貨物海上保険で補償される損害

Covered Losses under Cargo Marine Insurance

貨物海上保険で補償される損害とは、輸送中に貨物に発生した滅失、破損、濡損、盗難、不着、数量不足その他の損害について、実際に適用される保険証券、Institute Cargo Clauses(ICC)、特別約款及び保険期間等の条件に従って保険金支払の対象となる損害をいいます。

貨物海上保険は、本船沈没のような大規模海難だけを対象とするものではありません。海上輸送、陸上輸送、港湾荷役、積替え、倉庫保管その他の通常の輸送過程で生じる貨物損害も、適用条件に応じて補償判断の対象となります。

ただし、「貨物が壊れた」「濡れた」「足りない」という損害結果だけでは補償可否は決まりません。ICC(A)ICC(B)、ICC(C)では担保危険の構造が異なり、War・Strikes等には別約款があります。また、保険期間、被保険利益、事故原因及び免責事項も確認する必要があります。

本記事の役割は、「どのような損害・費用が貨物海上保険の補償検討の入口となるのか」を総論として整理することです。梱包不備貨物固有の性質、通常減耗、遅延、不堪航・不適合、War・Strikes等の免責についての詳細な法的構造は、外航貨物海上保険で補償されない損害及び各専門記事で扱います。

以下では、特記のない限りICC 1/1/09を中心に説明します。実際の保険契約では、追加危険、追加免責、貨物別条件その他の特約が付帯されるため、個別事故では実際の保険証券一式を確認する必要があります。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 他記事で扱う内容
補償される損害の基本構造 貨物の物的損害、共同海損、救助料、一定の付随費用等の全体像 外航貨物海上保険で保険契約全体を扱う
ICC(A) 広い担保構造の中でどのような損害が補償検討に入るか ICC(A)条件で担保範囲・保険期間・主要除外を詳しく扱う
ICC(B) 列挙危険による損害を中心に補償する考え方 ICC(B)条件で各列挙危険を詳しく扱う
ICC(C) さらに限定された列挙危険による損害の考え方 ICC(C)条件で各列挙危険を詳しく扱う
補償されない損害 補償対象の入口に入った後も免責確認が必要であること 外航貨物海上保険で補償されない損害でClauses 4~7等の免責構造を詳しく扱う
War・Strikes 通常ICCとは別に付帯確認が必要であること 戦争危険・ストライキ危険で対象危険・期間・免責を詳しく扱う
共同海損・救助料 貨物自体が無損傷でも保険対応が必要になる場合 共同海損で保証・分担・精算手続を詳しく扱う
Forwarding Charges 担保危険によって輸送が予定外の場所で終了した場合の一定の追加費用 輸送中断・費用関連の記事で具体的な費用処理を扱う
損害軽減費用 ICC上の損害軽減義務に伴う合理的費用の基本 損害防止費用で費用項目を詳しく扱う
運送人責任 貨物保険の補償と第三者責任を別に整理すること 運送人責任・代位求償の記事で詳しく扱う

「補償される損害」は物的損害だけではない

貨物海上保険の中心は貨物そのものの滅失又は損傷ですが、標準ICCには、それ以外にも保険対応となり得る項目があります。

補償の類型 主な内容 典型例 主な確認事項
貨物の滅失・損傷 適用される担保危険による貨物の物的損害 破損、濡損、焼損、盗難、不着等 ICC条件、事故原因、保険期間、免責
共同海損犠牲 共同の安全のため貨物が犠牲となった場合 投荷、消火のための貨物損害等 共同海損行為、適用約款、免責
共同海損・救助料 契約・準拠法等に従って算定された一定の分担・救助費用 共同海損分担金、救助料 共同海損宣言、Average Adjuster、保証資料
Both to Blame Collision Clause上の責任 運送契約上の当該条項に基づき被保険者が負担する一定の責任 船舶衝突後の運送人からの請求 運送契約、ICC Clause 3、保険者への通知
Forwarding Charges 担保危険により輸送が予定外の場所で終了した場合に、貨物を保険上の仕向地へ送るため適切かつ合理的に生じた一定の追加費用 予定外港での荷卸し、保管、再輸送費 担保危険、輸送終了原因、費用の必要性・合理性
損害軽減・権利保全に伴う費用 回収可能な損害を回避・軽減し、第三者への権利を保全するため適切かつ合理的に支出した費用 緊急保全、サーベイに伴う措置、救済作業等 ICC Clause 16、事故との関係、必要性・合理性

