないまま本船が別仕向地へ向かっても、予定された輸送開始時に保険が開始したものと扱う 被保険者が変更を指示した場合と、知らなかった場合を分ける 船積指示、shipping line通知、運航記録
テロ関連文言 テロリスト又は政治的動機による者の行為を免責 組織に関係するテロ行為に加え、政治的、思想的又は宗教的動機による者の行為を免責 別建てのStrikes条項及び保険終期条項の確認が必要になる 適用特約、事故原因、公的情報、保険終期
用語 Underwriters、servants、shipowners、contract of affreightment等 Insurers、employees、carriers、contract of carriage等 関係者及び契約の意味が現代的な表現に整理された 旧版・新版の約款全文

変更点1:保険始期の明確化

ICC(1982)では、貨物が倉庫又は保管場所を離れて輸送を開始した時に保険が始まる構造でした。この文言では、倉庫内でフォークリフトにより移動した時、出荷場所へ移した時、集荷車両へ積み込んだ時のいずれが始期となるかが問題になることがありました。

ICC(2009)では、保険契約に記載された倉庫又は保管場所において、輸送開始のため、直ちに輸送用具へ積み込む目的で貨物が最初に動かされた時から保険が開始する構造へ整理されました。

重要なのは、「倉庫内で動いた」という事実だけではありません。その移動が、予定された輸送を開始するための一連の搬出・積込作業であったかを確認します。

棚替え、在庫整理、検品場所への移動又は再梱包のための移動であれば、直ちに保険始期とはならない可能性があります。一方、集荷車両への積込みに直結する搬出作業中であれば、倉庫建物を出る前でも保険が開始している可能性があります。

変更点2:保険終期の明確化

ICC(1982)では、仕向地の最終倉庫等への引渡しが保険終期の一つとされていました。ICC(2009)では、輸送用具からの荷卸し完了を基準とする表現へ変更されました。

最終倉庫へトラックが到着しただけではなく、トラックその他の輸送用具から貨物を荷卸しし終えた時が問題になります。また、通常の輸送過程ではない保管、仕分け又は分配のために別の倉庫を選択した場合も、その場所で荷卸しが完了した時に終了します。

さらに、被保険者又はその従業員が、コンテナ、トレーラーその他の輸送用具を通常の輸送過程以外の保管場所として利用すると決めた時にも終了します。

輸入港での通関待ち、D/O取得待ち又はフリータイム中というだけで、直ちに保険が終了するとは限りません。しかし、コンテナを在庫保管目的で使用した場合、別倉庫で分配を開始した場合又は本船荷卸し後60日が経過した場合には、保険終期が問題になります。

変更点3:梱包不十分・不適切免責の整理

ICC(2009)の梱包免責では、貨物が通常の保険輸送に耐えられないほど梱包又は準備が不十分・不適切であり、それが損害原因となった場合を対象とします。

同条項では、次の二つを分けて確認する必要があります。

  • 保険開始前に行われた梱包又は準備
  • 被保険者又はその従業員が行った梱包又は準備

保険開始前に梱包が行われていた場合、作業者が第三者であっても同条項が問題となる可能性があります。一方、保険開始後に独立請負業者が行った作業については、その業者を被保険者の従業員と同一視しません。

ただし、独立請負業者が行ったという理由だけで、必ず補償されるわけではありません。損害の偶然性、他の免責、被保険者の指図内容、作業業者の責任及び個別特約を別途確認します。

約款上のpackingにはコンテナ内積付けも含まれます。FCLでshipperがvanningしたのか、CFS業者、倉庫業者又はfreight forwarderが作業したのか、作業が保険始期の前後どちらであったかが重要です。

変更点4:船主等の倒産・財務不履行免責

ICC(1982)では、船主、管理者、用船者又は運航者の倒産若しくは財務不履行に起因する損害又は費用を、広く免責する文言でした。

ICC(2009)では、貨物を本船へ積み込んだ時に、被保険者が倒産又は財務不履行を知っていた、又は通常の業務過程で知るべきであり、その倒産等が通常の航海遂行を妨げ得る場合に免責される構造へ変更されました。

