外航貨物海上保険の保険価額と保険金額
概要
外航貨物海上保険の保険価額と保険金額は、事故時に保険会社がどの価額を基準として損害を算定し、どこまで保険金を支払うかを確認するための基本概念です。
保険価額は、保険契約上評価される被保険利益の価額です。保険金額は、保険会社が一事故又は一輸送について負担する支払限度額です。両者は同額に設定されることが多いものの、意味は異なります。
外航貨物海上保険では、CIF価額、CIP価額、Invoice価額、運賃、保険料及び一定の期待利益等を基礎として、保険金額を110%に設定することがあります。しかし、110%で付保したことは、事故時にその全額が自動的に支払われることを意味しません。
実際の保険金は、適用約款、保険価額、保険金額、被保険利益、事故原因、損害割合、修理費、格落ち、残存価値、免責金額、他保険及び個別endorsementを確認して算定します。
また、保険価額及び一部保険に関する法的整理は、個別契約の準拠法によって異なります。本記事でMarine Insurance Act 1906に言及する部分は、英国法及び国際海上保険市場における代表的な参照枠組みであり、すべての日本発行契約へ当然に適用されるという意味ではありません。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| 保険価額 | 貨物について保険契約上評価する価額及びその構成要素 | 被保険利益の記事で、誰がどの経済的利益を保険できるかを扱う |
| 保険金額 | 保険会社の支払限度額及び保険価額との関係 | 保険金請求の記事で、請求書類及び支払手続を扱う |
| 評価済み保険証券 | 契約時に貨物価額を協定するValued Policyの基本構造 | 外航貨物海上保険証券の見方で、証券記載事項全体を扱う |
| 未評価保険証券 | 事故後に保険価額を立証するUnvalued Policyとの違い | 損害額の立証及び鑑定の記事で、評価資料を詳しく扱う |
| CIF・CIP価額110% | 110%設定の意味、計算基礎及び限界 | CIF及びCIPの記事で、売主の保険手配義務を扱う |
| L/C条件 | UCP 600 Article 28及び信用状上の保険金額要件 | L/C保険書類のディスクレパンシーで、銀行書類審査を扱う |
| 全部保険・一部保険・超過保険 | 保険価額と保険金額の大小関係及び事故時の影響 | 重複保険の記事で、複数保険契約間の調整を扱う |
| 分損の算定 | 比例てん補、修理費、格落ち及び残存価値の基本的な考え方 | 貨物保険の分損計算で、個別の損害算定を詳しく扱う |
| Increased Value Insurance | 基礎保険を超える追加価額を別契約で補う場面 | Increased Value Insuranceの記事で、個別条項を詳しく扱う |
| 運送人責任 | 貨物保険上の価額と運送人賠償額が異なること | 運送人への貨物損害賠償請求で、責任制限を扱う |
制度の目的と基本構造
損害保険は、事故によって被保険者に生じた経済的損失を補てんする制度です。貨物保険では、貨物そのものの価格だけでなく、運送中に危険にさらされる運賃、保険料、取扱費用及び一定の利益を含めて、保険契約上の価額を定めることがあります。
保険価額を定める目的は、保険の対象となる経済的利益の範囲を示すことです。保険金額を定める目的は、保険会社の責任限度を明確にすることです。
事故が発生した場合は、次の順序で整理します。
- 請求者が被保険利益を持っているかを確認する。
- 貨物及び輸送区間が保険契約の対象かを確認する。
- 保険価額及び保険金額を確認する。
- 事故が補償危険に該当し、免責に該当しないかを確認する。
- 全損、分損、修理可能損害又は格落ち損害のどれかを判断する。
- 損害額、残存価値、免責金額及び一部保険の有無を確認する。
- 保険金額を上限として支払保険金を算定する。
したがって、保険金額は事故時の支払額そのものではありません。保険金額は、補償対象となる損害について保険会社が負担する最大限度額です。
保険価額と保険金額の違い
| 比較項目 | 保険価額 | 保険金額 | 損害額 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|---|
| 基本的な意味 | 保険契約上評価される被保険利益の価額 | 保険会社の支払限度額 | 事故によって実際に生じた経済的損失 | 三つの金額は同じとは限らない |
| 決定時期 | 契約時に協定するか、事故後に算定する | 保険契約締結時又は申告時に設定する | 事故後に資料を基に算定する | 契約時と事故時で確認資料が異なる |
