ICC(A)条件
ICC(A)条件とは、Institute Cargo Clauses (A) のことで、外航貨物海上保険で広く使用される代表的な貨物保険条件です。
実務上は「オールリスク条件」又は「全危険担保」と呼ばれることがあります。ICC(B)条件やICC(C)条件が、原則として約款に列挙された危険を中心に補償するのに対し、ICC(A)条件は、約款上の除外事項に該当しない限り、貨物の滅失又は損傷を生じさせる危険を広く補償対象として検討する構造を採っています。
ただし、「All Risks」という名称は「すべての損害について必ず保険金が支払われる」という意味ではありません。損害が保険期間中に発生したか、被保険者が損害発生時に被保険利益を有しているか、損害が偶然なものとして説明できるか、一般免責、梱包不備、貨物固有の性質、遅延、船舶・コンテナ等の不適合、戦争危険、ストライキ危険等の除外に該当しないかを順に確認する必要があります。
本記事は、特記のない限りICC(A) 1/1/09を中心に説明します。実際の保険契約では、旧版約款、特別約款、追加条件、免責条件、フランチャイズ、貨物別条件その他の修正が加えられることがあるため、最終的には当該保険証券及び適用約款を確認する必要があります。
この記事で扱う範囲
| 項目 | この記事で扱う内容 | 他記事で扱う内容 |
|---|---|---|
| ICC(A)の基本構造 | 広い危険担保と除外事項を組み合わせるICC(A)の考え方 | 貨物海上保険で保険契約全体の基本構造を扱う |
| ICC(B)・ICC(C)との違い | 担保危険の考え方と補償範囲の相違 | ICC(B)、ICC(C)で各条件の列挙危険を詳しく扱う |
| オールリスク | 「すべての損害を無条件で補償する」という意味ではないこと | オールリスクで名称から生じる誤解を詳しく扱う |
| 梱包不備・貨物固有の性質 | ICC(A)でも免責原因となり得ることと確認の入口 | 梱包不備、貨物固有の性質で原因判断を詳しく扱う |
| 遅延損害 | 遅延を原因とする損害がICC(A)でも原則として除外されること | 遅延損害で間接損害・経済損失との関係を詳しく扱う |
| 戦争・ストライキ危険 | 通常のICC(A)から除外され、別途条件確認が必要となる危険 | 戦争危険、ストライキ危険で別約款の補償内容を詳しく扱う |
| 保険期間・輸送区間 | ICC(A)のTransit Clauseと補償終了点の基本 | 保険期間、輸送区間でWarehouse to Warehouseや輸送経路を詳しく扱う |
| 保険金額・損害額 | ICC(A)の補償範囲と保険金額は別問題であること | 保険金額で保険価額、建値、保険金額の算定を詳しく扱う |
ICC(A)条件の目的と基本構造
ICC(A)、ICC(B)、ICC(C)は、同じ貨物輸送であっても、どの範囲の輸送危険を保険者が引き受けるかを区分するための代表的な約款です。実務上は、貨物の性質、損害の発生可能性、輸送形態、保険料、荷主が許容できる自己負担リスクなどを踏まえて条件を選択します。
ICC(A)の特徴は、事故原因を火災、座礁、衝突等の限定された危険名に当てはめる方式ではなく、まず保険期間中に貨物の滅失又は損傷が発生したかを確認し、そのうえで約款上の除外事項が適用されるかを検討する点にあります。
したがって、ICC(A)では「どの列挙危険に該当するか」だけを探すのではなく、損害発生の事実、時期、原因、貨物の事故前状態、梱包、輸送方法、約款上の除外事項を総合して判断します。原因が完全に特定できないから直ちに免責となるわけでも、逆に原因不明だから自動的に補償されるわけでもありません。
また、ICC(A)は貨物の物的損害だけを扱う単純な条件ではありません。一定の共同海損・救助費用や、運送契約にBoth to Blame Collision Clauseが存在する場合の一定の責任についても規定があります。
ICC(A)・ICC(B)・ICC(C)の違い
| 条件 | 担保の基本構造 | 典型的に検討しやすい損害 | 特に確認すべき事項 | 実務上の位置付け |
|---|---|---|---|---|
| ICC(A) | 除外事項に該当しない限り、貨物の滅失・損傷を生じさせる危険を広く検討する | 破損、濡損、盗難、不着、汚損、荷役事故、数量不足等 | 一般免責、梱包、貨物固有の性質、遅延、保険期間、戦争・ストライキ危険等 | 原因形態が多様な一般貨物、機械、部品、完成品等で広い補償を求める場合に利用されやすい |