単に船主等が後日倒産したというだけでは足りず、積込時における被保険者の認識又は認識可能性と、通常航海への影響を確認します。

例えば、shipping lineが運賃未払、船舶差押え又は運航停止の危険を公表していたにもかかわらず、被保険者がその情報を把握してBookingを継続した場合は、免責が問題となり得ます。一方、一般のshipperが知り得ない突然の破綻であれば、1982年版と同じように機械的に免責とすることはできません。

変更点5:善意の保険契約譲受人の保護

ICC(2009)では、船主等の倒産・財務不履行免責について、拘束力ある売買契約に基づいて善意で貨物を購入し、又は購入に合意した者が保険契約を譲り受けて請求する場合には、当該免責を適用しない旨が明記されました。

CIF取引又はL/C取引では、売主が保険を手配し、保険証券を買主へ譲渡することがあります。買主は運送人選定に関与せず、売主が把握していた船主等の財務情報を知らない場合があります。

この変更は、そのような善意の買主を一定範囲で保護するものです。ただし、単に保険証券を所持しているだけでは足りません。拘束力ある売買契約、善意の取得、貨物の購入又は購入合意及び保険契約上の権利移転を確認します。

変更点6:不堪航・輸送用具不適合免責

ICC(1982)では、船舶、舟艇、輸送用具、コンテナ又はliftvanの不堪航若しくは不適合について、被保険者又はその使用人が認識していた場合を一つの構造で扱っていました。

ICC(2009)では、次の二つへ分けて整理されています。

  • 船舶又は舟艇の不堪航・安全運送への不適合
  • コンテナ又は輸送用具の安全運送への不適合

船舶又は舟艇については、貨物が積み込まれた時に被保険者が不堪航又は不適合を認識していたかを確認します。

コンテナ又は輸送用具については、保険開始前に積込みが行われた場合、又は被保険者若しくはその従業員が積込みを行い、その時点で不適合を認識していた場合が問題となります。

このため、コンテナの腐食、床板破損、ドアパッキン不良、トレーラーの構造不良等については、誰がコンテナ又は輸送用具へ積み込み、いつ不適合を知っていたかを確認します。

善意の譲受人保護が及ぶ範囲の注意

ICC(2009)の不堪航・不適合免責における善意の譲受人保護は、船舶又は舟艇の不堪航に関する条項へ明示されています。

一方、コンテナ又は輸送用具の不適合に関する条項について、同じ例外が一律に適用されるとは記載されていません。

したがって、「ICC(2009)では善意の保険契約譲受人なら、船舶、コンテナ及びすべての輸送用具に関する不適合免責が適用されない」と整理するのは正確ではありません。

CIF買主が請求する場合でも、損害原因が船舶の不堪航なのか、コンテナの不適合なのかを分け、適用される条項を特定する必要があります。

変更点7:航海変更の取扱い

ICC(1982)では、保険開始後に被保険者が仕向地を変更した場合、迅速な通知を条件としてheld coveredとし、追加保険料及び条件を後日協定する構造でした。

ICC(2009)では、被保険者が仕向地を変更した場合、保険者へ迅速に通知し、料率及び条件を協定しなければならないと整理されました。

協定前に事故が発生した場合でも、合理的な商業市場の料率及び条件で当該危険を引き受けることができた場合に限り、補償が提供され得るという構造です。

したがって、通知さえ行えば、どのような仕向地変更でも必ず従前条件で自動継続するわけではありません。制裁地域、紛争地域、引受禁止地域又は著しく危険が増加する航路への変更では、引受け自体ができない場合があります。

一方、予定された輸送が開始した後、被保険者又はその従業員が知らないまま本船が別の仕向地へ向かった場合には、予定輸送の開始時に保険が開始したものとして扱われます。被保険者が変更を指示した場合と、知らなかった場合を区別します。

変更点8:テロ関連文言

ICC(1982)のストライキ免責では、テロリスト又は政治的動機から行動する者による損害が免責とされていました。

ICC(2009)では、政府を武力又は暴力で転覆若しくは影響しようとする組織に関係するテロ行為に加え、政治的、思想的又は宗教的動機から行動する者による損害も明示されました。

これらはICC(A)、ICC(B)及びICC(C)の基本約款では免責です。必要な補償は、Institute Strikes Clausesその他の別建て条項で確認します。