| 主な資料 | Invoice、運賃、保険料、鑑定、売買契約 | 保険証券、保険証明書、申告書 | 修理見積、サーベイ、売却額、残存価値 | 証券記載だけで損害額は決まらない |
| 上限との関係 | 保険対象価額の基準 | 原則として支払額の上限 | 補償対象となる実損 | 実損が保険金額を超えても上限を超えて支払われない |
| 一部保険 | 保険金額より高い場合に問題となる | 保険価額を下回る | 比例てん補の対象となる場合がある | 被保険者が不足部分を自己保険する状態となる |
| 超過保険 | 保険金額より低い | 保険価額を上回る | 実損を超える支払は受けられない | 高い保険金額だけで利益を得ることはできない |
| 免責金額 | 通常は直接変更しない | 通常は直接変更しない | 支払対象額から控除又は適用される | 保険価額・保険金額とは別の概念である |
Marine Insurance Act 1906における基本的な整理
英国法上の代表的な参照枠組みであるMarine Insurance Act 1906では、保険価額、評価済み保険証券及び一部保険について、それぞれ別の規定を置いています。
| 条文 | 主な制度 | 基本的な内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| Section 16 | Measure of insurable value | 貨物について、原価、船積みに付随する費用及び全体に対する保険料等を基礎として保険価額を算定する | 商品代金だけが保険価額になるとは限らない |
| Section 27 | Valued policy | 保険目的物の協定価額を証券上で定める | 詐欺等を除き、協定価額が当事者間の損害算定基準となる |
| Section 28 | Unvalued policy | 保険価額を証券に定めず、保険金額を上限として事故後に算定する | 請求者が価額資料を提出する必要がある |
| Section 67 | Extent of liability | 保険者の責任を保険金額及び損害てん補原則の範囲に置く | 保険金額は責任限度であり自動支払額ではない |
| Section 71 | Partial loss of goods | 一部滅失、到着時の損傷及び価値減少について分損算定の基本を定める | 修理費だけでなく健全価額と損傷価額の割合が問題となる場合がある |
| Section 81 | Effect of under insurance | 保険金額が保険価額を下回る場合、被保険者は不足部分について自己保険者とみなされる | 部分損害でも支払額が比例して減少する場合がある |
これらは英国法上の制度です。日本で発行された貨物保険については、日本法、保険会社の普通保険約款、英文約款及び個別特約の優先関係を確認します。
評価済み保険証券と未評価保険証券
| 比較項目 | 評価済み保険証券 | 未評価保険証券 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 英語表記 | Valued Policy | Unvalued Policy | 証券の表示及び準拠法を確認する |
| 価額の決め方 | 契約時に当事者が協定する | 事故後に保険価額を立証する | 申告価額と協定価額を混同しない |
| 全損時 | 協定価額及び保険金額を基準とする | 立証された保険価額及び保険金額を基準とする | 免責、残存物及び他保険は別途確認する |
| 分損時 | 協定価額を基礎に損害割合を適用する場合がある | 実際の保険価額及び損害割合を立証する | 修理費が常にそのまま支払額になるとは限らない |
| 長所 | 事故後の価額争いを減らしやすい | 実際の価額を事故後に反映できる | 契約目的に応じて選択する |
| 主なリスク | 協定価額が実態と大きく離れる | 価額資料が不足し請求が長期化する | 契約締結時の評価根拠を保存する |
評価済み保険証券で価額が協定されていても、その協定価額が常に全額支払われるわけではありません。貨物の一部損傷であれば、損害割合、修理可能性、格落ち、残存価値及び免責を確認します。
また、推定全損に該当するかどうかについては、協定価額とは別の判断が必要となる場合があります。評価済み保険証券を「事故があれば協定価額を全額支払う定額保険」と理解しないことが重要です。
保険価額に含めることがある要素
| 価額要素 | 含める理由 | 主な資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 貨物のInvoice価額 | 売買上の基本価額を示す | Commercial Invoice、売買契約 | 売買条件によって運賃等を含まない |
