Extension Clause for MAR Form―海賊行為に関する担保補正

Extension Clause for MAR Form — Coverage Adjustment for Piracy

EXTENSION CLAUSE FOR MAR FORM

Extension Clause for MAR Formとは、MAR Formを前提とする貨物保険において、Institute War Clauses (Cargo)の担保危険を補正し、海賊行為、その結果および未遂による貨物の滅失・損傷を明確に補償対象へ加えるために使用される特別約款です。

この約款は、単に「海賊被害なら何でも補償する約款」ではありません。

中心となる機能は、Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.2に置かれている戦争危険との因果関係を限定する文言を削除し、海賊行為による貨物の物的損害を明示的に加えることです。

したがって、約款を理解するには、次の三つを分けて確認する必要があります。

  • S.G. FormからMAR Formへ移行したことによる保険証券構造の変化
  • Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.1とClause 1.2の関係
  • 海賊行為による物的損害、遅延、身代金、共同海損および救助料の違い

また、海賊行為と呼ばれる事案であっても、貨物の直接損害、船舶の拘束、身代金、航路変更、長期滞留、運送人責任、共同海損および制裁規制は、それぞれ異なる保険・契約上の問題です。

Extension Clause for MAR Formが付帯されているという事実だけで、これらすべてが無条件に補償されるわけではありません。

この記事で扱う範囲

項目 この記事で扱う内容 別に確認すべき内容
Extension Clause for MAR Form Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.2の限定を補正し、海賊行為による貨物損害を加える仕組み 個別契約で使用される全文、保険会社独自の特約および引受判断
S.G. Form 旧来の証券本文に伝統的な海上危険が列挙されていた構造 S.G. Policyの歴史、判例による解釈および旧約款の詳細
MAR Form 簡潔な証券様式と、別添Institute Clausesを組み合わせて担保範囲を構成する仕組み 個別保険証券、包括予定保険、保険証明書および準拠法
Institute War Clauses (Cargo) 戦争危険、捕獲、拿捕、拘束、抑止、抑留および遺棄兵器との関係 戦争危険の保険期間、解約通知、Listed Areasおよび追加保険料
Institute Cargo Clauses 通常貨物条件と海賊行為の関係、特にICC(A)とICC(B)・ICC(C)の違い 個別の担保危険、免責、保険期間および事故原因
Institute Strikes Clauses ストライキ、テロリズム、政治的・思想的動機による行為と海賊行為との区別 行為者の目的、組織性、政治的動機および適用約款
海賊行為による物的損害 襲撃、拘束、回避行動または未遂による貨物の滅失・損傷 近因、損害立証、Survey、残存物および保険金額
共同海損救助料 海賊危険を回避・終了させるための費用と貨物側の分担 共同海損宣言、適用規則、精算、保証状および分担額
身代金・交渉費用 船舶・貨物解放のための支払と共同海損との関係 支払の合法性、制裁規制、K&R保険、船舶保険およびP&I
フォワーダー実務 航路確認、約款確認、事故資料の収集および関係者への連絡 保険金支払判断、法的助言、身代金交渉および共同海損精算

Extension Clause for MAR Formの目的

Extension Clause for MAR Formの目的は、MAR FormとInstitute War Clauses (Cargo)を組み合わせた保険構造において、海賊行為および一定の捕獲・拘束等の危険が、Clause 1.1の戦争危険との因果関係に限定され過ぎることを防ぐ点にあります。

Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.1は、戦争、内乱、革命、反乱、国内闘争および交戦国による敵対行為等を担保危険として定めています。

Clause 1.2は、捕獲、拿捕、拘束、抑止または抑留と、その結果または未遂を扱います。

ただし、標準文言では、Clause 1.2の捕獲等がClause 1.1の戦争危険から生じた場合に限定される構造になっています。

海賊行為は、必ずしも戦争、内乱または交戦国の敵対行為から生じるものではありません。

営利目的または私的目的による海賊の襲撃・拘束であれば、Clause 1.1との因果関係を満たさない可能性があります。

そこでExtension Clause for MAR Formは、Clause 1.2の限定を削除するとともに、海賊行為、その結果および未遂による被保険貨物の滅失・損傷を明示的に加えます。