したがって、「貨物に物理的な傷があるか」だけで貨物海上保険の役割を判断することはできません。共同海損や一部の費用補償のように、貨物そのものの直接損害とは異なる形で保険が機能することがあります。

ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の補償構造

条件 担保の基本構造 補償検討に入りやすい主な損害 特に確認が必要な損害 判断の中心
ICC(A) Clauses 4~7等の除外を除き、貨物の滅失・損傷の危険を広く担保する 偶発的な破損、濡損、盗難、不着、数量不足、汚損、荷役事故等 梱包、貨物固有の性質、通常損耗、遅延、War・Strikes等 保険期間中の損害と適用免責の確認
ICC(B) Clause 1に列挙された危険を担保する 火災、座礁、転覆、地震、波ざらい、水の侵入等 通常破損、盗難、原因不明の不足、一般的な荷役事故等 列挙危険への該当性と因果関係
ICC(C) ICC(B)よりさらに限定された列挙危険を担保する 火災、座礁、沈没、転覆、衝突、共同海損犠牲、投荷等 通常破損、盗難、濡損、地震、波ざらい等 限定された列挙危険への該当性と因果関係
War 通常ICCで除外される一定の戦争危険を別約款で担保する 戦争、敵対行為、一定の拿捕・抑留、遺棄兵器等 独自の保険期間、航路、遅延、制裁等 Institute War Clausesの実際の付帯条件
Strikes 通常ICCで除外される一定のストライキ・暴動・テロ等を別約款で担保する ストライキ参加者等による物的損害、一定のテロ・動機行為等 単なる労働力不足、遅延等 Institute Strikes Clausesの実際の付帯条件

ICC(A)については、「事故原因として約款に列挙された危険名を一つ特定しなければ補償されない」という構造ではありません。一方、ICC(B)・ICC(C)では、貨物に損害があるだけでは足りず、Clause 1に列挙された危険との関係を確認する必要があります。

補償判断の入口となる主な損害

損害 補償検討に入りやすい場面 条件による違い 主な確認資料
破損・曲損・へこみ 落下、衝撃、転倒、荷役等による物的損害 ICC(A)とICC(B)・ICC(C)では担保構造が異なる 出荷前写真、損害写真、荷役記録、Survey Report
濡損 海水、雨水、漏水等による損害 ICC(B)ではClause 1の水侵入危険等との関係、ICC(C)では追加担保等を確認する 貨物・コンテナ写真、塩分検査、事故報告
盗難・不着・抜荷 輸送中に貨物が盗難又は不着となった場合 ICC(A)とICC(B)・ICC(C)では扱いが大きく異なる シール、警察届、受渡記録、運送人報告
数量不足 輸送中の盗難、漏出等による数量差 通常減量、誤出荷、計量差等との区別が必要 Packing List、重量記録、検数記録、受領リマーク
汚損・混合 他貨物の漏出、異物混入等による物的損害 外部事故か貨物自体の性質かを確認する コンテナ内写真、積付資料、Survey Report
冷凍・冷蔵貨物の品質損害 担保される温度管理事故等により貨物自体に物的損害が生じた場合 温度特約、貨物固有の性質、遅延等の確認が特に重要 温度ログ、機器記録、出荷時品質資料
火災・爆発 火炎、熱、煙、煤、消火活動等による損害 ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)共通で重要な危険 消防・事故報告、写真、検査資料
重大海難 座礁、沈没、衝突等により貨物が損害を受けた場合 三条件とも重要だが個々の貨物損害との因果関係を確認する 船会社通知、事故報告、積付位置、Survey Report
陸上輸送用具事故 トラック転覆、鉄道脱線等 ICC(B)・ICC(C)でも列挙危険となる 事故証明、車両写真、配送記録
共同海損 共同の安全のため犠牲・費用が発生した場合 貨物無損傷でも分担金・保証対応が生じ得る 共同海損通知、保証書類、Average Adjuster資料