また、テロ危険を補償する場合でも、Termination of Transit Clause (Terrorism)によって、通常の輸送過程、最終倉庫での荷卸し、別用途保管、コンテナの保管利用又は本船荷卸し後の所定日数等を基準として補償が終了することがあります。

「Strikes条件を付けたからテロ危険が場所及び期間を問わず継続する」とは判断できません。補償危険と保険期間を別々に確認します。

変更点9:文言の平明化

ICC(1982)の主な表現 ICC(2009)の主な表現 整理された意味 実務上の効果
Underwriters Insurers 保険引受人から保険者という一般的な表現へ変更 保険契約の当事者を理解しやすい
servants employees 被保険者の従業員を示す現代的表現へ変更 独立請負業者との区別が明確になる
shipowners carriers 運送契約上の関係者をより広く表す 複合運送を含む実務へ合わせやすい
contract of affreightment contract of carriage 運送契約という一般的表現へ変更 B/Lその他の運送契約との関係を理解しやすい
goods又はcargo subject-matter insured 保険目的物という統一的な表現へ整理 条項間の表現が統一される
held covered 通知、条件協定及びcover may be provided 保険継続の条件を具体的に説明する表現へ変更 通知だけで自動継続すると誤解しにくい

関連する約款・制度との比較

約款又は制度 主な役割 ICC(2009)との関係 単独では判断できない事項 確認場面
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C) 2009 通常の貨物輸送危険と基本免責を定める 本記事の中心となる基本約款 戦争、ストライキ及びテロ危険の補償 通常の貨物損害
Institute War Clauses (Cargo) 2009 戦争、内乱、一定の拿捕等を補償する 基本ICCの戦争免責を別建てで補う 通常の破損、水濡れ、盗難等 戦争危険を付帯する輸送
Institute Strikes Clauses (Cargo) 2009 ストライキ、暴動、一定のテロ・動機行為を補償する 基本ICCのストライキ・テロ免責を別建てで補う 戦争危険及び通常輸送危険 ストライキ又はテロ危険を付帯する輸送
Termination of Transit Clause (Terrorism) 2009 テロ危険補償の終期を定める 他の保険期間条項と矛盾する場合に優先することがある テロ行為に該当するかという原因判断 保管、分配、長期滞留又は内陸継続輸送
個別endorsement 標準約款を追加、削除又は修正する 抵触する範囲で標準ICCより優先する 証券全体の優先順位 特殊貨物、特定航路又は個別引受条件
売買契約・Incoterms 売主と買主の危険及び費用を分担する 被保険利益及び必要な保険設計に影響する 保険者の補償責任 CIF、CIP、FOBその他の国際売買
B/L・運送契約 Contracting Carrier等の運送責任を定める 運送人への求償及び権利保全に関係する 貨物保険上の補償可否 運送事故及び保険代位

適用版と変更点を確認するフロー

  1. 保険証券、保険証明書又は包括予定保険契約を取得する。
  2. Institute Cargo Clausesの種類及び日付を確認する。
  3. ICC(A)等の記号だけでなく、1/1/82又は1/1/09の表示を確認する。
  4. 追加条項、削除条項及びendorsementの有無を確認する。
  5. 事故発生日時、場所及び物流工程を時系列で整理する。
  6. 争点が保険期間、梱包、倒産、不堪航、コンテナ不適合、航海変更又はテロのどれかを特定する。
  7. 1982年版と2009年版の該当条項を比較する。
  8. 被保険者、従業員、独立請負業者、保険契約譲受人及び運送人の地位を確認する。
  9. 売買契約、B/L、作業記録、通知記録及びサーベイレポートを約款要件へ当てはめる。
  10. War、Strikes又はTerrorism関連の別条項が必要な事故か確認する。
  11. 保険会社又は保険代理店へ事故通知を行い、必要な権利を留保する。
  12. 約款版、準拠法又は権利帰属に争いがある場合は専門家へ相談する。