| 海上運賃・航空運賃 | 全損時に失われる輸送費を反映する | Freight Invoice、B/L | 前払・後払及び返還可能性を確認する |
| 国内輸送費 | 仕出地又は仕向地の輸送費を反映する | 運送請求書、見積書 | 保険区間に含まれる費用か確認する |
| 保険料 | 保険手配に必要な費用を反映する | 保険料計算書 | 計算方法が循環する場合は保険会社の方式に従う |
| 梱包・荷役費 | 再調達時に再度必要となる費用を反映する | 梱包・荷役請求書 | すべての契約で自動的に含まれるわけではない |
| 関税・税金 | 事故時に回収不能となる負担を反映する場合がある | 輸入申告、税額資料 | 還付可能性及び個別特約を確認する |
| 期待利益 | 貨物の到着により得られる一定の商業利益を反映する | 売買契約、利益率資料 | 110%の10%部分と常に一致するわけではない |
| 追加調達費用 | 再発注・代替輸送に必要な費用を反映する場合がある | 再調達見積、追加運賃 | 遅延損害や違約金が自動的に含まれるわけではない |
CIF・CIP価額110%の意味
外航貨物海上保険では、CIF価額、CIP価額又は契約価額の110%を保険金額とすることがあります。
基本的な計算例は次のとおりです。
保険金額 = CIF又はCIP価額 × 110%
例えば、CIF価額が5,000万円の場合、110%の保険金額は5,500万円です。
| 項目 | 金額 | 計算 | 実務上の意味 |
|---|---|---|---|
| CIF価額 | 50,000,000円 | 貨物価額、運賃及び保険料を含む契約価額 | 計算の基礎 |
| 10%部分 | 5,000,000円 | 50,000,000円 × 10% | 一定の利益又は付随費用を見込む余裕 |
| 保険金額 | 55,000,000円 | 50,000,000円 × 110% | 保険者の最大責任額の基礎 |
ただし、10%部分が、再発注費、為替差損、納期遅延、違約金、逸失利益及び代替輸送費をすべて補償するわけではありません。これらの費用が保険金として支払われるためには、適用約款上の損害に該当し、保険価額及び保険金額に含まれ、個別免責に該当しないことが必要です。
110%は実務上の標準的な設定ですが、貨物価格が急騰する商品、特注機械、長期輸送、プロジェクト貨物、再製作期間が長い貨物及び追加運賃が高額となる貨物では、不足する場合があります。
IncotermsとUCP 600の110%は別の確認である
| 規則・契約 | 110%の役割 | 確認する価額 | 主な相手方 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| IncotermsのCIF・CIP | 売主が手配すべき保険の最低金額を定める | 原則として契約価額 | 売主と買主 | 売買契約で別条件を合意できる |
| UCP 600 Article 28 | L/C呈示書類として必要な最低保険金額を定める | CIF又はCIP価額等 | 銀行、受益者、Applicant | 書類適合性の規則であり補償可否の規則ではない |
| 貨物保険契約 | 保険会社の責任限度を設定する | 証券上の保険価額及び保険金額 | 保険会社と被保険者 | 補償危険、免責及び損害額を別途確認する |
| 社内保険基準 | 包括予定保険の申告価額を統一する | Invoice、運賃、利益等 | 保険担当、営業、経理 | 売買条件ごとに計算基礎を定める |
UCP 600 Article 28では、信用状に必要な保険割合が記載されている場合、その割合は最低限度として扱われます。
信用状に保険金額の指定がない場合は、原則としてCIF又はCIP価額の110%以上が必要です。CIF又はCIP価額を呈示書類から確定できない場合は、honour又はnegotiationを求める金額と、Invoice上の総額のうち高い方を基礎として算定します。
また、保険書類の通貨は、原則として信用状と同じ通貨である必要があります。
保険契約として有効な補償が存在していても、保険書類の金額又は通貨が信用状条件を満たさなければ、銀行審査では書類不一致となる可能性があります。
売買条件別の保険価額設計
| 売買条件 | 一般的な保険手配者 | 価額設計の起点 | 不足しやすい費用 | 実務上の確認 |
|---|---|---|---|---|
| CIF | 売主 | CIF契約価額 | 買主側国内輸送、広い補償条件、特殊貨物費用 | 110%、ICC条件、通貨及び譲渡を確認する |