「補償されやすい・されにくい」ではなく判断順序を理解する

実務では便宜上、「補償されやすい損害」「補償されにくい損害」という表現を使うことがあります。しかし、保険金支払は事故名だけで決まるものではありません。

区分 典型的な状況 判断の考え方 次に確認すること
補償検討の入口が明確な損害 ICC(A)期間中の明確な落下破損、ICC(B)の海水侵入等 担保構造との対応が比較的明確 免責、保険期間、損害額
担保危険の確認が先に必要な損害 ICC(B)・ICC(C)での通常破損、盗難、不着等 まずClause 1又は追加担保への該当性を確認する 事故原因、追加特約
原因が競合しやすい損害 錆、カビ、結露、品質劣化、冷凍貨物等 外部事故と貨物自体の性質等を切り分ける 出荷前状態、温湿度、事故記録
貨物無損傷でも保険対応するもの 共同海損分担、一定の救助料 物的損害の有無とは別の補償条項を確認する Clause 2、共同海損資料
費用として検討するもの Forwarding Charges、損害軽減に伴う合理的費用 貨物損害そのものと費用補償を区別する Clause 12・16、費用明細、必要性

補償可否を判断するための基本要件

確認項目 確認内容 判断上の意味 主な資料
適用約款 ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)、War、Strikes、追加特約 担保される危険を確定する 保険証券、Certificate、Declaration
被保険貨物 事故貨物が保険の目的に含まれるか 対象外貨物でないことを確認する Invoice、Packing List、付保明細
被保険利益 請求者が損害時に被保険利益を有するか 保険金請求権の基本要件となる 売買契約、Incoterms、保険証券
保険期間 事故が適用約款上の期間中に発生したか 担保危険でも期間外なら別問題となる 集荷、搬入、B/L、搬出、納品記録
損害の存在 貨物にどのような滅失・損傷が生じたか 請求する損害を具体化する 写真、検査記録、Survey Report
事故原因 何が損害を発生させたか B・Cでは列挙危険との関係が特に重要 事故報告、写真、機器記録
免責 Clauses 4~7その他の除外が問題とならないか 補償の入口に入っても最終判断は別に必要 梱包資料、貨物仕様、事故経緯
損害額 修理費、減価、全損、残存価値等 補償額の算定に必要 見積、Invoice、鑑定資料

補償される損害の制度適用フロー

  1. 保険証券と適用約款を確認する。
    ICC、War、Strikes、追加危険、追加免責及び貨物別条件を確認します。
  2. 被保険貨物と被保険利益を確認する。
    事故貨物が付保対象であり、請求者が損害時に被保険利益を有するか確認します。
  3. 事故の発生時期・場所を確定する。
    集荷、港湾、本船、倉庫、配送等のどの段階かを整理します。
  4. 保険期間内か確認する。
    発見日と事故発生日を分け、適用約款のTransit Clauseへ当てはめます。
  5. 実際の損害を特定する。
    破損、濡損、盗難、不足、全損、共同海損分担等を整理します。
  6. 担保構造へ当てはめる。
    ICC(A)か、ICC(B)・ICC(C)の列挙危険かを確認します。
  7. 事故原因と損害との関係を確認する。
    特にICC(B)・ICC(C)では列挙危険との因果関係を確認します。
  8. 共同海損・救助料・付随費用を別に確認する。
    貨物物損以外のClause 2・12・16等の適用可能性を確認します。
  9. 免責を確認する。
    詳細な免責構造は外航貨物海上保険で補償されない損害へ委ね、個別案件では実際の約款を確認します。
  10. 損害軽減措置を講じる。
    二次損害を防ぎ、必要な現物・証拠を保存します。
  11. 第三者への権利を保全する。
    運送人、倉庫等へのClaim Noticeや期限管理を並行します。
  12. 保険会社・保険代理店へ資料を提出する。
    担保条件、事故原因、損害額等を整理して最終判断につなげます。