判断の出発点は、事故日ではなく、契約へ組み込まれた約款名及び日付です。そのうえで、事故事実を該当条項の要件へ当てはめます。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な原因 確認資料 判断のポイント 初動対応
倉庫内搬出中の落下 フォークリフト操作、吊上げ又は重心誤認 集荷指示、監視映像、作業記録、適用ICC 輸送開始のための最初の移動であったか 作業を止め、事故状態を保存して保険者へ通知する
最終倉庫到着後の荷卸し事故 フォークリフト接触又は落下 配送記録、荷卸し記録、事故時刻 荷卸し完了前で保険期間中であったか 荷卸しを中止し、運送人及び保険者へ通知する
コンテナを在庫保管に使用中の水濡れ 長期保管、ドア不良又は雨水浸入 保管指示、デバンニング予定、コンテナ記録 通常輸送ではなく保管利用を選択した時点 保管開始の決定経緯と事故時刻を確定する
第三者梱包業者による梱包不良 支持材不足、防水不足又は内部固定不良 梱包契約、作業日、保険始期、写真 梱包が保険始期前か後か、独立請負業者か 梱包材を保存し、作業者へ権利を留保する
shipping line倒産による運送中断 財務不履行、船舶差押え又は運航停止 積込日、信用情報、警告通知、社内記録 積込時に被保険者が知っていた又は知るべきであったか 保険者へ通知し、代替輸送及び保管を協議する
CIF買主が譲渡証券で請求 売主手配船の倒産又は不堪航 売買契約、証券、裏書、事故資料 善意の譲受人要件と対象免責条項 権利移転書類を整理し、売主の認識資料も確保する
コンテナ床破損による貨物損害 コンテナ不適合、過積載又は点検不足 コンテナ点検、vanning記録、作業主体 誰が積み込み、不適合を認識していたか コンテナを返却せず、検査及び写真記録を行う
仕向地変更後の事故 買主指示、制裁、港湾閉鎖又は販売先変更 変更指示、保険者通知、回答、事故時刻 迅速な通知と市場での引受可能性 変更判明時に保険者へ通知し、条件を合意する
テロ危険付帯後の長期保管中事故 輸送中断、分配保管又はコンテナ保管利用 Strikes条項、Terrorism終期条項、保管指示 テロ危険の補償終期を既に過ぎていないか 保管目的、期間及び再輸送開始時点を確認する

実務担当者が確認すべき書類

書類 確認箇所 確認目的 不明な場合の対応
保険証券・保険証明書 ICCの種類、日付、From/To、被保険者 適用版、保険期間及び請求権を確認する 保険会社又は保険代理店へ全文を照会する
包括予定保険契約 基本約款、申告条件、特約 個別証券に省略された条件を確認する 更新履歴を含めて契約書を取得する
保険承認状・endorsement 削除、追加、優先順位 標準ICCが変更されていないか確認する 本文との優先関係を保険者へ確認する
売買契約・信用状 保険条件、譲渡、危険移転 被保険利益及び譲受人の地位を確認する 銀行、法務担当又は専門家へ確認する
B/L・運送書類 運送区間、運送人、仕向地、変更 航海変更、運送中断及び求償先を確認する freight forwarder又はshipping lineへ記録を求める
梱包・vanning記録 作業主体、日時、作業場所 梱包免責及びコンテナ不適合を判断する 作業業者、倉庫又はshipperから証拠を収集する
事故通知・サーベイ 事故原因、場所、発見時刻 該当条項への事実の当てはめを行う 修理又は処分前にサーベイを手配する

制度適用シナリオ1:横浜向け貨物が輸出倉庫内の搬出中に落下した場合

日本のshipperが、2,400万円相当の精密機器を横浜港から輸出するため、自社倉庫内でフォークリフトにより集荷車両の積込場所へ移動していたとします。

移動中に貨物が落下しました。保険証券にはICC(A)とだけ記載された社内資料がありましたが、正式な包括予定保険契約を確認すると、Institute Cargo Clauses (A) 1/1/09が組み込まれていました。

倉庫側は、貨物がまだ倉庫建物を出ていないため保険開始前だと主張しました。shipperは、集荷車両へ直ちに積み込むための一連の搬出作業であり、最初に貨物を動かした時から保険が開始していると主張しました。