| ICC(B) | 約款に列挙された一定の危険を中心に補償する | 火災、爆発、座礁、沈没、衝突、一定の水濡れ、地震等 | 損害原因が列挙危険に該当するか | ICC(C)より広いがICC(A)より限定された危険担保 |
| ICC(C) | ICC(B)よりさらに限定された列挙危険を中心に補償する | 火災、爆発、座礁、沈没、衝突、共同海損犠牲等 | 単独破損、盗難、水濡れ、数量不足等が列挙危険に該当するか | 重大な海上事故を中心に備える限定的な条件 |
「A・B・Cのどれが良いか」は、条件の広さだけで決まりません。貨物価額、壊れやすさ、盗難性、温湿度感応性、梱包方法、輸送経路、過去の事故実績、保険料その他の条件を含めて選択します。
ICC(A)で補償を検討するための前提
| 確認項目 | 確認する内容 | 判断上の意味 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 適用約款 | ICC(A)の版、特別約款、追加免責、貨物別条件 | 同じ「ICC(A)」という説明でも実際の契約内容が異なる場合がある | 保険証券、Certificate、Declaration、適用約款 |
| 被保険貨物 | 事故貨物が保険契約上の対象貨物に含まれているか | 対象外貨物ではICC(A)自体の議論以前に補償対象とならない可能性がある | Invoice、Packing List、保険申込資料 |
| 被保険利益 | 保険金を請求する者が損害発生時に被保険利益を有しているか | ICC(A)では損害発生時の被保険利益が請求上重要となる | 売買契約、Incoterms、Invoice、保険証券 |
| 保険期間 | 損害がTransit Clause上の保険期間中に生じたか | ICC(A)で広い危険を担保していても期間外の損害は別問題となる | 集荷記録、搬入記録、B/L、搬出記録、納品記録 |
| 損害の事実 | 滅失、破損、濡損、汚損、数量差異等が実際に生じているか | 事故名ではなく事故前後の差異を客観的に確認する | 写真、受領書、検品記録、Survey Report |
| 偶然性と原因 | 通常予測される自然減耗等ではなく、偶然な損害として説明できるか | ICC(A)は「原因を問わずすべて支払う」条件ではない | 事故報告、サーベイ、温度記録、輸送記録 |
| 除外事項 | Clauses 4~7その他の免責・除外条件に該当しないか | ICC(A)の補償範囲は除外事項とセットで判断する | 梱包資料、貨物仕様、航路情報、事故原因資料 |
ICC(A)の主要な除外事項
ICC(A)を理解するうえでは、補償対象となる事故名を覚えるより、どのような損害が除外されるかを理解する方が重要です。特に実務では、一般免責、梱包、貨物固有の性質、遅延、船舶・コンテナ等の適合性、戦争、ストライキ等が争点になりやすくなります。
| 約款上の区分 | 主な論点 | 実務上の意味 | 確認資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 一般免責 | 被保険者の故意 | 被保険者自身の故意による損害は通常の偶然事故とは扱われない | 事故報告、指示記録、関係者供述 | 単なる過失と故意を混同しない |
| 一般免責 | 通常の漏損、重量・容積の通常減少、通常の摩耗 | 輸送に伴って通常発生する自然的な減少や消耗は別扱いとなる | 出荷数量、到着数量、貨物特性資料 | 異常な減少や事故による流出とは切り分ける |
| 一般免責 | 梱包又は準備の不十分・不適合 | 輸送中の通常の負荷に耐えられない梱包が損害原因となった場合に問題となる | 梱包仕様、出荷前写真、ラッシング記録 | 梱包者、実施時期、保険開始時点との関係を確認する |
| 一般免責 | 貨物固有の性質 | 貨物そのものの自然的性質から生じた損害は除外が問題となる | SDS、仕様書、品質記録、温湿度記録 | 外部事故が損害を発生・増幅させた可能性も検討する |
| 一般免責 | 遅延 | 遅延を原因とする損害は、遅延原因が担保危険であっても原則として別扱いとなる | 本船予定、遅延記録、売買契約、損害明細 | 貨物の物的損害と販売機会喪失等を分離する |