実務で問題になりやすいケース

ケース 主な争点 確認資料 判断のポイント 初動対応
ICC(A)付保の機械が荷役中に落下 事故損害と梱包・既存損傷の関係 荷役記録、写真、梱包資料、Survey Report 物的損害の事実を確認した後、免責を別に検討する 現物・梱包を保存する
ICC(B)付保貨物が倉庫内で通常荷役中に破損 Clause 1の列挙危険に入るか 事故報告、約款、現場写真 破損という結果だけでは補償対象にならない 具体的事故原因を確定する
ICC(B)付保貨物へ海水が侵入 Clause 1.2.3の水侵入危険との関係 コンテナ写真、塩分検査、貨物写真 水の種類・侵入場所・損害との因果関係を確認する コンテナ返却前に調査する
ICC(C)付保貨物がトラック横転で破損 陸上輸送用具の転覆への該当 事故証明、車両写真、貨物写真 保険期間と転覆による損害かを確認する 事故現場記録を確保する
盗難された貨物 ICC条件と盗難危険の担保状況 警察届、シール、受渡記録、証券 A・B・Cで補償構造が異なる 運送人にも直ちに通知する
冷凍貨物が変質 温度事故か通常劣化等か 温度ログ、品質資料、機器記録 「品質不良」という結果だけでは判断しない 温度データを確保する
共同海損宣言後、貨物は無損傷 物的損害とは別の共同海損分担 GA通知、保証書類、証券 貨物無損傷でも保険対応が必要となる 保険側へ速やかに通知する
担保事故により予定外港で輸送終了 Forwarding Chargesの適用 事故報告、保管・再輸送費、証券 費用が適切かつ合理的で対象条項に該当するか確認する 高額支出前に保険側へ相談する

制度適用シナリオ1―ICC(A)付保の大型機械が荷役中に落下した場合

事例:横浜からロッテルダム向けに輸出する保険金額2,800万円の産業機械をICC(A)で付保していたとします。積替港で機械入り木箱が荷役機器から落下し、到着後に内部部品の曲損が確認され、修理費650万円が見積もられました。

ICC(A)では、ICC(B)・ICC(C)のように「荷役中落下」という危険がClause 1へ個別列挙されている必要はありません。まず保険期間中に貨物へ物的損害が発生したことを確認します。

次に、落下事故と内部曲損との関係を写真、荷役記録、木箱状態、衝撃記録等によって確認します。

一方、保険会社から梱包不備の可能性が指摘された場合は、それ以降が免責の検討です。本記事では、事故損害が補償検討の入口に入るまでを中心に整理し、Clause 4.3の詳細な適用要件については外航貨物海上保険で補償されない損害へ委ねます。

制度適用シナリオ2―ICC(B)付保貨物が通常荷役中に破損した場合

事例:名古屋からシンガポール向けに輸出する保険金額1,200万円の機械部品をICC(B)で付保していました。積港の倉庫内でフォークリフト作業中に1ケースが落下し、内部部品に300万円の破損が生じました。

貨物には明確な物的損害があります。しかしICC(B)は列挙危険方式であるため、「破損した」という事実だけでは補償されません。

ICC(B)には、本船又は艀への積込み・荷卸し中に船外流失又は落下した梱包単位について一定の全損危険がありますが、一般の倉庫内フォークリフト作業中の一部破損を包括的に担保する条項ではありません。