ICC(2009)では、倉庫を物理的に出たかではなく、輸送開始のため直ちに輸送用具へ積み込む目的で最初に動かされたかを確認します。

集荷予約、搬出指示、車両到着記録及び監視映像から、在庫整理ではなく予定輸送を開始する搬出であったと確認できれば、保険始期後の事故と評価される可能性があります。

制度適用シナリオ2:神戸着CIF貨物で船主等の財務不履行が発生した場合

日本の買主が、6,800万円相当の化学品をCIF神戸で購入し、売主からICC(A) 1/1/09を組み込んだ外国保険証券の譲渡を受けたとします。

貨物積込後、船舶運航者の財務不履行により船舶が途中港で差し押さえられ、長期保管費及び代替輸送費が発生しました。

保険者は、売主が積込前から運航者の財務悪化を知っていた可能性を指摘しました。日本の買主は、運送人選定に関与せず、倒産情報も知らず、拘束力ある売買契約に基づいて善意で貨物と保険上の権利を取得したと主張しました。

ICC(2009)では、まず積込時に元の被保険者が倒産等を知っていた又は通常業務上知るべきであったかを確認します。そのうえで、請求者が拘束力ある売買契約に基づいて善意で貨物を購入又は購入合意した保険契約譲受人に該当するかを検討します。

単なる証券所持ではなく、売買契約、裏書、代金決済、権利移転及び買主の認識状況を条項要件へ当てはめます。

制度適用シナリオ3:名古屋向け貨物の仕向地を途中で変更した場合

海外から名古屋港へ輸送中の1億2,000万円相当の機械について、買主が販売先変更を理由に仕向地を釜山へ変更するよう指示したとします。

被保険者はshipping lineへ変更を指示しましたが、保険会社への通知は行いませんでした。変更後の航路上で貨物が海水濡れ損害を受けました。

被保険者は、ICC(1982)のheld coveredと同様に、追加保険料を支払えば保険は継続すると主張しました。保険者は、契約にはICC(2009)が適用され、迅速な通知がなく、変更後の危険について条件及び料率の協定もなかったと主張しました。

ICC(2009)では、被保険者による仕向地変更は保険者へ迅速に通知し、条件及び料率を協定する必要があります。協定前の事故については、合理的な商業市場の料率及び条件で当該危険を引き受けることができたかを確認します。

変更先、航路、制裁、事故発生時刻、保険者への通知可能時期及び市場での引受可能性を確認せず、追加保険料の支払だけで当然に補償されるとは判断できません。

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
2009年以降の事故にはICC(2009)が適用される 適用版は保険契約へ組み込まれた約款名及び日付で決まる 証券、包括契約及びendorsementを確認する
ICC(2009)はICC(A)の補償危険を全面的に拡張した 基本構造を維持し、文言及び一部免責を整理した改定である 変更点と補償危険の追加を混同しない
倉庫内事故は常に保険始期前である 輸送開始のため直ちに積み込む目的で最初に動かされた後なら保険期間中となり得る 移動目的及び物流工程を確認する
最終倉庫へ到着した時点で必ず保険が終わる ICC(2009)では輸送用具からの荷卸し完了が重要となる 到着時刻と荷卸し完了時刻を分ける
第三者梱包業者の作業は梱包免責にならない 保険始期前の梱包であれば作業主体にかかわらず問題となり得る 作業主体と作業時期の両方を確認する
ICC(2009)では船主等が倒産しても必ず補償される 積込時に被保険者が知っていた又は知るべきであった場合は免責となり得る 認識資料及び航海への影響を確認する
善意の譲受人はすべての免責から保護される 保護は特定の倒産免責及び船舶・舟艇の不堪航免責に明示されている コンテナ不適合等へ一律に拡張しない
仕向地変更を通知すれば必ず自動継続する 迅速な通知、条件協定及び市場での引受可能性が問題となる 変更指示前又は判明直後に保険者へ連絡する
ICC(A) 2009にはテロ危険も含まれる 基本ICCではテロ関連危険が免責され、別建て条件が必要である Strikes条項及びTerrorism終期条項を確認する
ICC(2009)の標準文言は個別契約で変更できない モデル文言であり、endorsement等で修正されることがある 約款名だけでなく添付条項全文を確認する