| 一般免責 | 船主等の倒産・財務不履行 | 被保険者が一定の事情を知り又は通常知るべき状況であったかが問題となる | 契約時資料、通知、信用情報 | 善意の買主への保険契約譲渡に関する例外もあるため一律判断しない |
| 船舶・輸送用具 | 不堪航又は安全運送への不適合 | 単に船舶やコンテナに不具合があっただけで当然に免責となるわけではない | 積付記録、コンテナ状態、整備資料 | 被保険者の認識、積載時点、誰が積載したか等の条項要件を確認する |
| 戦争危険 | 戦争、内乱、拿捕・抑留等 | 通常のICC(A)とは別の戦争危険条件を確認する | 保険証券、War Clauses、航路情報 | 2009年版では海賊行為が戦争免責中の拿捕等から除外されている点に注意する |
| ストライキ等 | ストライキ、暴動、騒乱、テロ、政治的・思想的・宗教的動機による行為 | 通常のICC(A)から除外され、別途Strikes Clauses等を確認する | 保険証券、Strikes Clauses、事故情報 | Strikes Clausesを付帯していても遅延損害まで当然に補償されるわけではない |
梱包不備は「梱包が悪ければ全部免責」ではない
ICC(A)の梱包不備免責は、単に事故後に「梱包が弱かった」と評価されれば自動的に適用されるものではありません。梱包又は輸送準備が通常の輸送上の負荷に耐えるために不十分又は不適切であったか、その梱包を誰が行ったか、いつ行ったか、保険開始前か後か、損害との因果関係があるかを確認する必要があります。
また、ICC(A)上の「packing」には、一定の場合、コンテナ内への積付けも含まれます。したがって、木箱や段ボールだけでなく、コンテナ内固定、ラッシング、重量配分等が問題になることがあります。
逆に、輸送中の予期しない強い衝撃によって適切に梱包された貨物が破損したのであれば、単に外装に大きな損傷がないという理由だけで梱包不備と決めることはできません。梱包免責の適用は、事故状況と梱包状態を具体的に照合して判断します。
貨物固有の性質との関係
貨物固有の性質とは、貨物そのものが本来有する性質によって損害が発生する場合を指します。自然腐敗、自然発酵、自己発熱、自然蒸発、錆、カビ、品質劣化等では、この論点が問題になることがあります。
ただし、「食品が腐った」「金属が錆びた」という結果だけで判断することはできません。例えば、冷凍機の事故による異常な温度上昇、コンテナへの海水浸入、外部からの雨水侵入等が原因であれば、貨物固有の性質だけでは説明できない可能性があります。
事故原因と貨物自体の性質が競合している場合には、温度記録、出荷時品質、コンテナ状態、輸送期間、事故発生時期等を確認し、何が損害の支配的原因となったかを検討します。
遅延損害との関係
ICC(A)では、遅延を原因とする損害は重要な除外事項です。貨物に物的損傷がなく、単に到着が遅れたことによる販売機会の喪失、違約金、操業停止、契約失注、市場価格下落等が生じた場合、通常の貨物損害とは分けて考える必要があります。
さらに注意すべき点は、遅延の原因が本来ICC(A)で担保される危険であっても、「遅延によって発生した損害」という因果関係であれば除外が問題となることです。
したがって、「船舶事故が原因で10日遅れたから、10日分の逸失利益もICC(A)で補償される」という理解は適切ではありません。船舶事故による貨物自体の損傷と、到着遅延による経済損失を分離して請求内容を整理する必要があります。
戦争危険・ストライキ危険と海賊行為
通常のICC(A)は、戦争危険やストライキ等の危険を包括的に含む条件ではありません。戦争、内乱、一定の拿捕・抑留、ストライキ、暴動、騒乱、テロその他政治的・思想的・宗教的動機による行為については、別途Institute War ClausesやInstitute Strikes Clauses等の付帯状況を確認する必要があります。
一方、ICC(A) 1/1/09の戦争危険除外では、拿捕・抑留等に関する規定から海賊行為が除外されています。そのため、「海賊行為は戦争危険だからICC(A)では必ず対象外」と一律に説明するのも正確ではありません。海賊行為による貨物損害は、実際の適用約款、追加免責、航路条件等を含めて確認します。
紛争地域や高リスク海域では、ICC(A)という条件名だけで判断せず、War、Strikes、Terrorism、Sanctionsその他の特別条件まで保険証券単位で確認する必要があります。
保険期間―Warehouse to Warehouseの正しい理解