典型的な条項構造

Extension Clause for MAR Formの典型的な構造は、二段階で構成されています。

補正段階 対象となる文言・条項 補正内容 実務上の効果
第1段階 Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.2 “arising from risks covered under 1.1 above”という限定句を削除する 捕獲、拿捕、拘束、抑止または抑留を、Clause 1.1の戦争危険だけに限定しない構造へ変更する
第2段階 海賊行為に関する明示的な追加 “caused by piracy and the consequences thereof or any attempt thereat”に相当する担保を追加する 海賊行為、その結果および未遂による貨物の滅失・損傷を明確にする
物的損害の確認 loss of or damage to the subject-matter insured 貨物の滅失または損傷を中心に担保する 単なる航海遅延や売上減少まで直接担保する文言ではない
共同海損の確認 Institute War Clauses (Cargo) Clause 2 担保危険を回避するための共同海損・救助料を別条項で扱う 海賊危険が担保危険となれば、関連する共同海損分担金が検討対象となり得る
費用の確認 損害防止義務、共同海損、救助料その他の費用条項 費用を物的損害と分けて判断する 保管費、交渉費、回航費または警備費が自動的に担保されるわけではない
免責・制限の確認 遅延、故意、制裁、保険期間等 他の免責・制限条項は原則として維持される Extension Clauseだけを見て最終的な補償可否を判断しない

この特約は、Institute War Clauses (Cargo)全体を新しい約款へ置き換えるものではありません。

Clause 1.2の限定を修正し、海賊行為を追加する部分的な補正条項です。

したがって、保険証券を確認する際は、特約名だけでなく、どの版のInstitute War Clauses (Cargo)へ適用されるのか、独自の追加・削除がないかを確認する必要があります。

なぜS.G. FormではなくMAR Formで補正が必要になったのか

S.G. Formは、古い英国海上保険で使用されてきた証券様式であり、証券本文に海上危険を伝統的な表現で広く列挙する構造を持っていました。

その伝統的な危険列挙には、海賊、海上での捕獲、拿捕、拘束および抑留に近い危険が含まれていました。

つまり、S.G. Form時代は、証券本文そのものと、付帯されるInstitute Clausesを組み合わせて補償範囲を読み解く構造でした。

これに対し、1982年以降に使用されるMAR Formは、保険証券本体を簡潔な契約確認書として位置づけ、具体的な担保危険・免責・保険期間をInstitute Cargo Clauses、Institute War Clauses、Institute Strikes Clauses等へ委ねる構造です。

この変更により、S.G. Form本文に置かれていた古い危険列挙を、MAR Formの下で当然に補償根拠として利用することはできなくなりました。

さらにInstitute War Clauses (Cargo) Clause 1.2では、捕獲、拿捕、拘束等がClause 1.1の戦争危険から生じた場合に限定されています。

そのままでは、戦争とは直接関係しない海賊による捕獲・拘束等について、旧来の補償意図との間に差が生じる可能性があります。

Extension Clause for MAR Formは、このMAR Form移行後の構造的な差を埋めるための補正条項です。

S.G. FormとMAR Formの違い

比較項目 S.G. Form MAR Form 海賊リスクへの影響 実務上の確認点
基本的な位置づけ 古いLloyd’s S.G. Policyを基礎とする伝統的証券様式 1982年以降の簡潔なMarine Policy Form 旧証券本文の危険列挙をMAR Formへ当然に引き継げない 証券様式と付帯約款の版を確認する
担保危険の記載方法 証券本文に古典的な海上危険を広く列挙する 担保危険を主として別添Institute Clausesで定める 海賊危険の根拠を付帯約款の中で特定する必要がある ICC、War、Strikes、特別約款を一式で確認する
捕獲・拘束等 伝統的危険列挙の一部として広く読まれてきた Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.2の文言に従う Clause 1.1との因果関係による限定が生じる Extension Clauseによる削除・追加を確認する
海賊行為 証券本文の伝統的危険として明示されていた 使用するInstitute Clausesの組合せによって位置づけが異なる ICC(A)、ICC(B)・ICC(C)、War Clausesを分けて確認する必要がある 海賊をどの約款で担保する契約か確認する
契約の読み方 証券本文、欄外約款、追加約款を重ねて解釈する 簡潔な証券と体系化された各Institute Clauseを組み合わせる 構造は整理されたが、条項間の境界確認が重要になる 一つの約款だけで判断しない
補正条項の役割 旧本文の危険列挙を前提としていた 旧補償意図との差を特別約款で補正する Extension ClauseがClause 1.2の限定を修正する 実際に特約が付帯されているか確認する
注意点 古い表現と判例解釈への依存が大きい 約款ごとの担保・免責が明確に分離される 分離された約款間に補償の空白がないか確認する 更新・切替時に新旧条件を比較する