| CIP | 売主 | CIP契約価額 | 複合運送中の追加費用、最終配送費用 | 全輸送区間及び110%を確認する |
| FOB | 買主 | FOB Invoiceに運賃・保険料等を加えた価額 | 海上運賃、保険料、仕向地費用 | Invoice額だけで申告しない |
| FCA | 買主 | FCA契約価額に主運送費用等を加えた価額 | 航空運賃、海上運賃、内陸輸送費 | 最初の運送人への引渡時から付保する |
| DAP | 売主 | 仕向地までの契約価額 | 仕向地保管、配送待機、再配送費用 | 荷卸し前までの区間及び価額を確認する |
| DDP | 売主 | 関税等を含む仕向地契約価額 | 関税、輸入税、国内配送、保管費用 | 税金を保険価額に含める条件を確認する |
全部保険・一部保険・超過保険
| 区分 | 保険価額と保険金額の関係 | 事故時の基本的な影響 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 全部保険 | 保険金額が保険価額と一致する | 一部保険による減額が生じにくい | 免責及び損害額の確認は必要である |
| 一部保険 | 保険金額が保険価額を下回る | 被保険者が不足割合を自己負担する場合がある | 分損時の比例てん補に注意する |
| 超過保険 | 保険金額が保険価額を上回る | 実損又は有効な保険価額を超える支払は受けられない | 過大な保険料負担となる可能性がある |
| 重複保険 | 複数契約の保険金額合計が損害てん補限度を超える | 保険者間の分担調整が必要となる | 他保険を保険会社へ申告する |
一部保険の比例計算
保険金額が保険価額を下回り、契約又は準拠法が比例てん補を採用する場合、基本的な計算モデルは次のとおりです。
比例てん補額 = 補償対象損害額 × 保険金額 ÷ 保険価額
例えば、保険価額が1億円、保険金額が8,000万円、補償対象となる分損が3,000万円の場合は、次の計算になります。
3,000万円 × 8,000万円 ÷ 1億円 = 2,400万円
| 項目 | 金額 | 割合 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 保険価額 | 100,000,000円 | 100% | 貨物全体の評価額 |
| 保険金額 | 80,000,000円 | 80% | 20%が無保険部分 |
| 補償対象損害額 | 30,000,000円 | 保険価額の30% | 比例計算の基礎 |
| 比例てん補額 | 24,000,000円 | 損害額の80% | 免責適用前の基本モデル |
| 被保険者負担 | 6,000,000円 | 損害額の20% | 一部保険による自己負担部分 |
ただし、この式をすべての貨物保険契約へ機械的に適用することはできません。
評価済み保険証券における損害割合、貨物の一部滅失、到着時の格落ち、修理費方式、免責金額、保険金額の設定方法及び個別特約によって算定方法が異なる場合があります。
事故時には、保険会社又は保険代理店へ適用される算定条項を確認します。
全損・分損・修理費・格落ちの違い
| 損害区分 | 主な算定要素 | 保険価額・保険金額との関係 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 現実全損 | 貨物の滅失、破壊又は回収不能 | 保険金額及び有効な保険価額が上限となる | サーベイ、滅失証明、運送記録 |
| 推定全損 | 回収・修理費と回収後価値の比較 | 協定価額だけで自動的に決まらない | 修理費、回収費、残存価値 |
| 一部滅失 | 失われた数量又は価額割合 | 貨物全体に対する割合を保険価額へ適用する | Packing List、重量、数量記録 |
| 修理可能損害 | 合理的な修理費、輸送費、再梱包費 | 保険金額を上限とし、修理の合理性を確認する | 修理見積、請求書、技術報告 |
| 格落ち損害 | 健全価額と損傷価額の差 | 価値減少割合を協定価額等へ適用する場合がある | 市場評価、入札、鑑定 |
| 残存物売却 | 損傷品の売却代金及び処分費用 | 残存価値を損害額から控除する場合がある | 入札結果、売却契約、廃棄証明 |
110%とIncreased Value Insuranceの違い
CIF又はCIP価額の110%は、基礎となる貨物保険契約内で一定の余裕を持たせる価額設定です。
これに対し、Increased Value Insuranceは、基礎保険の保険金額を超える追加の被保険利益又は価額上昇分を、別契約又は追加条件として補うものです。
