ICC2009 損害軽減義務と権利保全

ICC2009のMINIMISING LOSSESとは

ICC2009のMINIMISING LOSSESとは、貨物事故が発生した場合に、被保険者が損害を回避・軽減し、運送人や第三者に対する権利を保全する義務を定める部分です。

主に、第16条の被保険者の義務と、第17条のWaiverで構成されています。

貨物保険では、事故が起きた後に保険会社へ請求するだけでなく、損害を広げない対応と、保険会社が代位求償できるように相手方への権利を残す対応が重要になります。

そのため、MINIMISING LOSSESは、単なる約款上の義務ではなく、貨物事故発生直後の初動対応を決める重要な実務条項です。

第16条の基本的な趣旨

第16条では、被保険者、その使用人、代理人に対し、損害を回避または軽減するために合理的な措置を講じる義務が定められています。

この義務は、保険事故が発生した場合に、被保険者が貨物を放置して損害を拡大させることを防ぐためのものです。保険契約は損害を補償する仕組みですが、被保険者が合理的に防げる損害まで無制限に保険者へ転嫁できるものではありません。

この考え方は、英国海上保険法1906や伝統的な海上保険実務における損害防止・損害軽減の考え方ともつながります。貨物保険では、事故後に被保険者がどのように動いたかが、保険金請求、損害額の認定、第三者への求償に影響します。

したがって、第16条でいう「合理的な措置」とは、結果として最善であったかどうかだけではなく、事故発見時点の状況から見て、被保険者として相当な対応を取ったかどうかが問題になります。

損害を回避・軽減するための措置

貨物事故が発生した場合、被保険者は保険金請求を予定しているからといって、貨物をそのまま放置してよいわけではありません。

たとえば、濡損貨物であれば、濡れた外装のまま長時間放置すると、カビ、錆、腐敗、品質劣化が進む可能性があります。破損貨物であれば、荷崩れや再輸送中の追加破損を防ぐため、保全、仕分け、再梱包、移動制限などが必要になることがあります。

実務上問題になりやすい対応には、次のようなものがあります。

  • 濡損貨物の乾燥、仕分け、隔離
  • 破損貨物の保全、再梱包、追加破損防止
  • 温度管理貨物の緊急冷蔵・冷凍保管
  • 漏損貨物の安全確保、清掃、二次損害防止
  • 腐敗しやすい貨物の検品、選別、早期処分の検討
  • サーベイヤーの手配
  • 損害状態の写真撮影と記録化
  • 倉庫、CFS、運送人への事故状況確認

重要なのは、損害を広げないための対応を行いながら、その対応が必要であったことを後で説明できるように記録を残すことです。

第三者に対する権利保全

第16条では、運送人、受託者、その他の第三者に対する権利を適切に保全し、行使することも被保険者の義務とされています。

貨物事故では、船会社、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者、CFS、国内配送業者、梱包業者などに責任追及できる場合があります。

保険会社が貨物保険金を支払った場合、保険会社は被保険者に代位して、これらの第三者に対して求償を行うことがあります。そのため、被保険者が事故通知を出さず、証拠を残さず、相手方への請求権を失わせると、保険会社の求償権を害することになります。

実務上は、事故発見後、次のような資料と手続が重要になります。

  • B/L、Sea Waybill、D/O、Arrival Noticeの保全
  • 受領書、納品書、配送伝票へのリマーク記載
  • 外装、内装、貨物本体、コンテナ内の写真撮影
  • サーベイレポートの取得
  • 運送人、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者への事故通知
  • Claim LetterまたはClaim Noticeの発信
  • 保管記録、温度記録、搬入・搬出記録の取得
  • 廃棄、処分、売却前の事前確認

貨物事故では、保険会社への連絡と同時に、運送人・NVOCC・フォワーダーに対する権利保全を進める必要があります。

Claim Letterと通知期限

貨物事故では、Claim LetterやClaim Noticeを適切な相手へ送ることが重要です。

特に、B/L裏面約款、NVOCC約款、倉庫約款、国内運送約款には、事故通知期限や出訴期限が定められていることがあります。期限を過ぎると、相手方に対する請求が難しくなる場合があります。

外装に明らかな異常がある場合は、貨物受領時にリマークを残すことが重要です。受領書に「異常なし」と記載されたまま貨物を受け取ると、後日、損害が輸送中に発生したことを立証しにくくなることがあります。