ICC(A)の保険期間は、一般にWarehouse to Warehouseと説明されますが、「出荷倉庫を出てから到着後いつまでも補償される」という意味ではありません。
ICC(A) 1/1/09では、原則として、保険契約に記載された場所で貨物が輸送開始のため直ちに運送用具へ積み込まれる目的で最初に動かされた時から保険が開始し、通常の輸送過程中継続します。
一方、終了については、最終仕向地の倉庫等で運送用具から荷卸しが完了した時、通常の輸送過程を外れた保管・仕分け・配送目的の倉庫等を被保険者が選択して荷卸しした時、運送用具やコンテナを通常の輸送以外の保管に使用することを選択した時、又は最終荷揚港で本船から荷卸し完了後所定の日数が経過した時等のうち、約款上最も早く到来する終了事由が問題となります。
したがって、「揚港で本船から降ろした後60日間は必ず補償される」という理解は正確ではありません。60日より前に最終倉庫へ荷卸しした場合や、通常輸送以外の保管に切り替えた場合には、それ以前に終了することがあります。
また、輸送契約が途中で終了した場合や、被保険者が仕向地を変更した場合には、保険者への速やかな通知や継続担保の確認が必要になることがあります。
ICC(A)の制度適用フロー
- 適用約款を特定する。
ICC(A)の版、保険証券、Certificate、特別約款、追加免責、War・Strikes等の付帯状況を確認します。 - 被保険貨物と請求者を確認する。
事故貨物が保険対象であるか、損害発生時に請求者が被保険利益を有していたかを確認します。 - 事故発生時期と輸送区間を確定する。
集荷、搬入、本船積載、揚港、搬出、配送、最終倉庫到着等を時系列に並べ、保険期間内かを確認します。 - 貨物の滅失・損傷を確認する。
事故前後の写真、数量、品質、外装、受領時リマーク、検品記録等から実際の損害を確認します。 - 損害原因を整理する。
衝撃、水濡れ、盗難等の偶然事故、梱包、貨物固有の性質、遅延等のどれが関係しているかを整理します。 - 除外事項を確認する。
一般免責、船舶・コンテナ等の不適合、戦争、ストライキ等の除外条件を順に当てはめます。 - 追加条件を確認する。
冷凍貨物、中古品、危険品、高額貨物等では、ICC(A)以外の貨物別条件や特別免責も確認します。 - 損害軽減と権利保全を行う。
損害拡大を防止するとともに、shipping line、freight forwarder、倉庫、陸上運送人等に対するクレーム権を失わないよう必要な通知と証拠保全を行います。 - 保険会社・保険代理店へ資料を提出する。
フォワーダー自身が補償可否を確定せず、確認資料と判断論点を整理して専門判断につなげます。
この順番の重要な点は、最初から「破損だから補償」「梱包不備だから免責」と結論を置かないことです。まず契約、期間、損害の事実を確定し、その後に原因と除外事項を当てはめます。
実務で問題になりやすいケース
| ケース | 主な原因・争点 | 確認資料 | 判断のポイント | 初動対応 |
|---|---|---|---|---|
| 精密機械が到着時に内部破損していた | 輸送中の衝撃か、緩衝材・固定不足か | 出荷前写真、梱包仕様、Shock Indicator、外装写真、Survey Report | 外装損傷の有無だけでなく、偶然事故と梱包不備の双方を検討する | 開梱状況を保存し、廃棄・修理前にサーベイの要否を確認する |
| コンテナ内で貨物が濡損した | 海水・雨水浸入か、結露・貨物水分か | コンテナ写真、シール、塩分反応、濡損分布、気象記録 | 水の侵入経路と貨物固有の性質を切り分ける | コンテナと貨物を同時に撮影し、濡損範囲を保存する |
| 冷凍・冷蔵貨物が変質した | 冷凍機事故、電源停止、設定ミス、遅延、貨物固有の性質 | Temperature Log、設定温度、PTI、出荷時品質資料 | 温度逸脱の事実だけでなく、物的損害との因果関係と特別条件を確認する | 温度記録を確保し、処分前に検査・サーベイを検討する |
| 数量不足が発見された | 盗難・不着か、出荷数量の誤りか | B/L、Packing List、CFS記録、Devanning Report、納品書 | どの時点で数量差異が発生したかを追跡する | 受領時リマークを残し、シール・開梱状況を記録する |