| 比較項目 | 110%付保 | Increased Value Insurance | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 契約構造 | 基礎保険の保険金額として設定する | 基礎保険と別の追加補償として設定することがある | 証券及び他保険条項を確認する |
| 主な目的 | 一定の利益・付随費用を含める | 価額上昇又は基礎保険を超える利益を補う | 同一損害の二重回収はできない |
| 必要となる場面 | 一般的なCIF・CIP取引等 | 価格急騰、転売利益、追加取得価額等がある場合 | 追加の被保険利益を立証する |
| 損害算定 | 基礎保険の価額及び約款による | 基礎保険との分担条項による | 基礎保険を維持する義務等を確認する |
| 申告 | 通常の保険申告に含める | 増加価額を別途申告する | 事故後の追加手配はできない場合がある |
市場価格の上昇、転売価格の上昇又は再調達費の増加が予想される場合でも、通常の110%だけで十分とは限りません。
一方、Increased Value Insuranceを付ければ、値上がり分が無条件に全額支払われるわけではありません。追加の被保険利益、基礎保険との関係、損害原因、支払順位及び他保険条項を確認します。
特殊貨物の価額設定
| 貨物 | Invoice価額だけでは不足しやすい理由 | 追加確認する価額 | 主な資料 |
|---|---|---|---|
| 中古機械 | 取得価額と再調達・修理価額が一致しない | 鑑定額、整備費、同等品価格 | 鑑定書、整備記録、売買契約 |
| 特注機械 | 再製作に設計費、型費及び長期製造費が必要 | 再製作価額、設計費、緊急輸送費 | 製造見積、設計契約 |
| 美術品・骨董品 | 市場価額が変動しInvoiceが存在しない場合がある | 専門鑑定額、市場取引価額 | 鑑定書、購入記録 |
| 展示品・サンプル | 販売価格又は製造原価だけでは使用価値を示せない | 再製作費、展示準備費 | 製造原価、展示契約 |
| 無償支給品 | Invoiceがゼロ又は名目的価額となる | 製造原価、再調達価額 | Proforma Invoice、原価資料 |
| 商品市況品 | 航海中に市場価格が大きく変動する | 市場価額、Increased Value | 相場資料、売買契約 |
| プラント貨物 | 単品損傷が設備全体の再調達に影響する | 再製作費、追加設計・輸送費 | プロジェクト契約、工程表 |
他の価額・制度との比較
| 概念 | 主な意味 | 保険価額との関係 | 保険金額との関係 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| Invoice価額 | 売買請求額 | 保険価額の基礎となる | そのまま保険金額とする場合がある | 運賃等を含まない場合がある |
| CIF・CIP価額 | 貨物、運賃及び保険料を含む契約価額 | 代表的な保険価額の基礎 | 110%計算に使用される | 実際の追加費用と一致しない場合がある |
| 再調達価額 | 同等貨物を再取得する費用 | 特殊貨物の評価資料となる | 契約時に反映しなければ上限を超える | 事故後の価格上昇を自動的に補償しない |
| 時価 | 事故時又は到着時の市場価額 | 未評価保険又は格落ち算定で問題となる | 保険金額の範囲内で参照される | 協定価額とは異なることがある |
| 免責金額 | 被保険者が負担する一定額 | 保険価額を決めるものではない | 限度額とは別に支払額へ影響する | 一事故・一梱包等の単位を確認する |
| 運送人賠償限度額 | 運送人が負う賠償責任の上限 | 貨物保険の保険価額とは別である | 貨物保険金額とは一致しない | 重量・梱包数等で制限される場合がある |
| Increased Value | 基礎保険を超える追加利益・価額 | 追加の被保険利益として設定する | 別の保険金額を設定する | 基礎保険との分担を確認する |
本記事の計算がそのまま適用されない場面
| 場面 | そのまま適用できない理由 | 確認する契約・資料 |
|---|---|---|
| 定額給付型の特別契約 | 実損てん補と異なる支払方式が定められている | 個別保険契約 |
| 特殊な評価条項 | 再調達価額、販売価額等の独自基準を採る | Valuation Clause |
| 共同海損・救助料 | 貨物損害とは別の負担額算定が行われる | ICC、共同海損精算書 |
| 推定全損 | 修理・回収費と価額の比較が必要となる | 適用法、約款、修理見積 |
| 複数貨物の一括評価 | 貨物ごとの価額配分が必要となる | Invoice、Packing List、評価明細 |