そのため、本件では事故地点、作業内容、貨物の損傷程度、追加危険の有無等を確認します。該当する列挙危険又は追加担保がなければ、物的損害が存在していても標準ICC(B)の担保範囲には入らない可能性があります。

この事例は、「貨物に損害があること」と「選択した保険条件でその損害が担保されること」が別問題であることを示しています。

制度適用シナリオ3―貨物無損傷でも共同海損分担を求められた場合

事例:上海から東京向けに輸入する保険金額3,500万円の原材料について、本船で大規模火災が発生し、避難港への入港、消火、曳航等の後に共同海損が宣言されたとします。

原材料自体には使用不能となるような物的損害はありませんでしたが、貨物引渡しのためGeneral Average Guaranteeその他の保証書類を求められ、後日400万円相当の共同海損分担が問題となりました。

この場合、「貨物が無傷だから貨物保険は使えない」という判断は適切ではありません。標準ICCのClause 2は、約款所定の条件のもとで共同海損及び救助料を扱います。

したがって、共同海損宣言、Average Adjusterからの通知、保証要求、貨物価格、保険証券等を保険会社・保険代理店へ速やかに提出し、保証手続及び将来の分担金対応を確認します。

貨物海上保険の補償対象には、貨物そのものの物的損害だけでなく、海上輸送制度上発生する一定の費用負担も含まれることを示す代表例です。

共同海損・救助料

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のClause 2は、運送契約及び準拠法・実務に従って算定又は決定され、担保される損失を回避するため又はその回避に関連して発生した一定の共同海損・救助料を扱います。

そのため、貨物が目的地へ物理的に無傷で到着した場合でも、共同海損宣言によって貨物側へ分担負担が発生することがあります。

共同海損宣言を受けた場合には、貨物の損傷有無だけを確認するのではなく、General Average Guarantee、General Average Bond、Average Adjusterからの通知その他の保証・精算資料を確認します。

Forwarding Charges―輸送が予定外の場所で終了した場合

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のClause 12では、担保危険の作用によって被保険輸送が保険上の仕向地とは異なる港又は場所で終了した場合、貨物を保険上の仕向地へ輸送するため適切かつ合理的に発生した一定の荷卸し、保管及び再輸送の追加費用が対象となり得ます。

ただし、予定外の場所で費用が発生したというだけで対象になるわけではありません。輸送終了の原因が担保危険であるか、費用が適切かつ合理的であるか、免責事項がないか等を確認します。

また、このClauseは共同海損・救助料とは別の規定です。事故時には、貨物物損、共同海損、Forwarding Chargesその他の費用を一つに混ぜず、請求項目ごとに整理することが重要です。

損害軽減と第三者への権利保全

ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)のClause 16では、回収可能な損害について、被保険者、その使用人及び代理人が合理的な損害回避・軽減措置を講じ、運送人、受寄者その他の第三者に対する権利を適切に保存・行使することが求められています。

これらの義務を履行するため適切かつ合理的に支出した費用は、約款所定の条件のもとで、回収可能な損害に加えて保険者が償還する規定があります。

例えば、濡損貨物を乾燥可能な場所へ移して二次腐食を防ぐ、冷凍貨物を適切な温度環境へ移す、損害貨物と健全貨物を仕分ける等の措置が考えられます。

ただし、乾燥費、再梱包費、検品費その他の支出がすべて自動的に保険金となるわけではありません。事故との関係、必要性、合理性、実際の約款及び保険会社との連絡状況を確認します。

また、保険金請求を行うことと第三者への権利保全は並行して進めます。Contracting Carrier、Actual Carrier、倉庫業者、梱包業者その他の責任が考えられる場合には、Claim Notice、受領時リマーク、証拠保存及び出訴期限等に注意します。