隠れ損傷の場合でも、発見後すみやかに写真を撮影し、関係者に通知し、開梱状況や発見状況を記録する必要があります。

保険金請求だけを考えるのではなく、第三者に対する請求権を残すことが、貨物保険実務では重要です。

合理的に支出された費用

第16条では、損害軽減や権利保全の義務を履行するために、適切かつ合理的に支出された費用について、保険者が支払う旨も定められています。

ただし、すべての費用が当然に認められるわけではありません。その費用が、保険で補償される損害に関係し、損害の回避・軽減または求償権保全のために合理的であったかが確認されます。

たとえば、濡損貨物の乾燥費用、仕分け費用再梱包費用、緊急保管費用、サーベイ費用などは、事故の内容や必要性によって検討対象になります。

一方で、通常の検品費用、販売上の都合による追加作業、事故との関係が不明確な保管費用、事前確認なく行われた処分費用などは、当然に保険で認められるとは限りません。

費用を支出する場合は、なぜその措置が必要だったのか、誰が判断したのか、どの損害を防ぐためだったのかを記録しておくことが重要です。

Sue and Labour費用との関係

損害軽減のために支出される費用は、実務上、Sue and Labour費用と関連して説明されることがあります。

Sue and Labourとは、被保険者が損害の防止・軽減のために合理的な措置を講じ、そのために必要な費用を支出するという海上保険上の考え方です。

ただし、ICC第16条の費用補償と、保険証券や別条項で定められるSue and Labour費用を、常に同じものとして扱うべきではありません。契約内容、適用約款、保険証券の記載によって、費用がどの条項で扱われるかは確認が必要です。

したがって、事故対応費用を支出する前には、可能な限り保険会社、保険代理店、サーベイヤーへ連絡し、必要性、相当性、保険上の取扱いを確認しておくことが安全です。

特に、高額な保管費用、再輸送費用、再梱包費用、処分費用、緊急修理費用については、事後に「必要だった」「合理的だった」と説明するだけでは不十分になることがあります。

第17条 Waiverとは

第17条のWaiverは、被保険貨物を救助、保護、回復するために被保険者または保険者が講じる措置について、その行為自体が委付の放棄または承諾とみなされないことを定める条項です。

貨物が全損に近い状態になった場合でも、被保険者や保険者が貨物を保全・回収するための措置を取ることがあります。たとえば、損傷貨物を倉庫へ移動する、残存価値を確認する、売却可能性を調査する、サーベイを行う、回収可能な貨物を保護する、といった対応です。

このような救助・保全行為をしただけで、被保険者が委付を放棄した、または保険者が委付を承認したと扱われると、必要な救助行為や損害軽減措置が妨げられるおそれがあります。

そのため、第17条は、事故後に必要な保全措置を取りながらも、委付や推定全損に関する保険契約上の権利関係を直ちに確定させないための条項といえます。

委付・推定全損との関係

委付とは、被保険者が貨物を保険者に委ね、全損として処理することを求める考え方です。推定全損が問題になる場面では、貨物の回収費、修理費、再輸送費などが貨物価額に比べて過大になることがあります。

保険者が委付を承認すると、全損処理や残存貨物の権利関係に影響する可能性があります。そのため、保険者が貨物を調査したり、保全を指示したりしただけで、直ちに委付を承認したと扱われると、保険者側の判断機会が失われることになります。

一方、被保険者が貨物を救助、保全、売却、処分しようとしただけで、委付を放棄したと見られると、被保険者側の権利にも影響します。

Waiver条項は、このような誤解を避けるため、事故後の救助・保全行為と、委付・推定全損に関する権利関係を分けて扱う役割を持ちます。

貨物保険・B/L・NVOCC責任との関係

MINIMISING LOSSESは、貨物保険の保険金請求だけでなく、B/LやNVOCC責任とも強く関係します。

貨物保険で保険金が支払われた後、保険者が運送人、NVOCC、フォワーダー、倉庫業者、国内配送業者などに代位求償する場合があります。

そのため、被保険者が事故通知やClaim Letterを出さず、証拠を保全せず、相手方への請求権を失わせた場合には、保険者の代位求償が困難になります。

このような場合、事故の内容や約款の適用関係によっては、保険金の一部が減額されたり、支払が留保されたり、求償権を害した範囲について免責が問題になったりする可能性があります。