| 重複保険 | 複数保険者間の負担調整が必要となる | 全保険証券、他保険条項 |
| 外国法準拠契約 | 保険価額及び一部保険の法的取扱いが異なる | 準拠法、外国約款 |
| 制裁・送金規制 | 保険金額があっても支払又は送金が制限される | 制裁条項、関係法令 |
保険価額と保険金額を設定する判断フロー
- 貨物の売買条件及び契約通貨を確認する。
- 誰が危険を負担し、誰が被保険利益を持つかを確認する。
- Invoice価額に運賃、保険料、梱包費、荷役費等の何を加えるか決める。
- CIF・CIP、FOB・FCAその他の条件に応じて価額計算の起点を決める。
- L/C条件及びUCP 600の適用有無を確認する。
- 110%で十分か、追加価額又はIncreased Value Insuranceが必要か判断する。
- 中古品、特注品、無償品等について鑑定又は再調達資料を取得する。
- 保険価額と保険金額を比較し、一部保険又は超過保険を確認する。
- 通貨、為替換算日及び端数処理を決める。
- 免責金額、貨物別条件及びendorsementを確認する。
- 証券又は申告書に計算基礎を記録する。
- 価格、運賃又は仕向地が変更された場合の再申告手順を決める。
判断の中心は、110%という数字を機械的に使用することではありません。事故時に失われる経済的価値を合理的に特定し、その価額が保険契約へ正しく反映されているかを確認することです。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| FOB Invoice額だけで付保 | 海上運賃及び保険料の加算漏れ | Invoice、運賃請求書、証券 | 一部保険となっていないか | 保険価額を再計算し、船積前なら訂正する |
| L/Cの110%を満たさない | 計算基礎又は為替換算の誤り | L/C、Invoice、保険証券 | UCP 600及び信用状条件への適合 | 銀行呈示前に訂正証券を取得する |
| 通貨がL/Cと異なる | 保険申告時の通貨選択ミス | L/C、証券、為替資料 | 信用状と同一通貨か | 保険会社へ訂正を依頼する |
| 分損で比例てん補 | 保険金額が保険価額を下回る | 価額計算書、損害明細、証券 | 一部保険条項及び損害割合 | 適用計算式を書面で確認する |
| 中古機械のInvoiceが低額 | 簿価又は関係会社間価格を使用 | 鑑定書、再調達見積、整備記録 | 実質的な被保険利益を反映しているか | 船積前に協定価額を設定する |
| 事故後に市場価格が上昇 | 価額変動を保険金額へ反映していない | 市場相場、売買契約、証券 | 基礎保険又はIncreased Valueの範囲 | 既存契約の上限を確認する |
| 修理費が保険金額を超える | 特注品又は緊急修理による費用増 | 修理見積、代替案、保険価額 | 全損・推定全損・分損のいずれか | 修理開始前に保険会社と協議する |
| 残存物を廃棄した | サーベイ前の処分 | 廃棄証明、写真、売却可能性資料 | 残存価値及び損害軽減義務 | 処分前に保険会社の承認を得る |
| 追加運賃を110%で回収できると誤認 | 10%部分の意味を過大評価 | 追加運賃、約款、損害明細 | 補償対象費用か、保険金額内か | 費用発生前に保険会社へ確認する |
実務担当者が確認すべき書類
| 書類 | 確認する項目 | 確認目的 | 不明な場合の対応 |
|---|---|---|---|
| Commercial Invoice | 金額、通貨、Incoterms | 価額計算の起点を確認する | 売買契約と照合する |
| Freight Invoice | 海上・航空・国内運賃 | 運賃を保険価額へ加える | 見積段階では予定額を確認する |
| 保険証券・証明書 | 保険価額、保険金額、通貨、約款 | 契約上の支払限度を確認する | 保険会社へ書面照会する |
| 包括予定保険契約 | 価額計算式、110%、申告条件 | 個別申告の基準を確認する | 更新履歴を取得する |
| L/C | 保険割合、通貨、条件、区間 | 銀行書類要件を確認する | 出荷前に銀行へ照会する |
| 鑑定書・再調達見積 | 中古品・特殊品の評価額 | Invoice以外の価額根拠を確保する | 専門鑑定を依頼する |
| サーベイレポート | 損害原因、損害割合、残存価値 | 支払保険金を算定する | 修理・処分前に調査する |
| 修理見積・売却資料 | 修理費、格落ち、残存物売却額 | 実際の損害額を確認する | 複数見積又は入札を行う |
制度適用シナリオ1:横浜港向けFOB貨物が一部保険となっていた場合