通常貨物条件・戦争約款・ストライキ約款との違い

条件・約款 基本的な担保構造 海賊行為との関係 主に確認する損害 注意点
ICC(A) 免責を除く偶然な物的滅失・損傷を広く担保するAll Risks型 戦争免責の捕獲等からpiracyが除外されている版では、海賊による物的損害が通常貨物条件に残る可能性がある 貨物の物的滅失・損傷 遅延、身代金、間接損害等が当然に担保されるわけではない
ICC(B)・ICC(C) 列挙された危険による損害を担保するNamed Perils型 海賊行為自体が列挙危険でなければ、通常条件だけでは担保根拠が不足する可能性がある 列挙危険による物的損害 襲撃時の火災・座礁等、別の列挙危険との因果関係も確認する
Institute War Clauses (Cargo) 戦争、内乱、敵対行為、一定の捕獲・拘束、遺棄兵器等を担保する 標準Clause 1.2では捕獲等がClause 1.1の戦争危険に起因する場合に限定される 戦争危険による貨物の物的滅失・損傷 海賊が戦争危険に該当するとは限らない
Extension Clause for MAR Form War Clauses Clause 1.2の限定を削除し、海賊行為を追加する 海賊、その結果および未遂による貨物の滅失・損傷を明確化する 海賊危険に起因する物的損害 他の免責・保険期間・制裁条件は残る
Institute Strikes Clauses ストライキ、暴動、騒擾、テロリズム、政治的・思想的動機等を扱う 政治的・思想的動機を持つ武装集団の行為では適用関係が問題となる 同約款の担保危険による物的損害 私的利益目的の海賊行為とテロリズムを機械的に同一視しない
Kidnap and Ransom保険等 誘拐・拘束・身代金交渉等を専門的に扱う 船員等の拘束、交渉、身代金および危機対応が中心となる 身代金、交渉費用、危機対応費用等 貨物保険のExtension Clauseとは目的・被保険利益が異なる

したがって、「ICC(A)であれば海賊は必ず別約款」「War Clausesがあれば海賊はすべて担保」という単純な整理は適切ではありません。

適用される版、通常貨物条件、戦争約款、特別約款および事故原因を一体として確認する必要があります。

適用が問題となる場面・要件・対象外

場面 Extension Clauseとの関係 主な適用要件 対象外・別確認となりやすい事項 初動対応
海賊が本船を拘束し貨物が損傷した 典型的な検討場面 海賊行為と貨物の物的損害との因果関係 単なる航海遅延、売上減少、為替損失 事故通知、航海記録、損害記録を確保する
海賊の襲撃を回避中に座礁した 海賊未遂の結果として検討され得る 回避行動の合理性と座礁損害との近因 通常の操船過失だけが原因となった場合 船長報告、航海日誌、位置情報を確認する
武装警備員の防御中に貨物が損傷した 海賊未遂の結果として検討され得る 襲撃と防御行動、貨物損害の連続性 警備会社の単独過失、契約上の警備費 警備報告、映像、損害写真を保存する
本船が拘束されたが貨物は無傷だった 物的損害がなければExtension Clause単独の請求は困難となり得る 担保される損害または共同海損分担の存在 遅延だけによる損失、逸失利益 共同海損、救助料、保険期間を確認する
身代金が支払われ共同海損が宣言された War Clauses Clause 2との関係が問題となる 担保危険回避のための共同海損費用として精算されること 身代金がExtension Clauseで直接定額補償されるとの理解 GA Bond、Guarantee、Adjustmentを確認する
港内で武装強盗に貨物を盗まれた 保険上のpiracyに該当するか個別判断が必要 発生場所、行為態様、目的および準拠法上の分類 単純窃盗、倉庫盗難、陸上強盗 警察報告、港湾記録、位置情報を確保する
海賊危険回避のため航路を変更した Deviation・保険期間の問題として別途確認する 最終仕向地が同じで、合理的な安全措置であること 遅延損害、追加運賃の自動補償 航路変更理由と通知要否を確認する
海賊を装った政治的武装集団が襲撃した War・Strikes・Terrorismとの分類が問題となる 行為者、目的、組織、場所および近因 名称だけでpiracyと断定すること 公的報告、船会社報告、保険者判断を確認する
制裁対象者への身代金支払が問題となった Extension Clauseがあっても制裁条項が優先し得る 支払先、関係国、適用法および制裁規制 保険があるため支払可能と考えること 保険会社と専門家へ即時確認する