貨物事故では、「保険に入っているから大丈夫」と考えるのではなく、保険会社が後で第三者へ求償できる状態を残すことが重要です。

フォワーダー・NVOCCが注意すべき点

フォワーダーやNVOCCは、貨物保険の当事者でない場合でも、MINIMISING LOSSESの実務に深く関係します。

貨物事故の第一報は、荷主ではなく、フォワーダー、NVOCC、通関業者、倉庫会社、配送業者から入ることがあります。そのため、初動対応を誤ると、損害拡大、証拠喪失、求償権喪失につながります。

特に次の点は重要です。

  • 外装異常を見つけた時点で写真を撮る
  • 受領書や納品書にリマークを残す
  • 破損貨物を勝手に廃棄しない
  • 濡損貨物を放置しない
  • 保険会社やサーベイヤーへの連絡を促す
  • 運送人、倉庫会社、配送業者への通知を遅らせない
  • B/L、D/O、配送伝票、搬入記録、写真を保存する
  • 費用を支出する場合は、必要性と金額の根拠を残す

フォワーダーが荷主から「保険で処理するから大丈夫」と言われた場合でも、証拠保全と権利保全を省略してよいわけではありません。

実務上の初動対応

貨物事故が発生した場合には、まず貨物の状態を確認し、損害拡大を防ぐ措置を取ります。

次に、写真撮影、現物保全、サーベイ手配、受領書へのリマーク、関係者への事故通知、Claim Letterの発信などを行います。

実務上は、次の順番で整理すると対応しやすくなります。

  1. 貨物の状態を確認する
  2. 外装、内装、貨物本体、コンテナ内の写真を撮影する
  3. 受領書や納品書にリマークを入れる
  4. 貨物を廃棄・処分せず、可能な限り現物を保全する
  5. 保険会社、保険代理店、サーベイヤーへ連絡する
  6. 運送人、NVOCC、倉庫業者、配送業者へ事故通知を行う
  7. Claim LetterまたはClaim Noticeを発信する
  8. 損害拡大を防ぐための費用を支出する場合は、必要性を記録する
  9. 処分、売却、再輸送、再梱包を行う前に関係者へ確認する

この初動対応が遅れると、損害額の確定、保険金請求、第三者への求償のすべてに影響します。

処分・売却・再輸送時の注意点

事故貨物を処分、売却、再輸送、再梱包する場合は、特に慎重な対応が必要です。

貨物を廃棄してしまうと、損害原因や損害程度を後から確認できなくなることがあります。また、残存価値のある貨物を無断で処分すると、損害額の認定に影響することがあります。

再輸送や再梱包についても、それが損害拡大を防ぐために必要だったのか、販売上の都合だったのか、保険事故との関係が問題になります。

そのため、事故貨物の処分、売却、再輸送、再梱包を行う場合は、可能な限り保険会社、サーベイヤー、関係者へ事前に確認し、判断の経緯を記録しておくことが重要です。

まとめ

ICC2009のMINIMISING LOSSESは、貨物事故が発生した場合に、被保険者が損害を回避・軽減し、運送人や第三者に対する権利を保全する義務を定める部分です。

第16条は、被保険者が合理的な損害軽減措置を講じ、第三者への請求権を保全する義務を定めています。これは、保険金請求のためだけでなく、保険者が代位求償できる状態を残すためにも重要です。

第17条のWaiverは、被保険者や保険者が貨物を救助・保全したことだけで、委付の放棄または承諾とみなされないことを定める条項です。救助行為と、委付・推定全損に関する権利関係を分けて扱うための規定といえます。

貨物事故では、保険会社への連絡だけでなく、写真撮影、現物保全、受領書リマーク、サーベイ手配、Claim Letter、第三者への事故通知が重要になります。

損害を放置すれば損害拡大の問題になり、証拠や請求権を失わせれば代位求償に影響します。MINIMISING LOSSESは、事故後の現場対応、保険金請求、B/L・NVOCC責任、第三者求償をつなぐ重要な実務条項です。

同義語・別表記

  • MINIMISING LOSSES
  • Duty of Assured
  • Waiver
  • 損害軽減義務
  • 被保険者の義務
  • 求償権保全
  • 権利放棄
  • ICC2009第16条
  • ICC2009第17条