日本の買主が、FOB条件で8,000万円の機械を購入し、横浜港からの海上運賃、保険料及び付随費用を含む保険価額が1億円になる輸入を行ったとします。
買主はInvoice価額だけを基準として、保険金額を8,000万円に設定しました。輸送中に補償対象となる3,000万円の部分損害が発生しました。
買主は、実際の損害額が3,000万円であり、保険金額8,000万円の範囲内であるため、3,000万円全額が支払われると主張しました。
保険会社は、保険価額1億円に対して80%しか付保されておらず、契約上の一部保険条項に基づいて比例てん補を行うと主張しました。
比例計算を採る契約であれば、基本モデルは次のとおりです。
3,000万円 × 8,000万円 ÷ 1億円 = 2,400万円
この場合、免責金額を適用する前の支払基礎額は2,400万円となり、残り600万円は一部保険による自己負担部分となります。
ただし、実際の算定では、評価済み保険証券か、損害割合をどのように算定するか、免責金額をどの段階で適用するかを証券及び約款から確認します。
制度適用シナリオ2:神戸港着CIF貨物のL/C保険金額が不足した場合
日本の輸入者が、CIF神戸、CIF価額5,000万円の貨物をL/C決済で購入したとします。信用状はUCP 600準拠でしたが、保険割合を独自には指定していませんでした。
売主は5,200万円の保険証券を呈示しました。売主は、貨物価額全額を上回っているため、十分な保険金額であると主張しました。
銀行は、UCP 600 Article 28により、信用状に別の指定がない場合はCIF価額の110%以上、すなわち5,500万円以上が必要であり、5,200万円では不足すると判断しました。
この問題は、事故時の補償可否ではなく、銀行へ呈示された保険書類がL/C条件に適合しているかという書類審査上の問題です。
実際の貨物保険契約が有効で、5,200万円まで補償される可能性があっても、銀行は書類不一致として支払又は買取りを拒絶する可能性があります。
売主は船積前にCIF価額、110%計算、通貨及び保険書類の金額を照合し、不足があれば訂正証券を取得する必要があります。
制度適用シナリオ3:名古屋港着中古機械で協定価額全額が請求された場合
日本の輸入者が、中古工作機械を名古屋港へ輸入し、鑑定額、整備費及び運賃を基に、保険価額及び保険金額を4,500万円とする評価済み保険証券を取得したとします。
輸送中に機械の主要部が損傷し、修理費1,200万円、修理後の格落ち500万円、未損傷部の残存価値2,800万円と評価されました。
輸入者は、評価済み保険証券で4,500万円と協定されているため、4,500万円全額を請求できると主張しました。
保険会社は、貨物が滅失しておらず、合理的に修理可能であるため、協定価額は損害算定の基礎であって、自動的な全額支払額ではないと主張しました。
この場合は、現実全損又は推定全損に該当するか、修理が経済的に合理的か、修理後の格落ちが立証できるか、残存価値をどう扱うかを確認します。
評価済み保険証券であることは価額争いを減らしますが、部分損害を全損へ変更するものではありません。修理費、格落ち及びその他の補償対象費用を、保険金額の範囲内で算定します。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 保険価額と保険金額は同じ意味である | 保険価額は評価額、保険金額は支払限度額である | 証券上で両者を区別する |
| 110%で付保すれば事故時に110%全額が支払われる | 実際の補償対象損害及び免責を確認して支払う | 保険金額を定額給付額と考えない |
| 110%の10%部分であらゆる追加費用を回収できる | 補償対象となる費用に限られる | 遅延、違約金及び逸失利益を分ける |
| 損害額が保険金額以内なら一部保険でも全額支払われる | 比例てん補により減額される場合がある | 保険価額との割合を確認する |
| 評価済み保険証券なら部分損害でも協定価額全額が支払われる | 協定価額は損害算定の基礎であり自動給付額ではない | 全損・分損の区分を確認する |
| 保険金額を高くすれば利益を得られる | 損害てん補を超える支払は受けられない | 超過保険及び保険料負担に注意する |
| Invoice価額だけで常に十分である | 運賃、保険料及び付随費用が不足する場合がある | 売買条件別に計算する |
| L/Cの110%と保険金支払の110%は同じ意味である | L/Cは銀行書類要件、保険金支払は保険契約上の問題である | 書類適合性と補償可否を分ける |
| 修理費は必ずそのまま保険金になる | 修理の合理性、格落ち、残存価値及び免責を確認する | 修理前に保険会社と協議する |