対象となり得るリスク

リスク 具体的な事象 Extension Clauseとの関係 別途確認する条項・制度 主な証拠
海賊による捕獲・支配 海賊が本船を乗っ取り、貨物を支配下に置く 海賊行為とその結果による物的損害を検討する War Clauses、保険期間、全損・委付 船長報告、位置情報、拘束記録
拘束・抑留 本船と貨物の自由な航行・引渡しが妨げられる Clause 1.2の補正との関係が問題となる 遅延免責、運送契約、保険終期 航海日誌、船会社通知、拘束期間
海賊未遂 接近・発砲・乗船企図があったが撃退された 未遂の結果として貨物損害が生じたか確認する 警備契約、運送人責任、通常貨物条件 VDR、映像、警備報告
回避行動による損傷 急旋回、増速、座礁、衝突等により貨物が損傷する 海賊未遂との近因・連続性を確認する ICC(A)等、Deviation、共同海損 航海記録、積付記録、Survey
海賊による貨物の盗取・投棄 貨物が持ち去られ、破壊または海中投棄される 直接的な貨物の滅失として検討する 盗難条件、全損、残存物 Manifest、B/L、数量記録
拘束中の品質劣化 リーファー停止、燃料不足、長期滞留で貨物が劣化する 海賊拘束と物的損害の因果関係を確認する 遅延免責、温度特約、固有の瑕疵 温度記録、電源記録、検査報告
共同海損分担 身代金、交渉費用、回避・救助費用等の分担を求められる 海賊危険が担保危険となる場合、Clause 2を確認する York-Antwerp Rules、運送契約、GA Adjustment GA Bond、Guarantee、精算書
救助・回収費用 船舶・貨物の救助、回収、再輸送が必要となる Extension Clause単独ではなく救助料・費用条項を確認する Salvage Charges、Sue and Labour、共同海損 救助契約、請求書、作業報告

共同海損とExtension Clause for MAR Formの関係

海賊行為では、貨物自体が損傷していなくても、船舶および貨物を共同の危険から解放するために多額の費用が発生することがあります。

代表例は、船舶・貨物の解放のための身代金、専門交渉人の費用、拘束中の一定の維持費用、回航または救助に関する費用です。

これらの費用が共同海損として認められるかは、運送契約に組み込まれたYork-Antwerp Rules、準拠法、共同海損精算人の判断および個別の事実関係によって決まります。

Extension Clause for MAR Formが付帯され、海賊行為が担保危険として扱われる場合には、Institute War Clauses (Cargo) Clause 2に基づく共同海損・救助料の補償が問題となります。

項目 基本的な位置づけ Extension Clauseとの関係 実務上の確認点
身代金 船舶・貨物を共同の危険から解放するための支出として共同海損に含まれる場合がある 海賊行為が担保危険であることがClause 2の検討に影響する 共同海損精算、支払の合法性、制裁規制
交渉人費用 身代金交渉に直接必要な費用として扱われる場合がある 担保危険回避のための費用か確認する 費用の必要性、合理性、請求主体
拘束期間中の費用 すべてが共同海損になるわけではない Extension Clauseだけで自動担保されない 適用する共同海損規則と精算内容
貨物側分担金 貨物価額に応じて共同海損分担を求められる場合がある War Clauses Clause 2による補償を確認する 保険金額、GA Guarantee、分担価額
GA Bond・Guarantee 貨物引渡し前に提出を求められることがある 貨物保険会社がGuaranteeを発行する場合がある 証券、保険会社、精算人、担保金
救助料 海賊危険を回避・終了させるための救助費用として問題となる Clause 2のsalvage chargesを確認する 救助契約、裁定、共同海損との重複

身代金が支払われたという事実だけで、貨物保険から同額が直接支払われるわけではありません。

船主側が支払った金額について共同海損が宣言され、貨物側へ分担請求が行われた場合には、貨物保険会社が共同海損保証状を発行し、最終精算後の分担金を処理する流れが一般的な検討対象となります。

ただし、制裁対象者または禁止された相手への支払が関係する場合には、約款上の担保とは別に、法令・制裁規制上の支払禁止が問題となります。

高リスク航路での実務上の意味

海賊行為や船舶に対する武装強盗の発生状況は、海域と時期によって変動します。

したがって、過去に危険海域とされていた航路が現在も同じ評価であるとは限らず、反対に、新たな地域で危険が高まることもあります。

実務では、固定的な海域名だけで判断せず、船会社の航路、最新の危険情報、Joint War CommitteeのListed Areas、保険会社の引受条件および通知条件を確認します。