フォワーダーの関与範囲

この五分類は、法令上又は業界全体で確立された法的分類ではなく、本シリーズにおいて、フォワーダーが契約及び実務上どの範囲まで関与しているかを整理するための分析上の枠組みである。

Standard Five Classifications 一般的な関与 貨物保険との接点 断定すべきでないこと 主な対応
1. Simple Intermediary 荷主、保険会社、運送人間の連絡を行う 付保情報・事故資料を伝達する 補償可否を独自に確定すること 保険条件と事実資料を正確に伝える
2. Cargo Transportation Service Provider 集荷、保管、荷役、配送等を行う 事故現場・貨物状態の証拠を保有しやすい 自社作業責任と保険補償を同一視すること 作業記録・写真を保存する
3. NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行しContracting Carrierとなる 事故区間について運送責任が問題となり得る 保険金が出れば自社責任がある、又は出なければ責任がないと判断すること 保険判断と運送人責任を分ける
4. Door-to-Door Single Contractor 輸送全体を一括受託する 複数輸送区間の事故資料を統合できる 一括受託だけで保険判断権限があると考えること 事故区間と各下請関係を整理する
5. Agent / Coordinator for Specific Operations 現地サーベイ、保管、荷役等を調整する 現地事故資料・証拠収集を支援する 代理権を超えて保険金支払を約束すること 権限範囲を確認して事実を報告する

実務では五分類に加えて、当該フォワーダーがContracting Carrier、Actual Carrier又は単なる手配者のいずれであるか、保険手配についてどのような委任を受けているかも確認します。

よくある誤解

誤解 実際の考え方 実務上の注意点
貨物保険に加入していれば輸送中の損害は全部出る 実際のICC、特約、期間及び免責によって判断します。 「保険加入」と「当該損害の担保」を分けます。
ICC(A)なら事故原因を確認する必要がない 列挙危険の特定は不要でも、損害事実、事故状況、期間、免責等の確認は必要です。 事故資料を保存します。
ICC(B)で貨物が破損すれば補償される ICC(B)ではClause 1の列挙危険への該当性が必要です。 破損結果だけでなく原因を確認します。
ICC(C)も貨物保険なので盗難を補償する 標準ICC(C)は限定列挙危険であり、盗難を包括的に担保する条件ではありません。 追加危険の有無を確認します。
貨物が無損傷なら保険金請求は発生しない 共同海損・救助料等が問題となる場合があります。 共同海損通知を放置しません。
事故後に発生した費用は全部保険で出る Forwarding Chargesや損害軽減費用にはそれぞれ要件があります。 高額支出前に保険側へ確認します。
ストライキ危険を付ければ遅延損害も補償される 物的貨物損害と遅延による経済的損失は別です。 戦争危険・ストライキ危険及び遅延損害の記事で確認します。
保険金が出れば運送人も必ず責任を負う 貨物保険の補償と運送人の法的責任は別の契約関係です。 保険請求と第三者責任を分けます。
保険金が出ないなら運送人にも請求できない 保険上の担保範囲外でも第三者責任が残る場合があります。 通知・出訴期限を保全します。

事故時の判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
付保時 荷主、保険会社、保険代理店 貨物、金額、輸送区間、ICC、追加危険 必要な危険が担保されているか事前確認する
事故発見時 荷受人、倉庫、配送会社 貨物状態、外装、数量、発見日時 移動・修理・廃棄前に写真を保存する
保険条件確認時 保険会社、保険代理店 ICC、War、Strikes、特約、保険期間 条件名だけで補償可否を判断しない
事故原因確認時 運送人、倉庫、サーベイヤー 落下、衝突、水侵入、盗難、火災等の事実 推測せず客観資料を追加取得する
ICC(B)・ICC(C)確認時 保険会社、保険代理店 列挙危険への該当性と因果関係 事故名と約款文言を照合する
共同海損時 船会社、保険会社、Average Adjuster 共同海損宣言、保証要求、分担資料 貨物無損傷でも直ちに保険側へ連絡する
追加費用発生時 保険会社、保険代理店、サーベイヤー 費用の原因、必要性、合理性、該当条項 高額支出前に承認・見解を確認する
損害額算定時 荷主、修理業者、サーベイヤー 修理費、残存価値、減価、全損可能性 根拠資料を明確にする
第三者請求時 Contracting Carrier、Actual Carrier、倉庫等 事故区間、責任、Claim Notice、期限 保険判断を待たず権利を保全する
保険判断に争いがある時 保険会社、保険代理店、必要に応じ海事弁護士 担保危険、免責、因果関係、証拠、準拠法 根拠条項と事実認定を書面で確認する