| 中古機械の部品欠損が判明した | 輸送中脱落・盗難か、出荷前からの欠損か | 出荷前写真、検品表、梱包明細、到着時写真 | 事故前状態の証拠が不足すると輸送中損害の立証が難しくなる | 中古品は付保前から状態写真を保存する |
| 港湾ストライキで貨物が滞留した | ストライキ行為による物的損害か、単なる遅延損害か | ICC(A)、Strikes Clauses、港湾情報、損害記録 | ストライキ危険の付帯だけで遅延損害まで補償されるとは限らない | 付帯条件と実際の物的損害を分けて確認する |
| 危険品・化学品が液漏れした | 外部衝撃、容器不適合、内圧、貨物固有の性質 | SDS、容器仕様、危険品申告、事故写真、検査報告 | 容器と内容物の適合性、事故原因、梱包免責を確認する | 安全確保を最優先し、専門業者・保険者へ早期連絡する |
| 予定外の倉庫保管中に事故が発生した | 通常の輸送過程中か、保険期間が既に終了していたか | 保険証券、倉庫指示、搬出入記録、配送計画 | 保管場所そのものより、保管目的とTransit Clause上の終了事由を確認する | 貨物を移動する前に保険会社・代理店へ輸送変更を通知する |
制度適用シナリオ1―精密機械の内部破損
事例:インボイス価格2,000万円の精密機械をICC(A)で付保した。最終納品先で木箱を開梱したところ、機械内部の支持部品が破損していた。木箱外装には大きな破損がなく、輸送途中の明確な落下事故も報告されていない。
まず確認するのは、「外装損傷がないから保険対象外」ではありません。ICC(A)では、ICC(B)・ICC(C)のように特定の列挙危険への一致だけを求める構造ではないため、保険期間中に偶然な破損が発生したことを資料から説明できるかを検討します。
次に、出荷前の正常状態、梱包仕様、内部固定、緩衝材、Shock Indicator、積付方法、到着時の開梱状況を確認します。輸送中の振動・衝撃による偶然な破損と説明できる可能性がある一方、通常の輸送上の負荷に耐えない固定方法であった場合には梱包不備免責が問題になります。
したがって、この事案の結論は「外装損傷なし=免責」でも「ICC(A)=補償」でもありません。事故前状態、輸送中の偶然性、梱包の適合性、損害との因果関係を順に当てはめて保険会社が判断する事案です。
制度適用シナリオ2―冷凍貨物の温度上昇
事例:インボイス価格800万円の冷凍食品をICC(A)で付保した。輸送途中にReefer Containerの温度が長時間上昇し、到着時に品質劣化が確認された。
この場合、「温度が上がった」という事実だけでは補償可否は決まりません。Reeferの機械故障、電源供給停止、設定温度の誤り、積込前の貨物温度、輸送期間、自然劣化等を分けて確認します。
機械故障等の偶然事故が保険期間中に発生し、その結果として貨物に物的な品質損害が生じたのであればICC(A)の補償検討に入ります。一方、出荷前から品質が劣化していた場合、貨物固有の性質が原因である場合、単なる輸送遅延が原因である場合には免責が問題になります。
さらに冷凍・冷蔵貨物では、標準ICC(A)だけでなく、温度管理に関する特別条件、免責時間、機械故障条件その他の追加約款が設定されることがあります。そのため、Temperature Logだけで結論を出さず、実際の保険契約全体を確認します。
制度適用シナリオ3―港湾ストライキと到着遅延
事例:インボイス価格1,200万円の季節商品が港湾ストライキにより14日間滞留した。貨物自体には破損がないが、販売シーズンを逃し、荷主が500万円の販売機会損失を主張している。
まず、通常のICC(A)ではストライキ等による危険が除外されているため、Institute Strikes Clauses等の付帯有無を確認します。しかし、Strikes Clausesが付帯されているというだけで、販売機会損失まで補償されるとは判断できません。
本件で請求されている500万円は、貨物自体の物的損害ではなく、到着遅延による経済損失です。ICC(A)では遅延を原因とする損害が除外論点となるため、貨物の物的損害と逸失利益を明確に分ける必要があります。
したがって、「ストライキ危険付帯=ストライキに関係する損失を全部補償」という当てはめは適切ではありません。原因となった危険、実際に発生した損害の種類、遅延との因果関係を個別に確認します。
よくある誤解