海賊危険が高まる航路では、次の事項が問題となります。

  • Institute War Clauses (Cargo)とExtension Clause for MAR Formの付帯
  • 通常貨物条件における海賊危険の位置づけ
  • 戦争危険の追加保険料および事前通知
  • 航路変更・Deviationによる保険期間への影響
  • 武装警備員、護衛、Citadel等の安全対策
  • 身代金、共同海損、救助料および制裁規制
  • リーファー貨物等の拘束・遅延耐性

特に、航路変更によって航海日数が大幅に延びる場合には、海賊危険だけでなく、遅延、燃料、温度管理、品質保持、納期および保険期間を分けて確認する必要があります。

制度適用の判断フロー

  1. 保険証券の様式を確認する
    MAR Form、旧S.G. Form、包括予定保険または個別証券のいずれかを確認します。
  2. 通常貨物条件を確認する
    ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)その他の条件と版を特定します。
  3. 戦争約款を確認する
    Institute War Clauses (Cargo)の付帯と、その版を確認します。
  4. Extension Clauseを確認する
    Extension Clause for MAR Formまたは同等の保険会社独自特約が付帯されているか確認します。
  5. 事故の行為態様を確認する
    海賊、武装強盗、テロリズム、反乱、国家権力による拿捕等を区別します。
  6. 損害の種類を確認する
    貨物の物的損害、遅延、費用、身代金、共同海損、救助料等を分けます。
  7. 因果関係を確認する
    海賊行為、その結果または未遂と、貨物損害との近因を整理します。
  8. 保険期間を確認する
    戦争危険の水上危険期間、積載・荷卸し、拘束中および再輸送時の担保を確認します。
  9. 制裁・法令を確認する
    関係者、支払先、航路および身代金に関する規制を確認します。
  10. 事故通知と証拠保全を行う
    保険会社、船会社、Surveyor、共同海損精算人等へ連絡し、記録を保存します。

具体例1|アデン湾で本船が拘束され、身代金が支払われた場合

シンガポールからロッテルダムへ向かう本船が航行中に海賊に乗っ取られ、船舶・乗組員および貨物が約3か月間拘束されました。

船主側は専門交渉人を通じて身代金を支払い、本船と貨物は解放されました。

貨物自体には重大な物的損傷がありませんでしたが、船主は身代金、交渉費用その他の支出について共同海損を宣言し、貨物所有者へ分担を求めました。

この場合、Extension Clause for MAR Formは、海賊行為をInstitute War Clauses (Cargo)の担保危険として明確にする点で重要です。

ただし、貨物が無傷であるため、Extension Clauseの物的損害担保から身代金が直接支払われるという整理ではありません。

貨物側では、Institute War Clauses (Cargo) Clause 2、運送契約に組み込まれた共同海損規則、GA Adjustment、GA Bondおよび保険会社のGuaranteeを確認します。

さらに、身代金の支払先に関する制裁規制を別途確認する必要があります。

具体例2|海賊回避行動により本船が座礁した場合

東南アジアから日本へ向かう本船に小型高速艇が接近し、乗組員は海賊による乗船企図と判断しました。

本船は急速な回避操船を行いましたが、その際に浅瀬へ接近して座礁し、コンテナ内の機械貨物が大きな衝撃を受けました。

この場合、直接の物理的原因は座礁または衝撃ですが、その背景には海賊行為の未遂があります。

Extension Clause for MAR Formには、海賊行為の結果および未遂を明示的に扱う構造があります。

そのため、接近行為が保険上のpiracyまたはattemptに該当するか、回避行動が合理的であったか、海賊未遂と座礁損害の間に連続した因果関係があるかを確認します。