判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
保険契約締結時 保険会社、保険代理店 ICCの種類、日付、特約及び準拠法 証券又は保険承認状へ適用版を明記する
包括契約更新時 保険会社、社内保険担当 1982年版から2009年版へ変更されたか 新旧条件及び保険料への影響を確認する
CIF又はL/C取引時 売主、銀行、保険会社 証券の適用版、裏書及び譲受人の地位 船積前に訂正証券又は必要な裏書を取得する
倉庫搬出前 倉庫、shipper、保険会社 最初の移動目的及び保険始期 搬出工程を保険者へ事前確認する
梱包・vanning時 梱包業者、倉庫、freight forwarder 作業主体、作業日時及び保険始期との前後関係 作業記録と写真を保存し、責任分担を明記する
shipping lineの財務不安発生時 shipping line、freight forwarder、保険会社 積込前の情報、航海継続可能性及び代替手配 Booking継続前に保険会社へ相談する
コンテナ積込時 shipper、倉庫、Actual Carrier コンテナ状態、作業主体及び不適合の認識 不適合コンテナを使用せず交換を求める
仕向地変更時 買主、shipping line、保険会社 変更先、航路、通知時刻及び追加条件 迅速に通知し、条件合意前の移動を避ける
テロ・ストライキ危険を付帯する時 保険会社、保険代理店 補償危険、保険終期及び保管時の扱い 別条項と終期条項を一体で確認する
事故発生時 保険会社、サーベイヤー、関係業者 適用版、事故工程、原因及び証拠 修理又は処分前に通知し、証拠を保存する
約款解釈に争いがある時 保険会社、海事弁護士、法務担当 約款全文、準拠法、売買契約及び運送契約 請求期限を確認し、権利を留保する

海事弁護士を利用すべき場面

通常の約款確認、事故通知及び保険金請求は、保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次の場合は、海上保険及び国際取引に詳しい弁護士への相談を検討します。

  • 1982年版又は2009年版のどちらが契約へ組み込まれたか争いがある場合
  • endorsementと標準ICCの優先順位が不明な場合
  • 善意の保険契約譲受人に該当するか争われている場合
  • 船舶の不堪航とコンテナ不適合のどちらが事故原因か争いがある場合
  • 被保険者が船主等の財務不履行を知るべきであったと主張された場合
  • 仕向地変更後の補償及び市場での引受可能性が争われている場合
  • 外国法、外国裁判管轄又は外国保険者との紛争がある場合
  • 保険金請求期限、運送人への通知期限又は出訴期限が迫っている場合

ICCの解釈問題と、運送人、梱包業者、倉庫業者又は売主への損害賠償請求は、根拠及び期限が異なります。保険者との協議を進めていることを理由に、第三者への通知及び権利保全を省略しないことが重要です。

まとめ

ICC(2009)は、ICC(1982)の基本的な補償構造を維持しながら、現代の国際物流及び保険実務に合わせて、保険期間、梱包免責、船主等の倒産、不堪航・輸送用具不適合、航海変更、善意の保険契約譲受人及びテロ関連文言を整理した改定です。

特に保険期間は、倉庫を離れたかという形式的な基準から、輸送開始のために最初に動かされた時及び最終倉庫等で荷卸しが完了した時という物流工程に即した基準へ明確化されました。

梱包免責では作業主体と作業時期を分け、倒産免責では積込時における被保険者の認識を確認します。不堪航免責では、船舶・舟艇とコンテナ・輸送用具を分け、善意の譲受人保護が及ぶ条項の範囲を正確に確認する必要があります。

また、仕向地変更は通知だけで当然に補償が継続するものではなく、料率、条件及び市場での引受可能性が問題となります。テロ危険については、基本ICC、Institute Strikes Clauses及びTermination of Transit Clause (Terrorism)を一体として確認します。

実務上の出発点は、「ICC2009」という通称ではなく、保険契約へ実際に組み込まれた約款名、日付及びendorsementです。そのうえで、事故の日時、場所、物流工程、作業主体、被保険者の認識及び保険契約譲受人の地位を各条項の要件へ当てはめます。

同義語・別表記

  • ICC2009新約款の主な変更点
  • ICC2009約款の主な変更点
  • Institute Cargo Clauses 2009 Changes
  • ICC 2009 Changes
  • 2009年版協会貨物約款の変更点
  • ICC1982からICC2009への改定

関連用語

公式情報