| 誤解 | 実際の考え方 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| ICC(A)ならどんな損害でも全部補償される | 広い危険担保ですが、一般免責、貨物固有の性質、遅延、戦争・ストライキ等の除外があります。 | 条件名だけでなく適用約款全体を確認します。 |
| 事故原因を特定できなければICC(A)でも必ず免責になる | ICC(B)・ICC(C)のように特定の列挙危険への一致だけを求める構造ではありません。 | 損害発生の事実、期間、偶然性、免責該当性を資料から整理します。 |
| 外装に傷がなければ内部破損は保険対象外である | 外装損傷の有無は重要な証拠の一つですが、それだけで補償可否は決まりません。 | 内部固定、衝撃記録、出荷前状態等も確認します。 |
| 梱包に問題が少しでもあれば全部免責になる | 梱包の不十分・不適合、実施者、実施時期、損害との因果関係等を確認する必要があります。 | 「梱包不備」という結果論だけで断定しません。 |
| Warehouse to Warehouseなら倉庫にある間は常に補償される | 通常輸送から外れた保管や最終倉庫での荷卸し等により保険が終了する場合があります。 | 保管場所だけでなく保管目的と輸送継続性を確認します。 |
| 揚港で荷卸し後60日間は必ず補償される | 60日は一つの終了基準であり、それより前に別の終了事由が発生すれば先に保険が終了します。 | 最終倉庫への荷卸しや通常輸送外保管の開始時点を確認します。 |
| 戦争・ストライキ危険はオールリスクに当然含まれる | 通常のICC(A)から除外されており、別途付帯条件を確認します。 | War、Strikes、Terrorism等を証券単位で確認します。 |
| 海賊行為は戦争危険だからICC(A)では必ず対象外である | ICC(A) 1/1/09の戦争免責では海賊行為について特別な取扱いがあります。 | 追加免責や航路条件も含め実際の契約を確認します。 |
| ストライキ危険を付帯すれば遅延損害も補償される | ストライキ行為による物的損害と、ストライキによる遅延損害は別の問題です。 | 損害の種類と因果関係を分離します。 |
フォワーダーの関与範囲対比
| 場面 | フォワーダーが支援できること | フォワーダーが断定すべきでないこと | 主な確認先 | 実務上の対応 |
|---|---|---|---|---|
| 付保依頼 | 貨物、区間、建値、希望条件等の情報整理 | 個別事故で必ず保険金が支払われること | 保険会社・保険代理店 | 貨物特性と輸送内容を正確に伝える |
| 条件説明 | ICC(A)がICC(B)・ICC(C)より広い条件であることの一般説明 | 個別免責の最終的な約款解釈 | 保険会社・保険代理店 | 広い担保と免責をセットで説明する |
| 事故発見 | 写真、受領書、運送書類、事故記録の収集支援 | その場での保険責任確定 | 保険会社・保険代理店・サーベイヤー | 廃棄・修理前に必要な証拠を保存する |
| 事故区間 | Booking、B/L、CFS、倉庫、配送記録の時系列整理 | 保険期間内事故であるとの最終判断 | 保険会社・保険代理店 | From、To、Via、実際の輸送履歴を照合する |
| 運送人への請求 | 事故通知、必要書類、関係事業者の特定を支援 | 運送人の法的責任や賠償額を一律に確定すること | Contracting Carrier、Actual Carrier、海事弁護士等 | 時効・出訴期間、約款上の通知期限に注意する |
| 保険金請求 | 必要資料を荷主と整理し保険側へつなぐ | 保険金支払の可否・金額を保険者に代わって約束すること | 保険会社・保険代理店 | 事実と主張を分けて資料化する |
事故対応時の判断チェックリスト
| 確認場面 | 確認する相手 | 確認事項 | 問題がある場合の対応 |
|---|---|---|---|
| 事故発見時 | cargo owner、倉庫、配送会社 | 外装、貨物状態、数量、受領時リマーク、発見日時 | 写真・動画を保存し、受領書へ適切なリマークを残す |
| 保険契約確認時 | 保険会社、保険代理店、社内保険担当 | ICC(A)の版、保険期間、貨物、区間、追加条件、免責 | 条件不明の場合は補償可否を断定せず証券を確認する |
| 輸送履歴確認時 | freight forwarder、shipping line、倉庫、配送会社 | 集荷、搬入、積載、揚港、搬出、納品の日時 | 事故発生区間を時系列で特定する |