保険会社・保険代理店・海事弁護士へ相談すべき場面

通常の事故通知、必要資料の確認、保険条件の照会は、まず保険会社又は保険代理店と進めます。次のような場合には、サーベイヤー又は海上保険・国際運送に詳しい海事弁護士への相談も検討します。

  • 高額事故で担保危険と免責の双方が争われている場合
  • ICC(B)・ICC(C)の列挙危険への該当性が争われている場合
  • 梱包不備と異常な落下・衝突等が競合している場合
  • 貨物固有の性質と外部事故のどちらが原因か争われている場合
  • 保険期間中の事故発生を間接証拠から立証する必要がある場合
  • 共同海損、救助料又は高額なForwarding Chargesが問題となっている場合
  • War・Strikesその他の特別約款の解釈が争われている場合
  • 貨物保険の補償判断とContracting Carrier・Actual Carrierの賠償責任が同時に争われている場合
  • 保険者又は運送人への請求期限・出訴期間が迫っている場合
  • 海外で事故証拠、当局資料又はサンプルを緊急に保全する必要がある場合

実務上のポイント

貨物海上保険で補償される損害を理解する際には、「破損なら補償」「盗難なら補償」という損害名だけの一覧にしないことが重要です。

最初に、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)その他の適用条件を確認します。次に、事故が保険期間中に発生したか、貨物にどのような損害が発生したか、事故原因が担保構造へ入るかを確認します。その後に免責及び損害額を確認します。

また、貨物海上保険の補償は直接の物的損害だけではありません。共同海損・救助料、一定のForwarding Charges、損害軽減・第三者権利保全に伴う合理的費用等も、約款所定の要件を満たす場合には重要な補償項目となります。

一方、免責の詳細を本記事で重ねて説明するのではなく、補償対象の入口を理解した後は、外航貨物海上保険で補償されない損害、ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)、戦争危険・ストライキ危険等の専門記事へ進む構成とすることが、シリーズ全体の役割分担として適切です。

まとめ

貨物海上保険で補償される損害は、輸送中の貨物の滅失・損傷を中心としますが、実際の補償範囲はICC(A)、ICC(B)、ICC(C)、War・Strikesその他の特約によって異なります。

ICC(A)は除外事項を除いて広い担保構造を持つ一方、ICC(B)・ICC(C)ではClause 1の列挙危険への該当性と損害との因果関係が重要です。

さらに、標準ICCでは、貨物の直接的な物的損害だけでなく、一定の共同海損・救助料、Both to Blame Collision Clause上の責任、Forwarding Charges、損害軽減・第三者への権利保全に伴う合理的費用等も規定されています。

したがって、事故時には、①適用保険条件、②被保険貨物・被保険利益、③保険期間、④損害内容、⑤事故原因、⑥担保危険、⑦免責、⑧損害額及び費用、⑨第三者への権利保全を順に確認することが基本です。

免責の詳細な判断は外航貨物海上保険で補償されない損害へ委ね、本記事は「何が貨物海上保険の補償検討へ入るのか」を理解するための総論として位置付けます。

同義語・別表記

  • 貨物保険で払われる損害
  • 海上貨物保険の補償対象
  • 担保危険
  • 補償される事故
  • Covered Risks
  • Covered Losses

公式情報