船長報告、VDR、AIS、レーダー映像、警報記録、航海日誌、コンテナ積付記録およびSurvey Reportが重要な証拠となります。

また、座礁自体が通常貨物条件でも担保され得る場合には、どの約款を主たる請求根拠とするかを保険会社が整理します。

具体例3|武装警備員が海賊を撃退した際に貨物が損傷した場合

高リスク海域を通過中の本船へ武装した者が接近し、発砲しながら乗船を試みました。

本船に乗船していた武装警備員が応射し、海賊は乗船を断念しました。

しかし、銃撃によって甲板上のコンテナが損傷し、消火・散水作業によって内部貨物に水濡れが発生しました。

この場合、本船の拘束には至っていませんが、海賊行為の未遂と、その撃退行動の結果として貨物の物的損害が生じています。

Extension Clauseの未遂・結果に関する文言が検討対象となります。

一方で、警備会社の過失、武器使用条件、運送人責任、通常貨物条件および求償可能性は別に整理します。

警備会社のIncident Report、船長報告、銃撃痕、消火記録、コンテナ番号、シール状態、写真および貨物Surveyを確保する必要があります。

具体例4|港内の武装強盗に貨物を盗まれた場合

本船が外国港の錨地で停泊中、武装した集団が船内へ侵入し、一部の高価品貨物を持ち去りました。

関係者は事案を「海賊被害」と説明しましたが、発生場所は領海内であり、行為の態様は港内の武装強盗に近いものでした。

この場合、一般的な呼称だけでExtension Clause上のpiracyに該当すると断定することはできません。

発生場所、船舶間の行為か、行為者の目的、準拠法上のpiracyの意味、通常貨物条件の盗難担保およびWar・Strikes Clausesとの関係を確認します。

Extension Clauseに該当しない場合でも、ICC(A)その他の通常貨物条件による盗難損害として担保される可能性があります。

船長報告、港湾当局・警察の報告、錨地位置、CCTV、Cargo Manifestおよび盗難数量を確認する必要があります。

フォワーダーの関与範囲

フォワーダーが海賊リスクとExtension Clause for MAR Formに関与する範囲は、運送契約上の地位、House B/Lの発行、Door-to-Door契約および個別に委託された業務によって異なります。

標準分類 典型的な立場 海賊リスクに関して行い得る対応 注意すべき範囲
1. Simple Intermediary
単純取次
船会社・保険代理店等の情報を荷主へ取り次ぐ 危険航路、航路変更、保険確認の必要性を案内する 海賊危険の担保や保険金支払を保証しない
2. Cargo Transportation Service Provider
貨物利用運送事業者
自己の名で貨物運送サービスを提供する 実際の航路、船名、積替港、貨物所在地および事故区間を整理する 運送人責任と貨物保険の担保を混同しない
3. NVOCC / House B/L Issuer House B/Lを発行し契約運送人として関与する House B/L、Master B/L、運送航路、荷卸しおよび引渡し状況を確認する B/L上の航路裁量が海賊リスクの保険担保を決めるわけではない
4. Door-to-Door Single Contractor
Door-to-Door一貫契約者
集荷から最終納品までの一貫輸送を引き受ける 海上区間の変更と、その後の保管・再輸送を一体的に整理する Door-to-Door運送契約と戦争危険保険は別契約である
5. Agent/Coordinator for Specific Operations
特定業務の代理・調整者
Survey、事故資料、再輸送、共同海損書類等を個別に調整する 委任範囲内で資料収集、事故通知、GA Bond等の提出を調整する 身代金交渉、制裁判断または保険金支払を独自に決定しない

Contracting Carrier(契約運送人)やActual Carrier(実運送人)等は、運送契約上または法的責任上の地位を示す概念です。これらは、フォワーダーの関与形態を整理する標準五分類を置き換える代替分類ではありません。

また、航路確認、警備手配、Survey、保管、再輸送、共同海損書類の収集または事故連絡等の実作業を実施・手配すること自体によって、第六の独立分類が生じるものではありません。これらの実作業は、フォワーダーがどの契約上の立場で、誰のために、どの範囲まで引き受けたかに応じて、標準五分類のいずれかの中で整理します。