| 梱包確認時 | cargo owner、梱包業者、倉庫 | 梱包仕様、固定、防水、防湿、実施者、実施時期 | 出荷前写真・梱包仕様を追加取得する |
| 貨物性質確認時 | cargo owner、メーカー、検査会社 | 品質特性、温度、湿度、腐敗、錆、自己発熱等 | 外部事故との因果関係を専門家・サーベイヤーと確認する |
| 損害額確認時 | cargo owner、修理業者、保険会社、サーベイヤー | 修理費、交換費、残存価値、廃棄費、物的損害額 | 遅延損害・逸失利益等を物的損害と分離する |
| 運送人への権利保全時 | Contracting Carrier、Actual Carrier、倉庫その他関係者 | 事故通知期限、クレーム期限、証拠、責任区間 | 保険請求だけに集中せず第三者への請求権を保全する |
| 廃棄・修理・売却前 | 保険会社、保険代理店、サーベイヤー | 現物確認、サーベイ、残存価値、処分承認の要否 | 証拠を失わないよう事前確認を行う |
損害軽減と運送人への権利保全
事故が発生した場合、被保険者は保険金請求書類を集めるだけでは足りません。損害の拡大を合理的な範囲で防止するとともに、shipping line、freight forwarder、陸上運送人、倉庫業者その他の第三者に対する権利を適切に保存することが重要です。
例えば、破損貨物をそのまま放置して損害を拡大させないこと、運送人への事故通知を行うこと、受領書に適切なダメージリマークを残すこと、サーベイ前に現物を廃棄しないこと等が実務上重要になります。
貨物海上保険者が保険金を支払った後は、保険者が運送人その他の責任主体に代位求償する場合があります。そのため、荷主やフォワーダーが初動段階で第三者への請求権を失わせないことは、保険事故処理全体に影響します。
保険会社・保険代理店・海事弁護士へ相談すべき場面
ICC(A)の一般的な説明と、個別事故の補償判断は分ける必要があります。特に次の場面では、フォワーダーだけで結論を出さず、保険会社・保険代理店、サーベイヤー又は必要に応じ海事弁護士等の専門家へつなぐことが重要です。
- 高額貨物で免責適用の有無が争われている場合
- 梱包不備と輸送中事故のどちらが主因か争いがある場合
- 保険期間の終了時点又は仕向地変更が争点となっている場合
- 共同海損、船舶事故、大規模火災等で多数の契約関係が関与する場合
- shipping lineやNVOCC等への求償期限が迫っている場合
- 英法上の約款解釈そのものが争点となる場合
- 保険者による免責判断と運送人責任の双方について争いが生じている場合
実務上のポイント
ICC(A)を扱う際に最も避けるべきなのは、「オールリスクだから出る」「破損だから出る」「梱包不備だから出ない」と事故名や一つの事実だけで結論を決めることです。
実務上は、①どの保険契約・約款が適用されるか、②誰が損害時の被保険利益を持っていたか、③いつどこで損害が発生したか、④貨物にどのような物的損害が生じたか、⑤その原因をどの資料で説明できるか、⑥免責・除外事項が適用されるか、⑦第三者への権利が保全されているか、という順番で確認することが重要です。
ICC(A)は補償範囲が広いからこそ、「広い条件を選んだ」という説明よりも、事故発生時に原因、期間、梱包、貨物状態、輸送履歴を証拠で説明できる状態を作っておくことが重要になります。
まとめ
ICC(A)条件は、ICC(B)条件やICC(C)条件と比べて広い補償範囲を持つ代表的な貨物海上保険条件です。限定された危険名だけに補償を絞るのではなく、保険期間中の貨物の滅失・損傷を広く検討し、約款上の除外事項を当てはめる構造が基本となります。
一方で、被保険者の故意、通常減耗、一定の梱包不備、貨物固有の性質、遅延、一定の船舶・コンテナ等の不適合、戦争危険、ストライキ等は重要な除外論点です。また、Warehouse to Warehouseも無期限の倉庫保険ではなく、約款上の開始・終了条件によって保険期間が決まります。
事故時には、保険条件だけでなく、事故前後の貨物状態、梱包、輸送区間、発生時期、原因資料、追加約款、第三者へのクレーム権まで一体として確認する必要があります。
外航貨物海上保険は、保険料だけでなく条件と事故時の証拠管理によって結果が大きく変わります。付保条件の選択、特殊貨物の引受条件、個別事故の補償可否又は約款解釈については、専門の保険会社・保険代理店へ確認することが重要です。