| Increased Value Insuranceなら値上がり分を無条件に回収できる | 追加の被保険利益及び個別条件が必要である | 基礎保険との分担を確認する |
判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 売買契約締結時 | 売主、買主、営業担当 | Incoterms、契約価額及び通貨 | 保険計算の基礎を契約上明確にする |
| 保険契約締結時 | 保険会社、保険代理店 | 保険価額、保険金額、110%及び約款 | 価額計算書を提出し条件を訂正する |
| 包括予定保険更新時 | 保険会社、社内保険担当 | 価額計算式、利益率及び申告方法 | 旧計算式を更新し社内手順へ反映する |
| L/C発行前 | 銀行、売主、買主 | 保険割合、通貨、条件及び区間 | 曖昧な条件を具体化する |
| FOB・FCA輸入手配時 | 買主、freight forwarder、保険会社 | Invoice以外の運賃・費用 | 主運送費用を加えて申告する |
| 中古品・特殊品の船積前 | 鑑定人、保険会社、cargo owner | 鑑定額、再調達額及び修理価額 | 評価済み保険証券を検討する |
| 価格又は運賃変更時 | 売買担当、物流担当、保険会社 | 変更後の保険価額及び保険金額 | 船積前又は判明直後に再申告する |
| 事故発生時 | 保険会社、サーベイヤー、運送人 | 全損・分損、損害額及び残存価値 | 修理・処分前に証拠を保存する |
| 修理方法決定時 | 保険会社、メーカー、修理業者 | 修理費、代替案、格落ち及び納期 | 合理的な修理案について承認を得る |
| 一部保険が疑われる時 | 保険会社、保険代理店 | 適用計算式、保険価額及び免責 | 書面で算定根拠を確認する |
| 法的争いが生じた時 | 保険会社、海事弁護士、法務担当 | 準拠法、評価条項、損害算定及び期限 | 権利を留保し請求期限内に対応する |
海事弁護士を利用すべき場面
通常の価額設定、事故通知及び保険金請求は、保険会社又は保険代理店と進めます。ただし、次の場合は、海上保険及び国際取引に詳しい弁護士への相談を検討します。
- 評価済み保険証券の協定価額が有効か争われている場合
- 一部保険の比例てん補方法又は免責金額の適用順序に争いがある場合
- 全損、推定全損又は分損の区分が争われている場合
- 中古品、美術品又は特殊貨物の保険価額を当事者間で確定できない場合
- Increased Value Insuranceと基礎保険の支払分担が争われている場合
- 外国保険者がMIA 1906その他の外国法を根拠として減額又は免責を主張する場合
- L/C上の書類不一致に加えて売買契約上の損害が発生した場合
- 保険会社、運送人及び売主が異なる価額基準を主張している場合
- 保険金請求期限、運送人への通知期限又は出訴期限が迫っている場合
貨物保険上の保険金額、運送人の賠償限度額、売買契約上の損害額及びL/C上の書類金額は、それぞれ異なる根拠で算定されます。一つの金額を他の契約へそのまま適用しないことが重要です。
まとめ
保険価額は、貨物について保険契約上評価される被保険利益の価額です。保険金額は、保険会社が支払う保険金の上限額です。事故時の支払保険金は、保険金額そのものではなく、補償対象損害、免責、残存価値及び一部保険等を確認して算定します。
外航貨物海上保険では、CIF又はCIP価額の110%を保険金額とすることがあります。ただし、110%は一定の利益及び付随費用を見込む実務上の基準であり、追加費用、遅延損害、違約金及び逸失利益のすべてを自動的に補償するものではありません。
UCP 600が適用されるL/C取引では、信用状に別の指定がない場合、原則としてCIF又はCIP価額の110%以上が必要です。この要件は銀行の書類審査基準であり、貨物保険契約上の保険金支払とは別に確認します。
保険金額が保険価額を下回る一部保険では、契約及び準拠法によって比例てん補が行われる場合があります。保険価額1億円に対して8,000万円しか付保していなければ、被保険者が20%を自己保険しているものとして扱われる可能性があります。
また、評価済み保険証券は事故後の価額争いを減らしますが、部分損害について協定価額全額を支払う制度ではありません。修理費、格落ち、残存価値及び全損・分損の区分を確認します。
実務上は、売買条件、Invoice、運賃、保険料、L/C、貨物の特殊性及び価格変動を踏まえて、船積前に保険価額と保険金額を設定することが重要です。110%で不足する場合は、追加保険又はIncreased Value Insuranceを検討し、事故後ではなく危険開始前に保険契約へ反映します。