個別案件における海賊危険の担保、航路選択権限、身代金支払、共同海損分担、運送人責任または保険金支払可否を、この五分類だけで決定することはできません。

よくある誤解

よくある誤解 実際の考え方 実務上の対応
All Risksなら海賊関係の損失はすべて補償される ICC(A)で海賊による物的損害が担保され得ても、遅延、身代金、間接損害等は別問題です。 通常条件、War Clauses、Extension Clauseおよび費用条項を確認します。
War Clausesがあれば海賊は必ず補償される 標準Clause 1.2にはClause 1.1の戦争危険との因果関係による限定があります。 Extension Clauseまたは同等特約の有無を確認します。
Extension ClauseはWar Clauses全体を置き換える Clause 1.2の限定を補正し、海賊行為を加える部分的な特約です。 War Clauses本体と併せて読みます。
海賊に拘束されれば遅延損害もすべて回収できる 遅延だけによる損失は免責となる場合があり、物的損害と区別が必要です。 損害原因と損害項目を分けます。
身代金はExtension Clauseから直接全額支払われる 身代金は共同海損、K&R保険、船舶側保険等との関係で処理される場合があります。 共同海損精算と適用保険を確認します。
海賊に襲われれば自動的に共同海損になる 共同の安全のための異常な犠牲・費用等の要件と精算が必要です。 共同海損宣言、適用規則、Adjustmentを確認します。
海上の武装犯罪はすべて保険上のpiracyである 港内強盗、テロ、反乱、国家による拿捕等とは区別が必要です。 発生場所、行為者、目的、準拠法を確認します。
MAR Formに移行してもS.G. Formの危険列挙は当然に残る MAR Formでは担保危険を別添Institute Clausesに委ねる構造です。 付帯約款と補正特約を一式で確認します。
フォワーダーが危険航路を知っていれば保険も自動的に変更される 輸送情報の把握と、保険者への通知・条件変更は別の手続です。 荷主へ保険会社・保険代理店への確認を促します。
保険が付いていれば制裁対象者への支払も可能である 制裁・法令による支払禁止は保険契約とは別に適用されます。 支払前に保険会社と専門家へ確認します。

実務判断チェックリスト

確認場面 確認する相手 確認事項 問題がある場合の対応
保険契約・更改時 荷主、保険代理店、保険会社 MAR Form、通常貨物条件、War・Strikes Clausesの版 新旧条件の差と補償空白を確認する
特別約款確認時 保険代理店、保険会社 Extension Clause for MAR Formまたは同等特約の有無 付帯されていなければ海賊危険の取扱いを照会する
Booking・航路決定時 船会社、NVOCC、荷主 船名、航路、積替港、危険海域通過の可能性 通知・追加保険料・航路制限を確認する
航路変更通知受領時 船会社、フォワーダー、荷主 海賊回避、戦争危険回避、Deviationの理由 保険期間と通知要否を確認する
襲撃・未遂発生時 船会社、船長、保険会社、Surveyor 日時、位置、行為態様、被害、回避行動 即時通知し、航海記録・映像を保全する
貨物損害発見時 荷主、倉庫、Surveyor、保険会社 損害状態、発見時点、海賊行為との因果関係 Survey、写真、数量・温度記録を確保する
本船拘束時 船会社、P&I、保険会社、荷主 拘束状況、貨物状態、保険期間、連絡体制 独自交渉を避け、専門的な危機対応へ移行する
共同海損宣言時 共同海損精算人、保険会社、船会社 GA Bond、Guarantee、担保金、適用規則 貨物引渡し前に必要書類を提出する
身代金・費用発生時 船主側、保険会社、専門家 費用の性質、共同海損、制裁規制、請求主体 Extension Clauseの直接損害と分けて整理する
貨物解放・再輸送時 船会社、現地代理店、保険会社、荷主 貨物状態、再輸送、保管、保険終期、仕向地 継続担保・追加保険を書面で確認する

事故時に確認すべき資料

資料 確認できる内容 主な入手先 実務上の目的
保険証券・保険証明書 MAR Form、被保険者、航程、保険期間 荷主、保険代理店、保険会社 契約の基本条件を特定する
Institute Clauses・特別約款 War、Strikes、Extension Clause、免責 保険会社、保険代理店 請求根拠と対象外を確認する
B/L・Booking 船名、航路、積地、揚地、運送条件 船会社、NVOCC、フォワーダー 運送区間と航路変更を確認する
船長・船会社Incident Report 襲撃日時、位置、行為者、対応 船会社、船長、P&I 海賊行為・未遂の発生を立証する
AIS・VDR・航海日誌 本船位置、進路、回避行動、拘束期間 船会社、船主、関係当局 事故と損害の因果関係を確認する
貨物写真・Survey Report 物的損害、梱包、残存価値、発見時点 Surveyor、倉庫、荷主 保険損害額を立証する
温度・電源記録 拘束中の温度逸脱、リーファー停止 船会社、CY、データロガー 品質劣化との因果関係を確認する
GA Bond・Guarantee・Adjustment 共同海損の根拠、分担額、保証内容 共同海損精算人、船会社、保険会社 貨物引渡しと分担金請求に対応する
費用明細・請求書 保管、救助、再輸送、交渉等の費用 船会社、代理店、専門業者 物的損害、共同海損、別費用を区分する
保険者への通知記録 通知日時、通知内容、指示 荷主、保険代理店、フォワーダー 通知義務と事故対応履歴を確認する

実務上のポイント

Extension Clause for MAR Formの実務上の核心は、Institute War Clauses (Cargo) Clause 1.2にある戦争危険との因果関係の限定を削除し、海賊行為、その結果および未遂による貨物の滅失・損傷を明示的に加えることです。

この条項が必要となる背景には、S.G. Formの証券本文に置かれていた伝統的な危険列挙が、MAR Formでは別添Institute Clausesへ移されたという構造変化があります。

ただし、Extension Clauseは海賊に関するあらゆる経済的損失を補償する包括的な約款ではありません。

貨物の物的損害、遅延損害、身代金、共同海損、救助料、再輸送費、保管費および運送人責任を分けて確認する必要があります。

特に、海賊により本船が拘束されたものの貨物自体は無傷であった場合、直接的な貨物損害よりも、共同海損分担、救助料、保険期間および遅延免責が中心的な問題となることがあります。

反対に、襲撃、回避行動、発砲、消火または拘束中の温度管理不良によって貨物が損傷した場合には、海賊行為または未遂と物的損害との因果関係を立証する必要があります。

高リスク航路では、事故後に約款を確認するのではなく、船積前にMAR Form、Institute Cargo Clauses、Institute War Clauses、Institute Strikes ClausesおよびExtension Clause for MAR Formの付帯状況を確認することが基本です。

まとめ

Extension Clause for MAR Formは、MAR Formを前提とする貨物保険において、Institute War Clauses (Cargo)の担保構造を補正する特別約款です。

標準的なInstitute War Clauses (Cargo) Clause 1.2では、捕獲、拿捕、拘束、抑止または抑留が、Clause 1.1の戦争危険から生じた場合に限定されています。

Extension Clauseは、この限定句を削除し、海賊行為、その結果および未遂による被保険貨物の滅失・損傷を明示的に加えます。

この補正が必要となる背景には、旧S.G. Formの証券本文に置かれていた伝統的な危険列挙が、1982年以降のMAR Formでは別添Institute Clausesへ委ねられる構造へ変更されたことがあります。

Extension Clauseは、Institute War Clauses (Cargo)全体を置き換えるものではなく、Clause 1.2を中心とする部分的な補正条項です。

そのため、戦争約款の保険期間、免責、通知義務、制裁条項その他の規定は、別途確認する必要があります。

また、ICC(A)における海賊危険、ICC(B)・ICC(C)の列挙危険、Institute Strikes Clausesのテロリズム・政治的動機による行為は、それぞれ別の構造です。

海賊という名称だけで適用約款を決めるのではなく、行為者、目的、発生場所、事故態様および損害原因を確認する必要があります。

Extension Clauseの中心は貨物の物的滅失・損傷であり、航海遅延、逸失利益、身代金、交渉費用、保管費等がすべて直接補償されるわけではありません。

身代金や関連費用について共同海損が宣言された場合には、Institute War Clauses (Cargo) Clause 2、運送契約、共同海損規則およびGA Adjustmentを確認します。

共同海損分担が貨物側へ請求された場合には、GA Bond、保険会社のGuarantee、担保金および最終精算への対応が必要となることがあります。

海賊危険回避のため航路が変更された場合には、Extension Clauseだけでなく、Deviation、保険期間、戦争危険、追加保険料および遅延損害を確認します。

事故が発生した場合は、保険証券、付帯約款、B/L、航海記録、船会社報告、位置情報、貨物損害記録、費用資料および共同海損書類を早期に確保します。

最も重要なのは、「All Risksだから大丈夫」「War Clausesがあるから大丈夫」と判断せず、MAR Formと各Institute Clausesの組合せの中で、海賊危険がどのように担保されているかを船積前に確認することです。

Extension Clause for MAR Form、海賊行為、共同海損、身代金および制裁規制の適用は、保険証券、使用約款、準拠法、運送契約および個別の事故状況によって異なります。実際の案件では、取扱保険会社または保険代理店へ確認してください。

同義語・別表記

  • MAR Form Extension Clause
  • MARフォーム拡張約款
  • MARフォーム補正約款
  • 海賊リスク拡張約款
  • 協会戦争約款補正条項

関連用語

公式情報